親友の窮地を救うため、ピアニスト探偵が降臨ー中山七里「合唱 岬洋介の帰還」

凄腕の検事正の父親をもち、自らも司法試験でトップで合格し司法修習が終了すれば「法曹」の道へ進むと確実視されていながらも、自分の希望を通してピアニストの道を選んだ名探偵「岬洋介」を主人公にした、音楽ミステリーの第6弾が『中山七里「合唱 岬洋介の帰還」(宝島社)』です。

第3弾の「いつまでもショパン」でポーランドで開催される世界屈指のピアノコンクール「ショパン・コンクール」で惜しくも優勝を逃したのですがパキスタンの戦闘を止めた「奇跡の5分間」で優勝者より有名になり、世界をまたにかけて活躍するピアニストとなった岬洋介が、司法修習生時代の友人・天生検事の殺人疑惑を果たすために再び探偵として復活します。

構成と注目ポイント

構成は

Ⅰ アレグロ マ ノン トロッポ,ウン ボーコ マエストーソ
Ⅱ モルト ヴィヴァーチェ
Ⅲ アダージョ モルト エ  カンタービレ アンダンテ モデラート
Ⅳ プレストーアレグロ アッサイ
Ⅴ 合唱 「おお友よ、このような音ではない」
エピローグ

となっていて、まずは、今巻での最初の事件である、ヤク中の容疑者・仙街不比等という男性が、富裕層の子どもたちが通う幼稚園に押し入り、教諭二人と園児三人を刺殺して逃走するシーンから開幕です。犯人は就職氷河期のせいでフリーター生活を長くおくっていて世間に恨みを抱いていて、その鬱憤を晴らすために幼稚園へ侵入して殺人を犯したという卑劣なものなのですが、逃亡中に覚せい剤を服用します。刑法39条の「心身喪失・心身耗弱」によって罪を免れようというつもりですね。

この犯人の裁判の検察側として捜査にあたるのが、岬洋介と司法修習時代の同期で、当時起きた事件がきっかけで友人となった天生高春検事です。かれは修習生時代から検事志望で、上昇志向も強かったのですが、ある事件で不起訴処分をせざるをえなかったという一回の失点を除けば順調に出世街道を邁進している、という設定です。

しかし、この事件の捜査の最中に、立ち会いの検察事務官・宇賀麻沙美が急な体調不良で席を外している時に、彼も突然の眠気に襲われ意識を失っているうちに、犯人が、別件の事件で天生検事のところへ届けられていた「トカレフ」によって射殺。その硝煙反応とかが「天生」のスーツなどに付着していたという状態で部屋に帰ってきた「宇賀」によって発見される、という流れです。

現役の検察官が、心身喪失で罪を免れようとする犯罪者に私的制裁を加えたという事態を重くみた検察庁は組織を挙げて天生の処罰に向かってくることとなり、取調べと訴訟指揮を取るのが、敏腕で有名な岬洋介の父親の岬検事となります。天生が直面するのは、強大な検察権力を前に、弁護を、引き受けるものもなく、というピンチですね。

このピンチの救世主となるのが、ピアニストとしてヨーロッパで演奏会中の岬洋介で、司法修習生退所時の、天生との「自分が何かの弾みで被告人になったら助けに来い」という約束を果たすために、演奏会をキャンセルして帰国。さらに、弁護士として、岬検事の天敵である御子柴を雇って天生の冤罪を晴らそうと乗り出します。

ただ、検察庁の検事取調室での現行犯逮捕で、犯人射殺の物証もしっかり揃っているというアゲインストの状況には変わらず、事態を打開するため、なにかの手がかりにならないかと、仙街が殺害した三人の園児たちの家庭を尋ねるのですが、そこで一人の園児の祖父が過去、過失運転によって多数の人を殺傷した加害者であることが判明するのですが、これが、仙街の幼稚園襲撃事件と、彼が射殺された事件の両方の真実を明かす鍵となるのですが・・・、という展開です。

突然の怪我で法廷に建てなくなった御子柴に変わって特別弁護人となった岬洋介と岬検事との親子対決をお楽しみください。

レビュアーから一言

キャストがクロスするのが中山作品ではよくあるのですが、今回は、「岬洋介シリーズ」に「犬養隼人シリーズ」「御子柴礼司」シリーズ、「ヒポクラテス」シリーズのメインキャストたちが揃い踏みするという豪華なキャストになっています。
特に、「ヒポクラテス」シリーズの「光崎」教授が岬検事をやり込めるところは圧巻で、このキャストでないと読めないとっておきのシーンですね。

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