ゾウの逃亡事件に隠された外国の陰謀とはー似鳥鶏「七丁目まで空が象色」

楓ケ丘動物園のアミメキリンの飼育員「桃くん」こと桃田くんが、コジラセ系のツンデレ美人獣医・鴇先生、爬虫類館の変態飼育員・服部くん、動物園の広告塔のアイドル飼育員・七森さやちゃんたちと、動物園の動物たちの周辺でおきる珍事件の解決をする動物園ミステリーの第5弾が『似鳥鶏「七丁目まで空が象色」(文春文庫)』。

あらすじと注目ポイント

今巻の事件では、このシリーズの主人公である「モモくん」の従兄弟の「桃本誠一郎」くんが登場します、誠一郎の動物好きは、「モモくん」の影響であるらしく、飼っていたウズラが死んだ時に、一時期、動物に距離を置いていた時期もあるようですが、親の勤務の関係で、東南アジア各地を転々とし、現地の大学を卒業した後、「モモくん」と同じ職種の飼育員として「山西市動物公園」に採用されたという経緯です。今回は、マレーバクの飼育方法をおしえてもらうため、いつもの「飼育員」探偵のメンバーが、山西市動物公園に研修にやってきたところで事件がおきます。

4人の飼育員探偵たちと、桃本誠一郎くんをはじめとする山西市動物公園の飼育員が面談しているときに、動物園内で大量の爆竹が鳴らされ、動物園内のいる人達が驚いているうちに、本命の事件、アジアゾウ舎に収納されていた、中国の竹海野生動物園から来たばかりの藍天(正式には「ランティエン」という名前で「藍」が中国簡体字表記です)が逃げ出してしまうという事件がおきます。本書によれば「動物園飼育員の死亡事故が一番多いのはトラでもコブラでもない。ゾウなのだ」ということで、あの牧歌的な風貌に騙されてはいけないようですね。

そして、動物園スタッフと飼育員探偵たちは協力して麻酔銃による沈静化や、ワゴン車を使った物理的な阻止などで、この「藍天」を園内に止めようとするのですが失敗。ゾウは駐車車両などを破壊しながら園外に出てしまうのですが、この時に、「モモくん」の従兄弟の桃本誠一郎が中国語で指示を出してなんとか気を鎮めることに成功します。その後、何かを探すように園外へと進んでいく「藍天」に彼が付き従っていく流れとなりますね。

この「藍天」がゾウ舎から外へ出たのは、いつもゾウの世話をしている中島飼育員が当日休暇をとっていた、ということもあるのですが何者かがゾウ舎のカギを解錠して、ゾウを外に出るように誘導していたらしく、爆竹爆発とあわせて誰かの謀みが感じられるところでありますね。

このときに、鴇先生や「モモくん」たち飼育員探偵は、第2弾の鳥インフルエンザ拡散未遂事件で知り合った週刊文椿の北村記者の同僚の「平尾真琴」という女性記者と知り合います。彼女からは、今回の「藍天」の中国からの輸入に絡んで、山西市動植物園が中国の動物園との間に密約があるといったタレコミなどのいろんなアングラ情報をもらうことになるのですが、この女性はタダの週刊誌記者の枠におさまらない意外な曲者なので覚えておきましょう。

物語のほうは、園外に出てどこかへ向かって進んでいくアジアゾウ「藍天」に随行しつつ、ゾウを園内へ戻そうと試みる誠一郎の動きがまず描かれるのですが、これとあわせて、ゾウ舎のカギを開けてゾウを外へ連れ出した中国人三・四人の怪しいグループの存在が明らかになり、このグループの捜索を始める鴇先生や「モモくん」「七森さや」ちゃん、「服部くん」という飼育員探偵の捜査活動が並行して展開していきます。さらには、アジアゾウだと思っていた「藍天」が闘争しているうちに、アジアゾウの特徴をなくし、アフリカゾウにような風貌に変わっていくなど奇妙な変化をみせます。どこかでゾウが入れ替わったのか、といった疑惑も生まれるのですが、これは物語の最後のほうで明らかになる「藍天」の出生の秘密と一緒に種明かしがされるので、原書のほうで確認してくださいね。

そして、動物園のゾウ担当である中島飼育員が、その中国人グループに拉致されていることがわかり、その隠れ家に、飼育員探偵たちが救出に向かうのですが、ここでやはり、鴇先生のパワーが炸裂し・・・、ということでお決まりのアクションシーンがあるので、鴇先生ファンの方はお楽しみに。これに加えて、今回は、警察の特殊部隊とゾウの「藍天」の間に、七森さんがバイクで誠一郎くんをつれていって割って入って、ゾウの射殺を食い止めるというシーンもあって、「七森さやちゃん」ファンにも満足できるアクションシーンとなってます。

で、中国人グループも検挙し、救出した中島飼育員の誘導で、「藍天」も動物園に帰還し、ということで全て丸くおさまるのですが、実はこの事件の裏に、中国で起きていたマンモス復活プロジェクトをめぐる陰謀と「週刊文椿」記者・平尾真琴の真の姿が隠れているのですが、詳しいところは原書のほうで。ドンデン返しにつぐドンデン返しのミステリーになってます。

レビュアーから一言

今巻では、ゾウの逃亡事件と、今巻のメインキャストである山西市動植物園の新米飼育員で「モモくん」の従兄弟・桃本誠一郎くんの、幼い頃の「ウズラ」のぴーちゃんとのトラウマのような動物体験と織り交ぜながら書くことで、実は人間がわかっているつもりになっているだけかもしれないペット心理といったものも描かれています。
ペットのほうからすると単なる「気まぐれ」の行動に、人間のほうが勝手に一喜一憂していることが多いのかもしれないですね。

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