凶悪殺人に隠された三重のどんでん返しー中山七里「連続殺人鬼カエル男」

「連続殺人鬼 カエル男」のネタバレと読みどころを一挙紹介

犯行現場にひらがなの稚拙な字で「きょう、かえるをつかまえたよ。」で始まる犯行声明を残し、名前の頭文字の五十音順に殺人を重ねていく猟奇的殺人者・カエル男と、埼玉県警の凶暴な顔つきながら博識と鋭い推理力で知られる渡瀬警部と、推理より先に体が動く熱血漢・古手川刑事との対決を描いたシリーズの第一弾が『中山七里「連続殺人鬼カエル男」(宝島社文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

一 吊るす
二 潰す
三 解剖する
四 焼く
五 告げる

となっていて、まずは、入居者が総戸数の1割程度しか入っていない極度に不人気なマンションで変死体が発見されるところからスタートします。

「あ」から「い」の殺人事件

そのマンションに新聞を配達している販売員が、そのマンションの13階で、全裸でブルーシートにくるまれ、口からフックを挿し込まれた状態で女性が吊るされているのを発見する、というのが今巻の連続殺人事件の始まりで、近くには「きょう、かえるをつかまえたよ。はこのなかにいれたいろいろあそんだけど、だんだんあきてきた。・・・みのむしのかっこうにしてみよう。くちからはりをつけてたかいところにつるしてみよう」と書かれた犯行声明っぽいメモがおちていた、という不気味な殺人ですね。
被害者は「荒尾礼子」という名前で地方出身のOLで、会社からの帰り道に拉致され、絞殺されたようなのですが、乱暴されたあとはありません。彼女には、最近別れたばかりの恋人がいることがわかり、別れ話のもつれからの殺人容疑が、この恋人・桂木にかかるのですが、これはフェイクなので注意しておいてくださいね。

第二の事件の犠牲者となるのは、元中学校の校長先生をして、定年退職後、年金生活をおくっていた「指宿千吉」という男性です。彼は後頭部を鈍器で殴られた後、絞殺され、そのあとで車をつぶすプレス機にかけられるという無残な殺され方をしていて、今回も「「きょうもかえるをつかめえたよ・・」で始まる人を馬鹿にしたような犯行声明文が遺されています。

この二つの事件に共通点はなく、捜査にあたり渡瀬と古手川は、「猟奇殺人」「快楽殺人」の方向で調べを進めていきます。ここで精神障害治療の権威で、自らの娘と孫を殺されている「御前崎教授」に治療した患者情報の提供を求めるのですが、これはあっさり拒否されてしまいます。仕方なく、彼らは警察本部内の犯罪のデータベースをコツコツと調べ、「当真勝雄」という、数年前に幼女監禁・殺害で逮捕されたのですが、カナ―症候群による心神喪失のため保護観察処分となった18歳の男性の存在にいきあたります。
そして、渡瀬と古手川は、彼に音楽療法を施しながら保護観察をしている、35歳の若い保護司でピアノ教室を営んでいる「有働さゆり」からいろんな情報を聞き出すことになるのですが、彼女へ古手川が姉のような思慕を抱くところから物語がちょっと「甘い」感じになります。実は、ここらへんにも作者の「どんでん返し」の技の仕込みが始まっているので注意しておかないといけないですね。

事件は「う」から「え」へ

そして、事件のほうは、被疑者の重要な参考人的な立ち位置にあった「さゆり」の家族へと降りかかります。夜の9時頃にコンビニに文房具を買いにでかけた「さゆり」の息子の真人が、殺されて、開腹され内臓を摘出された状態で殺されているのが発見されます。この三番目の殺人の記者会見の中で、渡瀬が気づきながら隠していた秘密、被害者に共通しているのは、その名前が「あ」「い」「え」と「五十音順」に並んでいる、ということでこれが地域の人がよく読む地方新聞に掲載されたことで、市中がパニックに襲われることになります。

このパニックは、第四番目の事件で「衛藤」という名前の弁護士が焼殺されることでピークに達します。連続殺人の起きている「飯能市」の市民たちは、警察が容疑者のリストを隠しているとういうデマに踊らされ、自発的に組織されていた「自警団」が暴徒化し、警察署を襲撃します。この暴徒たちが、「有働さゆり」が保護観察を務める「勝雄」のもとにも押しかけているので救出してほしいという頼みを受け、古手川は「勝雄」の医療助れびゅ手として勤務する歯科医院へ行くのですが、そこで発見したのは、五十音順しか共通点がないと思われていた被害者たちが、その歯科医院で全員治療を受けていたという事実でした・・・、といった展開で、飯能警察署を襲う暴徒との戦闘シーンとともに、事件の真相がバタバタと見えててくるところは圧巻です。

さらに、突然凶暴化した「勝雄」に襲われた古手川は、「勝雄」犯人説の先にまだ「真実」が隠されていることを発見し・・・という筋立てです。
ダメ押しに、事件と騒動が一段落したところで「ふーっ」と息をつくやいなや、渡瀬がその先の扉を押し開けますので、最後の最後まで気を抜かないでくださいね。

レビュアーからひと言

物語の途中途中に、 実の父親から、虐待と性的暴力を受けている10歳ぐらいの「ナツオ」という子供のエピソードが挿入されていて、これが今巻の事件の真相におおきな関りをもっていそうな雰囲気を漂わせているのですが、最後の最後になって、その真相が明らかになり、今巻の事件で重要な黒幕となる人物との関連がはっきりする仕立てになってます。

なのですが、実はちょっとネタバレすると、最初のエピソードの中の「(ナツオの実の父親の)辰哉はカップ麺であうる自分で作ろうとはしない。炊事洗濯は女子供の仕事と決め込んでいる。だからナツオが帰ってくるまで食料はいつも手つかずのままだ」というあたりに重要なヒントが隠されていたのですが、残念ながら当方は初読のときは気づきませんでした・・・。

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