要介護探偵の豪腕推理はいかがー中山七里「さよならドビュッシー 前奏曲」

中山七里ミステリーのデビュー作は、ピアニスト探偵・岬洋介が、火事で大火傷をおったピアニスト志望の少女を指導して彼女を演奏会で優勝させるまでと、彼女の周辺で起きる事件の謎を解決するものだったのですが、その事件の大元となる焼死した実業家・香月玄太郎翁が亡くなるまでの「探偵」としての活躍を描いたのが本書『中山七里「さよならドビュッシー 前奏曲」(宝島社文庫)』です。

収録と注目ポイント

収録は

「要介護探偵の冒険」
「要介護探偵の生還」
「要介護探偵の快走」
「要介護探偵と四つの署名」
「要介護探偵の挨拶」

となっていて、名古屋の経済界の重鎮で政界にも影響力を持っている不動産実豪家の「香月玄太郎」が、車椅子生活でありながら活動的な「要介護探偵」となった経緯から、自宅が火事にあって孫娘とともに生命を落とす前日までが描かれます。

まず第一話の「要介護探偵の冒険」では、まず、本巻の主人公・香月玄太郎の超ワンマン・超文句言いのところから始まります。ブロイラーを名古屋コーチンと偽って出す老舗料理店の女将を脅しあげたりしての傍若無人さはかなりインパクト強い のですが、昔気質の直情径行の「頑固親父」なキャラ全開の登場です。

事件のほうは、香月のグループが建築している途中の家の中から、建築家の烏森健司が首をしめられて死んでいるのが発見されます。建築中の家で死人が発見されたということで、その地域の物件のキャンセルが続出するため、社長自らが事件の謎と犯人の割り出しに動き始めた、という筋立てです。

建築家を殺す動機のある人物は、浮気をしている税理士との結婚をするため、早死を望んでいる妻などが俎上にのぼってくるのですが、彼が設計し、玄太郎の子分格の「春見」が経営するハルミ建設が施工したマンションの地下駐車場の壁が車の衝突で壊れ、そのコンクリートが塩っ辛いことから、犯人を割り出していきます。

二話目の「要介護探偵の生還」は、香月玄太郎が、脳梗塞で倒れた後、「要介護探偵」としてデビューするとともに、車椅子生活ながら病前と変わらない精力的な経営者として復活するところが描かれます。
まず、「要介護探偵」としてのデビューのほうは玄太郎のリハビリ生活のところから始まります。病人扱いする療法士に反発してリハビリに取り組もうとしない玄太郎に対して、介護福祉士の「みちこ」さん(この人は、「さよならドビュッシー」で生き残った「遥」に対して疑念を抱く人ですね)は、玄太郎が熱心に取り組んでいた「模型作り」の趣味と玄太郎の目立ちたがり精神を利用してリハビリに熱心に取り組ませることに成功します。彼が模型作りをリハビリとしてやる「リハビリセンター」には、息子たちからの励ましで歩行練習に熱心に取り組んでいる老人がいるのですが、彼が歩行練習で倒れ込んだ時に、指で発するモールス信号に隠された意味に気づき・・・、という展開で、父親のリハビリを熱心にサポートする息子の黒い思いを明らかにします。

三話目の「要介護探偵の快走」は玄太郎が老人への連続暴行事件の解決をしていく話です。彼が住む地域はいわゆる高級住宅地なのですが、ここがまだ山間の小さな集落だった頃から住んでいる「地元組」と言われる老人たちを中心に、放置自転車に乗った紺色のジャージの人物に襲われます。警察の鈍い動きに怒った玄太郎は自らが囮となって犯人をおびき出そうとするのですが、とても元気で威勢のいい彼の陽動作戦を見事に失敗します。
次に彼が打った手は、小学校の運動会での「老人会による玉入れ」という種目を「後期高齢者と障がい者による車椅子四百メートル競争」への変更です。車椅子レースは八人の老人たちが参加することになり、ヒートアップしていくのですが、玄太郎の狙いは・・・という展開です。

四話目の「要介護探偵と四つの署名」では、銀行のキャッシュコーナーで現金をおろす予定で介護福祉士の「「みち子」と一緒にかつては名古屋の地方銀行の本店でシンボル的存在だった「あおい銀行栄支店」に来行した玄太郎は、そこで四人組の銀行強盗の人質となってしまいます。この銀行強盗の狙いは窓口にある現金ではなく、地下金庫に、銀行の運営資金として保管されている「金塊」。これを計画停電によって金庫のセキュリティシステムが麻痺しているときを狙って盗み取ろうという企みです。
一見、考え抜かれた計画のようなのですが、犯人が金庫に保管されていた「ワリコー」に目もくれないことや、金塊の運び出しのときに偶然、彼が手にとったことからわかった金塊の「重さ」から、この強盗事件の本当の黒幕と狙いを突き止めていきます。
この四人組の強盗が逮捕される時の、玄太郎の「粋」な措置は注目です。

最終話の「要介護探偵の挨拶」では、玄太郎の悪友である愛知政界のドン・金丸公望が自宅のオーディオ・ルームで急死します。その部屋は音楽が趣味の被害者が念を入れてつくったもので、密閉性もよい部屋なのですが、そこで趣味のアナログレコードを再生中、椅子の上で、致死性の高い毒物の中毒で死亡したという設定ですね。
彼はちょうど産廃にからむ大規模な収賄事件の関係者となっていて殺人が疑われるのですが、帰宅途上の車や帰宅後も食物も飲み物も一切口にしておらず、犯人のトリックは?、といったところですね。
この謎を解くのが、玄太郎の所有するアパートの入居人となっていた「岬洋介」で、彼は音楽家らしく、「アナログレコード鑑賞」という趣味に仕込まれたトリックを見抜いていくのですが、詳細は原書のほうでどうぞ。

レビュアーから一言

今巻で、「さよならドビュッシー」で玄太郎老人と孫娘の生命を奪うことになる火事の原因となった模型づくりに玄太郎老人がのめり込んでいた理由であるとか、長男や次男に対する彼の後悔であるとか、「さよならドビュッシー」のディテールを補完するようなところがでてきます。
さらに、岬洋介が、生き残った孫娘のピアノ教師をかってでる理由とかも最終話でわかりますので、「ピアニスト探偵」は、本編の周辺情報を知る意味でも読んでおいたほうがいい一冊ですね。

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