ワクチン被害者の子供たちの大量誘拐の目的は?ー中山七里「ハーメルンの誘拐魔」

若い頃は俳優養成所に通っていた経歴をもつイケメンで女性の嘘は全く見抜けないが、男の嘘は確実に見抜く、組織の枠から外れっぱなしの敏腕刑事なのですが、職務中に知り合った被害者との浮気が原因で「バツ2」となり、腎臓病で療養中の実の娘からは冷たい扱いをされている、警視庁捜査一課の刑事・犬養隼人を主人公にしたミステリーの第3弾が本書『中山七里「ハーメルンの誘拐魔」(角川文庫)』です。

「切り裂きジャックの告白」では、埼玉県警の古手川とコンビを組んで、臓器移植に関連した連続殺人事件を解決したのですが、今巻では、警視庁の捜査一課の紅一点の刑事で、器量はそこそこなのだが、なにかと犬養につつっかかってくる女性刑事・高千穂明日香を相棒にして、子宮頸がんワクチンにからむ連続誘拐事件の謎に挑みます。

【構成と注目ポイント】

構成は

一 失踪
二 確執
三 拡大
四 追跡
五 記憶
エピローグ

となっていて、まず最初の誘拐事件は、 子宮頸がんワクチンの後遺症のせいなのか、記憶障害にかかかっている少女・月島香苗と母親の綾子と一緒に飯田橋にあるメディカルセンターで診察後、神楽坂の商店街を 買い物中、何者かに連れ去られるところから開幕します。母親がドラッグストアに入って買い物をしている間に行方がわからなくなったというもので、彼女は三歳児なみの地理感しかなく、自分でどこかにいくはずはなく、おそらくは誰かに連れ去られたもので、ドラッグストアの自動ドアのガイドレールのところに、彼女の生徒手帳と「ハーメルンの笛吹き男」(バイドパイパー)のポストカードが見つかります。

ハーメルンの笛吹き男というのは作中にも紹介されているのですが、もドイツの伝承をグリム兄弟が童話として編纂したもので、ハーメルンの町にあふれていたネズミを笛でおびき寄せて川で溺死させて退治した男が、その報酬を町の人が渋って払わないことに腹をたてて、子供たちをその笛で集めて山の洞窟の中に連れて行ってしまう、というものですね。
このポストカードが見つかったときにはまだわからなかったのですが、これが連続誘拐事件の始まりとなります。

この事件の捜査本部の参画した犬養と明日香は、誘拐された少女の母親が、子宮頸がんワクチンの被害者の会の責任者をしていて、娘の闘病記録を綴ったブログで有名な人であることを知り、これが誘拐の原因となっているのでは、と推理を巡らすことになります。

第二の誘拐事件も、この子宮頸がんワクチンの関係者の娘がターゲットになるのですが、今度は被害者ではなくて、ワクチン接種を推進している医者の団体の会長です。その会長の娘・槇野亜美は、通っている高校あら同級生と下校途中、神社に忘れたスマホを取りに行って、そのまま行方がわからなくなってしまいます。その神社にも、彼女の忘れたスマホと一緒に「バイドパイパー」のポストカードを負いてあった、という筋立てです。

数日のうちに少女二人が誘拐されるのですが、この2つの誘拐事件の奇妙なところは、犯人から身代金の要求など被害者への接触がまるでなかったことだったのですが、第三の誘拐事件として、子宮頸がんワクチンの被害救済を国会議員と厚生労働省へ訴えてきたいた被害者の少女5人が同時に誘拐されたところから、身代金要求が動き始めます。
なんとその要求総額は70億円で、受け取り場所は「大阪浪速区」。しかも、身代金の捻出先を、ワクチンを製造販売している製薬会社とワクチン接種の推進を図る医師団体を指定して、世間の非難をそらすという巧妙な手段を講じてきます。
この身代金の受け渡しに、犬養と明日香が大阪へ出張し、大阪府警のメンバーと大捜査線をひいて犯人逮捕を目指すのですが、犯人は、相撲の大阪場所の優勝パレードの日に受け渡しの日をぶちあて、しかも、水路の多い大阪の地理的特徴を活かして、まんまと70億円を奪い取るのですが、そのあたりの息詰まるような駆け引きは、原書のほうで読んでもらったほうがいいですね。

しかし、警察の裏をかいたこの身代金奪取の見事さから、犬養は、犯人と内通している人物が関係者の中にいるのでは、と疑い始め、そこから一挙に誘拐犯が明らかになっていくのですが、なんとその正体は・・、という展開で、少しネタバレ的にいうと、クリスティの「オリエント急行殺人事件」っぽい感じになってきます。

ただ、ここで素直に物語が収束していかないのが、この筆者らしいところで、今回もその先に、さらに秘密の扉があって、黒幕が隠れているので、最後の最後まで油断はできないので気をつけて読んでいきましょう。

レビュアーから一言

本巻の誘拐事件の犯行証明として使われる「ハーメルンの笛吹き男」が何を表しているのかは諸説あるようで、本書の中でも、自然災害や疾病による子供の大量死の記録であるとか、ハーメルンの市民軍が戦乱で壊滅したことの暗喩であるとか、相続権のない次男たちが耕作地を求めて、東ヨーロッパに移住したことを表しているといった説が紹介されてます。
たしか、浦沢直樹の「Masterキートン」でも、天然痘の種痘を受けた子どもたちがジプシーたちに連れられて天然痘の流行する東ヨーロッパへ行き、住民の生命を救ったという伝説の発端では、といった話があったような気がします。筆者は、子供の大量誘拐だけでなく、ワクチンつながり的なことも象徴させているのでしょうか、謎は深まりますね。

Bitly

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