三木笙子「人形遣いの影盗み」ー雑誌記者探偵が明治の闇に潜む謎を解く

「帝都探偵絵図シリーズ」の第3弾

司法大臣の養子で、兄を差し置いて家を継がそうとする養父母のもとをでて下宿生活をしている「帝都マガジン」の雑誌記者・里見高広をホームズ役、有名な日本画家を父に持ち、端正な顔立ちと天才的な才能をもつ天才西洋絵画家・有村礼をワトソン役にして、明治時代後期に帝都・東京でおきる奇妙な事件の数々を解き明かしていく「帝都探偵絵図シリーズ」の第3弾が本書『三木笙子「人形遣いの影盗み 帝都探偵絵図」(創元推理文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第一話 びいどろ池の月
第二話 恐怖の下宿屋
第三話 永遠の休暇
第四話 妙なる調べ奏でよ
第五話 人形遣いの影踏み
第六話 美術祭異聞

の六編

第一話 びいどろ池の月

まず第一話の「びいどろ池の月」の舞台は、新橋の「びいどろ」というお茶屋・お茶屋というのは、今は「死語」にちかいと思うのですが、芸者さんなどを読んでどんちゃんとお座敷遊びをする貸座敷で、「待合」とも呼ばれたところで、第二次ていs年後は廃れていったようですね。同じ「お茶屋」「待合」という名前でも、政治家が贔屓にしていて、そこで政治の密談もされた高級なところから、娼婦宿に近いところまであったようですが、本書の舞台は前者のようですね。
事件のほうは、このお茶屋に呼ばれることの多い芸者の「花竜」がこの茶屋に行けば、好きな学校に入れてもらえる手配をしてもらえるという替え玉受験の話をききつけるのですが、その黒幕が自分を贔屓してくれるお客なのでは、という疑惑をもつもの。彼女が通っている私塾の貧しい同級生の女性や、「びいどろ」で行方をくらました女中が絡んで、組織的な犯罪をおもわせる展開をしていきます。

第二話 恐怖の下宿屋

第二話の「恐怖の下宿屋」は、本作のメインキャストの探偵役・里見高広の下宿屋でおきかけて、おきなかった事件。この下宿の大家は、梨木桃介といって、強面の顔つきながら、無類の世話好きで家事万端が行き届き、料理の名人という変わった大家です。
この下宿の近辺では、最近、空き巣狙いが横行していたのですが、腹を空かしている人物をみかけると、美味い手料理をご馳走するかわりに、下宿の掃除や水汲み、薪割りを手伝わせるのを通例としている「桃介」が、知らないうちに、窃盗団が下宿に盗みに入るのを防止し、さらには犯人の一人を自首させてしまうという「善人」話ですね。

第三話 永遠の休暇

第三話の「永遠の休暇」は、謙虚な名探偵・里見高広の友人画家・有村礼が絵画を教えている子爵家のお嬢様からの依頼です。このお嬢様の家は徳川将軍家にもつながる名門中の名門なのですが、彼女によると家を継ぐ予定であった長兄が、次兄によって島流しにされた、ということで、今の子爵家は、妾腹の次兄が継いでいるので、いわゆる世継ぎ争いがあった、ということですね。
彼女によると家を継いでいる現子爵はとても冷酷だということなのですが、島流しにされた兄と弟の仲は非常に良かったという話や、死んだ家族の墓参りを欠かさないという使用人の証言もあって、「島流し」の裏には何か秘密があるのは、と推理した里見は、ある国の独立運動の存在が陰にあることに気付き・・・という展開ですね。

第四話 妙なる調べ奏でよ

第四話の「妙なる調べ奏でよ」は、有村礼の「ホームズ愛」があふれる話です。里見が悪友から得た情報によると、密輸や故買の舞台となっている料亭で、日本人と英国人の二人の男と密談を繰り返しているという話です。
その密談の様子を盗み聞きすると、「礼」は英国の雑誌に掲載される「ホームズ」もの新作の挿絵画家となれるチャンスがきているらしく、前のめりになっている様子がわかるのですが、その相手は詐欺師として有名な男で・・、という展開です。

第五話 人形遣いの影踏み

第五話は「影を盗まれた」と思い込み、自宅に引きこもってしまった政治家の奥方の悩み事解決に端を発する事件です。彼女は、議員の奥方たちに集まる会合で、ジャワの影絵使い出会い、そこで影を失ったと思い込んだようです。この謎を解くよう、養母から頼まれた高広は、夫人の周辺の調査をすすめるうち、彼女が夫の権勢を利用して、会合を開く料理屋の料金を踏み倒したり、賄賂をとったりしているという黒い噂を聞きつけます。そして、このジャワの影絵を使って影の盗難に「怪盗ロータス」が絡んでいるのでは、という疑いもでてきて・・・、という展開です。
少しネタバレすると、謎解きの依頼者だからといって「善玉」とは限らない、というところですね。

第六話 美術祭異聞

第六話の舞台は、東京美術学校。今の東京芸大ですね。ここで数年ぶりに開催される学生たちの作品展示をする「美術祭」で第六講義室を使う、という脅迫状が届く、というのが発端。最初、悪戯かと思われていたのですが、展示所で展示していた教員の絵が切られるという事件がおきます。犯人を見たという教員の話では、白髪頭の小さなお婆さんが包丁で切り裂いたというのですが、絵画はかなり高い位置に飾られているのですが・・、という筋立てです。

レビュアーから一言

最近は「鬼滅の刃」ブームで、大正時代にスポットがあたっている感があるのですが、本書はその少し前の明治時代後期、日露戦争が終わって、日本が軍事強国として存在感を出し、国あげて意気盛んな頃が舞台となっているので、謎の根底にあるのも裏口入学であったり、政治家の汚職であったり、帝国主義の国家的陰謀であったりして、「日常の謎」系のミステリーとはちょっと趣向の違う感じが漂います。
語り口も少し「古色」をつけた感じがあるので、時代物ミステリーのお好きな方にもオススメです。

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