女子高生の転落死に隠された同級生の悪意ー芦沢央「罪の余白」

「汚れた手をそこで拭かない」で直木賞候補となっている、新進気鋭の作家・芦沢央さんのデビュー作が本書『芦沢央「罪の余白」(角川文庫)』です。

愛する娘が学校から転落して死んだ真相を知ろうとする父親と、彼女の”友人”の女子高生たちの間に繰り広げられる心理ミステリーです。

あらすじと注目ポイント

まず出だしは、女子高生が学校の校舎らしいところから転落しているシーンから始まります。彼女は、父親に対して、日記を読まれると自分が自殺したと勘違いされることを心配していて、これがこの物語の根底にあるキモのところでもあるので覚えておきましょう。

そして物語の本編は、転落死した女子高生・安藤加奈と彼女の友人である木場咲、新海真帆のプロフィール紹介っぽい独白から始まります。それを読むと木場咲はタレント志望の女の子でオーディションへの応募もしたり、とかなり積極的な売り込み活動をしている様子です。そして、新海真帆のほうは容貌は十人並みのフツーの女の子で、咲を憧れの存在として崇拝している気配です。で、この三人は一応、「友人」関係であるようなのですが、咲は加奈のことを実は嫌っていて、咲を崇拝する真帆もそれに同調しているという「陰湿な」友人関係であるようです。

こういう歪な友人関係が平穏に続くはずもなく、定期テストの点数がよくなかった加奈は、 は、「罰ゲーム」と称して、咲たちから、敬虔なクリスチャンで、真面目過ぎてクラスの中で浮いている「笹川七緒」に危害を加えるか、ベランダの手すりの上に3秒立つ、という選択を迫られ、ベランダのほうを選びます。

最初のところの転落事故は、この「罰ゲーム」の結果というわけ。

そして、彼女の死をめぐって、娘が自殺した理由がみあたらず、いじめによるものではないかと疑って娘の交遊関係を調べ始める父親と、自分たちの言動が転落死になったことを隠したい女子高生二人との暗闘が始まるわけですね。

特に、アイドル志望なので、同級生を死なせたということが世間に知られれば、その夢が崩れさる「咲」は必死で、加奈の実家に名前を偽り、焼香と称して入り込み、証拠隠滅を図ったり、自分たちのイジメの様子をあたかも他人がやったことのように喋るあたりは、背筋に冷たいものが走ります。

この同級生の突然の訪問に疑惑を抱いた父親の安藤は、娘・加奈をイジメていた同級生をおびき出して殺害する計画をあえてバラします。咲が敬虔なクリスチャンである笹川七緒の名前を騙ったことが命取りになったようです。

この殺害計画は、加奈をイジメていた同級生をおびきだして殺害した上に、加奈の遺した遺書を消去、安藤本人は娘の後を追って自殺、というものなのですが、それを聞いた「咲」は、友人に「真帆」をその犠牲者にして、自分は助かることを画策し始めるのですが・・・、という展開です。奸計の仕掛け合いといった様相のバトルの行方については、原書のほうでお読みくださいね。

レビュアーからひと言

物語の本編の進行と並行して、父親の安藤の勤める大学の同僚で、少々、コミュ障の傾向のある心理学専攻の「小沢早苗」という女性が最初のほうから登場します。

安藤に不器用な好意を寄せているのですが、恋愛関係にはなっていかず、さらに加奈の事故死の謎解きに関連するわけでもなく、この女性の役目がいまいち不明だったのですが、最後の安藤と咲が出会うシーンで、それが明らかになります。彼女がとった偶然の行為のおかげで物語の陰鬱さが軽減されているように思えます。

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