ピアニスト探偵は演奏会妨害に潜む家族の葛藤を見抜くー中山七里「おやすみラフマニノフ」

凄腕の検事正の父親をもち、自らも司法試験でトップで合格し司法修習が終了すれば「法曹」の道へ進むと確実視されていながらも、自分の希望を通してピアニストの道を選んだ名探偵「岬洋介」を主人公にした、音楽ミステリーの第2弾が『中山七里「おやすみラフマニノフ」(宝島社文庫)』です。

前巻で、失火による火事で大火傷を負ったピアニストを目指す女子高校生が、火傷による皮膚移植によるハンディキャップや遺産相続による殺人や殺人未遂事件を乗り越えながら、ピアノ・コンクールの優勝目指してが頑張る姿と、火事がもたらした悲しい真実が描かれていたのですが、今巻は「愛知音楽大学」を舞台にしておこる名器の盗難事件の謎に、ピアニスト兼名探偵の「岬」が挑みます。

構成と注目ポイント

構成は

プレリュード
Ⅰ アッファンノーソ ピアンジェンド
  ~悩ましく嘆きながら~
Ⅱ アンゴショーソ スピエガンド
  ~ 不安がだんだん広がるように~
Ⅲ アッチャカート デリランテ
  ~激しく嵐のように~
Ⅳ コン・カローレ デチーゾ
  ~情熱をこめて決然と~

となっていて、まずプレリュードのところで、大学の楽器保管室から、そこに保管されているストラディバリウスのチェロが失くなる、という事件から始まります。その保管室には入口にガードマンも配置されている上に、出入りしたのは身元の確かな教員とコンクールの出場に選抜された学生だけ。しかも、楽器は子供くらいの大きさがあるで持ち出せばすぐわかるはずなのに、一体誰が、どうやって、という謎が最初に提示されることとなります。

今巻の舞台となるのは、愛知音楽大学という音楽専門の大学で、主人公はそこの「ヴィルトゥオーソ科」(プロの演奏家養成の学科のようですね)に所属し、ヴァイオリン専攻の「ボク」こと「城戸晶」という男子生徒ですね。彼は古い旅館の一人息子で、プロの音楽家を目指して挫折した母親の遺志を継いでプロの音楽家の道を目指しているのですが、なかなか目が出ず、さらに旅館を経営している祖父の体調が悪くなり、仕送りも途絶えがちで、学費や授業料の工面に切羽詰まっていて、納入できなければ退学やむなしというところまで追い詰められているという状況ですね。

そんな彼が、起死回生の手として考えたのが、この大学で毎年開催される、学長で有名ピアニスト・柘植彰良がピアノを務める定期演奏会のメンバーになることです。このメンバーとなれば、特待生扱いとなって授業料などもろもろの経費が「免除」になるほか、大学が所蔵しているストラディバリウスなどの名器を使って演奏できる、という特典付きです。この特典を勝ち取るため、教員たちの冷たい目線をはねのけて猛練習し、ガールフレンドである学長の娘のチェリスト・柘植初音の応援と、この大学の臨時講師をしている、このシリーズの名探偵兼ピアニストの岬洋介のアドバイスを受けながら、晴れて「コンマス」の座を勝ち取ります。ここらへんは第一作の「さよならドビュッシー」と同じように、音楽をテーマにした「スポ根」的な味わいですね。コンマスの特権として、大学所蔵のストラディバリウスのヴァイオリンを演奏会に使うことが許可される喜んで練習している矢先に、初音が使うはずのチェロのストラディバリウスの方が紛失してしまうという展開です。

この盗難事件はおそらく、定期演奏会が開催されることを妨害しようとしてのことに間違いなく、それからも、アメリカにある姉妹大学から医療用大麻が密輸されているという事件や、学長が定期演奏会の時に演奏する予定のスタインウェイのピアノに水がかけられ、使用不能になったり、学長の殺害予告が届くなど、次々と妨害工作が続きます。

こんなことから、演奏会の出場メンバーの結束はボロボロ。コンマスとしてオーケストラをまとめる役目の主人公がいくら頑張っても、まとまりが生まれるはずもなく、おまけに恒例で定期演奏会の指揮者を務める予定の「ヴィルトゥオーソ科」の指導教官がそれを辞退するという事態に。さらに、学長のピアノに水が掛けられていた時、犯行に使われたペットボトルに主人公の城戸晶がわざと指紋をつけたところを演奏会のメンバーが目撃していて一連の事件の犯人は「晶」ではと糾弾が始まります。

ここで、探偵役として登場するのが「岬洋介」。かれは、指導教員が辞退した指揮者を引き受け、犯人を定期演奏会終了後に処断することを確約し、この場をおさめます。
そして、定期演奏会終了後、岬が明らかにした真犯人は「晶」ではなくて・・・という筋立てなのですが、真犯人とストラディバリウスのチェロが消えたトリックは原書のほうで。ここで真犯人になんとなく気が付いたあなた、筆者はさらにその先に大どんでん返しを用意しているので、油断してはいけませんよ。

今回は、謎解きとあわせて、「ラフマニノフ」を中心とした音楽談義と、才能に見切りをつけて惰性で学生生活をおくっている主人公が定期演奏会というチャンスに、演奏家として目覚め、成長していく姿が描かれるという欲張りな物語となっています。第一作の「さよならドビュッシー」の音楽スポ根的な感じがお好きな人にはこの作品もしっかり楽しめる出来だと思いますのでおススメです。

レビュアーからひと言

本巻は時間的には冒頭のこところで岬の演奏するチャリティコンサートのシーンであるとか、学長の定期演奏会欠席が決まった後、代役のピアニストとなる「下諏訪美鈴」を説得する材料が、彼女が「アサヒナ・ピアノコンクール」で事故から復帰したばかりの高校1年生の少女に敗北したトラウマを上手く使ってであったり、と第一作の「さよならドビュッシー」とシンクロしたような展開になっています。第一作では、罵詈雑言と悪意を浴びせかける「悪の権化」のような彼女の本当の姿が垣間見える仕上がりになっているので、第一作で「美鈴憎し」の」思いを感じている読者は、この第二作も読んでおいたほうがよいと思いますね。

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