戦国時代の物語というと、織田信長や豊臣秀吉や今川義元の活躍する尾張・駿河や、武田信玄や上杉謙信の激突した甲信越の話が中心となることが多いのですが、応仁の乱以後の戦乱は、日本中でおきていて、中国地方や九州地方、東北地方でも激しい戦が繰り広げられています。
特に、九州は鎌倉以来の名門武家や伝統のある神社勢力も健在で、山岳勢力や海賊勢力もあった地域なので、その戦もすっぱりと割り切れたもではなく複雑な展開をみせていたようです。
その中でも、キリシタン大名として有名な大友宗麟の時代を舞台に、大友家の内乱を描いたのが本書『赤神諒「大友落月記」(日本経済新聞社)』です。

構成と注目ポイント
構成は
第一章 峠道
一 白い月
二 滝室坂
第二章 武人の約束
三 山蛭とかび生柿
四 雪女と磯女
第三章 文官たちの戦
五 大内瓢箪
六 不慣れな戦場
第四章 静かな雨
七 南関城
八 秋木立ち
第五章 欠け
九 青雨
十 謀計
第六章 肥後の王
十一 星のさだめ
十二 鬼の使い道
第七章 月、堕つるとも
十三 杏葉旗に背きて
十四 燦として
十五 夕蛍
となっていて、年代的には弘治元年(1555年)の頃なので、織田信長が今川義元を破った桶狭間の戦(1560年)の5年前、上杉謙信と武田信玄が実際に戦戈を交えた犀川の戦いのあった第二次川中島の戦の頃です。時代感覚としては、まだ天下統一なんてのは夢のまた夢で、足利幕府の権威も健在といったところでしょう。
本巻の物語の主人公は、「吉弘嘉兵衛鎮信」という武将で、本巻の前巻となる「大友二階崩れ」で反乱軍側についたとされて失脚した吉弘鑑理の跡継ぎですね。彼は、父の失脚後、新しい領主となった大友義鎮(宗麟)の近臣・田原民部に仕えています。
この田原民部というのが野心満々の人で、彼が大友家の中で権勢を握るために、嘉兵衛は彼の謀臣として働かされている、という設定です。やり方は、大友家の一族で、父・鑑理を失脚させた張本人である田原宗亀と「他紋衆」といった大友家が豊後の国を治める以前からこの地に勢力を張っていた武家の頭目格である小原鑑元との対立を煽るというものなのですが、小原鑑元の調略を嘉兵衛が進めているうちに、鑑元の娘「杏」と恋仲になって・・・、という展開ですね。
この過程の中で、「豊後」という大友家にとっては占領地であるところを、人徳で治め。信頼を得ている「小原鑑元」という武将の清々しさや、大友家の中で一番の武勇を誇り、「鬼」と呼ばれる戸次鑑連の苛烈でありつつも情のある武将ぶりであるとか。「九州男児」の原型をみる感じがしてきますね。
残念なのは文官たちのほうで、田原民部の謀略倒れであったり、主君である大友義鎮(宗麟)が色狂いであったり、とこのあたりに大友家が一時は九州の1/3と伊予の一部まで勢力圏内におさめていながら、衰退していった原因が隠されているのかもしれませんね。
レビュアーから一言
物語的には、悲恋ものとも、忠義の心を秘めながら討ち滅ぼされる戦国無情ものともいえるのですが、周囲をひたひたとつめてくる「毛利」の影であったり、じわじわと侵食を始めてくる島津の波といった戦国の大きな流れを感じさせるところがあります。内訌がなく、九州が大きくまとまっていたら、戦国時代末期の天下統一の様相も変わっていたかもしれません。
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