「隠れ家」カフェの中で事件の謎はすべて解けるー似鳥鶏「難事件カフェ 1」

街中の繁華街が近く周囲に高層ビルが立ち並ぶ駅前近くにある、異世界に「すぽん」と引っ込んでいるような出で立ちの、カウンターとテーブルが三つあるだけの小ぶりの”隠れ家的”カフェ「Priere」を舞台に展開される、半・安楽椅子探偵風ミステリーの第1弾が本書『似鳥鶏「難事件カフェ 1」(光文社文庫)』です。以前に「パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から」の題名で出版されていたものの改題版です。

構成と注目ポイント

構成は

第1話 喪服の女王陛下のために
第2話 スフレの時間が教えてくれる
第3話 星空と死者と桃のタルト
第4話 最後には、甘い解決を

の4編。

登場人物は、カフェ「Priere」のマスターの惣司季(みのる)を本シリーズの語り部にして、有名大学を出て警察庁のキャリア官僚となったが、何かの事情で退職を申し出たのだが、その才能を惜しむ上役たちの画策で「病気休職中」となっている”季”の弟「智」、県警の秘書室勤務で、県警本部長の密命を受けて、智の「復職」と、迷宮入りしそうな事件の操作情報を持ち込んできて、智に推理させる「直井楓」巡査の三人です。

第一話の「喪服の女王陛下のために」で「直ちゃん」こと”直井楓”巡査から持ち込まれるのは、地元の国立大学を出て、司法試験に合格した25歳の男性が、崖から落ちて亡くなった、という事件。問題となるのは、被害者が亡くなった崖が、長ーく続く坂になっていて、ゴロゴロと転がっていかないと落ちないような崖であることと、人里離れた交通不便地にあるところなので、どうやって被害者をそこまで連れ出したのか、といったところが謎解きのキモになりますね。容疑者となる、元婚約者の女性には死亡した頃に空港で海外へ向けて出発途上だったというアリバイがあるので、誰かわからない彼の浮気相手が一番怪しいと疑われるのですが・・・という展開です。
少しネタバレすすると、遠距離恋愛のもたらした犯罪ですかね。

第二話の「スフレの時間が教えてくれる」は、我慢が続かなくて、学校も中退するし、アルバイト先も次々と辞めてしまう男性に、同僚の殺人疑惑がかかる話です。
彼の無実を晴らす発端は、タバコの臭いと、喫茶店の名物料理。メレンゲに様々な材料を加え、オーブンでで焼いて膨らませた「スフレ」の調理に要する時間がヒントになります。
さらに、犯人として彼は、中学生の頃に万引で補導された経験があって、それ以来、父親から「半端者」扱いされているのですが、それががらっと払拭される物語になりますね。

第三話の「星空と死者と桃のタルト」は、都市開発によって、昔から農業を営んでいる昔からの住民と、新しく移住してきた住民との対立が少し先鋭化し始めている地方都市での殺人事件です。
「直ちゃん」の親戚の所有する別荘にプチ旅行にきた、主人公たちが、近くの農家で押されたはずみで倒れて首に釘が刺さって死亡した男性の死体を発見する。ということで、主人公たちが、第一発見者として推理を展開することになりますね。おまけに、事件のあった昼間に、地元の昔からの住民と新住民との諍いの現場に立ち会っていて、それが微妙に真相解明を歪めることになりますね。
個人的には、環境保護に熱心なあまり、周囲を巻き込んでトラブルをおこす善意の主婦たちが登場してきて、彼女たちは犯人ではないものの、事件が起きる環境をつくったのは彼女たちのような気がします。

第四話の「最後には、甘い解決を」は、第一話で登場する、「智」とちょっといいっ感じになっている、企業弁護士の的場莉子の周辺でおきた悲しい事件の顛末ですね。
彼女は、幼い頃に父親の経営する弁護士事務所で、強盗に襲われて母親がトカレフという銃で殺されるという事件に遭遇しているのですが、それから13年後、その事件当時近所に住んでいた、事件後も母親のように可愛がってくれていた主婦の女性が、同じ銃で殺されるという事件に再び遭遇します。同じトカレフの銃が使われた殺人ということで、読者をミスリードしていく見事さのある話ですね。

レビュアーから一言

本シリーズは、どちらも控えめな「季」「智」兄弟を、迷宮入りしそうな難事件の捜査に引っ張り込んでくる県警本部秘書室の「直ちゃん」が絶品ですね。「智」を警察へ復帰させるための説得する場面で、捜査協力を拒否すると、警察本部中の甘党の警察官を連れてきて合法的に占拠するといった上で、

「いやあ、こちらとしてもそんな手は使いたくないし、無理は言いたくないんすけど」直ちゃんはへっへっへ、と笑った。「そんなに困るっていうんなら、考え直してあげなくもないっすねえ。・・・」

といった独特の語り口で、ダメ押しの脅迫をしてくるなどのキャラが立ってます。

Bitly

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