帝都探偵絵図のスピンオフ、静修館の小説家の謎解き物語ー三木笙子「帝都一の下宿屋」

三木笙子さんの書く「帝都探偵絵図」シリーズで、探偵役を務める、法務大臣を義理の父親にもちながら跡継ぎになるのが嫌で、家を出て「帝都マガジン」の雑誌記者をやっている里見高広が下宿をしている、賄い料理が絶品な下宿屋「静修館」の下宿人の一人、小説家の「仙道湧水」が探偵役となる、「帝都探偵絵図」のスピンオフ的なミステリーが本書『三木笙子「帝都一の下宿屋」(東京創元社)』です。

収録と注目ポイント

収録は

「永遠の市」
「障子張り替えの名手」
「怪しの家」
「妖怪白湯気」

となっていて、探偵役の小説家・仙道湧水、彼の担当編集者・坂口、「静修館」の管理人で名料理人・桃介(とうすけ)がメインキャストとなり、この下宿に持ち込まれてくる謎の数々を解決していきます。

第一話 永遠の市

第一話の「永遠の市」では、静修館で使っている美味い「醤油」に、最近「まがい物」が混じっているという噂の真相を明らかにする話です。

この醤油屋「助川醤油」は、新興の醤油屋なのですが、その良心的な商いと、桃介の叔母がキャンペーンガールとなることによって老舗に負けないブランドに成長してきているという経緯ですね。この「まがい物」騒動の真相をさぐるため、助川醤油の広告宣伝やブランド管理をしている「耳目堂」で調査を始めるのですが、そこでかつての恋人が、耳目堂の後添えに入ってしまい、さらに子供ができたため、耳目堂の跡目も告げなく鳴ってしまった「鴨川」という男に出会います。

湧水は、この鴨川が耳目堂へ恨みを晴らすために耳目堂が扱っている「助川醤油」のラベルを水増ししてそれを偽装商人に売払って金をつくるとともに耳目堂の評判を落とそうと画策していると疑いをかけるのですが・・・、という展開です。
真相のところは、「女性は猫っかぶりしていると男は騙される。というところでしょうか。

第二話 障子張り替えの名手

第二話の「障子張り替えの名手」では、鉱物の精錬会社で新しく発見された精錬法を記したメモが盗まてしまいます。盗むことのできたのは、この会社の社長の家族である後妻の鈴子、娘の静子、お手伝いの妙、会社の従業員の棚木という4人の人物だけなのですが・・という筋立てです。

この技術を巡っては、棚木にライバル企業からその技術とセットでの引き抜きの誘いがかけられていたり、静子のところへ、彼女の父親が息子からその技術を盗んだとと打ち明ける老女がいたり、と揉め事の元になっているようですが、湧水のたどり着いた犯人は・・・と展開していきます。

第三話 怪しの家

第三話の「怪しの家」では、静修館に以前、下宿していた蒔絵師の伏田秋草がもちこんできたものです。彼が現在住んでいるアトリエの向かい側に、こじんまりした貸家があるのですが、そこへは借り手が次々と訪れるのですが、いっこうに借り手が決まらないという家です。

ある時、秋草はその家の下見にきている愛媛から上京してきた大学生の孫と祖母に出会い、意気投合するのですが、その時も先約があったということで彼らは別の下宿に入ります。しかし、その後、いっこうにその家に入居してくるものが射ない状態は続いていて、という筋立てです。

そのうち、その家は昔座敷牢が会って、そこに入れられていた身分の高い女性が焼死したといった怪談話や、秋草が親しくなったその学生が女にいれあげて金をゆすられているという偽電報が実家に届いたり、といった変事がおきるのですが、そこにはある悪事の企みが隠れていて・・・という展開です。

第四話 妖怪白湯気

最終話の「妖怪白湯気」では、明治時代のスーパー銭湯である「湯屋」で掛けとり金がまるごと盗まれたり、銀行からおろしたばかりの金が消えたりと、大型の盗難事件が東京市全域にわたって発生します。「白湯気」というのは、自在に形を変える湯気が人間や、魔物の姿に見えるさまを妖怪にたとえたもので、人に危害は加えないが、どこにでも入り込むことができるので、様々な秘密を知っているとされた妖怪です。

今回は湯屋を訪れる客の情報や秘密をつかんでいないとできないような犯行ばかりで、市内全域にわたってどうやって集めているのか、というのが謎解きのキモになりますね。

湧水の担当編集者をしている坂口が、彼の親代わりであった湯屋も被害にあってしょげているのを元気づけようと、湧水が調査に乗り出し、湯を沸かす燃料を集めている下働きであるとか、捨て糠の回収をしている業者たちを調べていくのですが、彼がつかんだ真相は・・・、という展開です。

レビュアーから一言

「帝都探偵絵図」のスポンオフ的な物語ではあるのですが、本編のような帝都を揺るがす陰謀や怪盗はでてきません。下宿屋の関係者が持ち込んでくる「日常の謎」のちょっとした進化系の謎を解きあかしていく、といった風合いなのですが、本編よりも、明治後期の風情は色濃く味わえるかもしれません。さらに、本編で脇役的に登場する「静修館」の管理人の「桃介」の人柄がよくわかる短編集となってます。

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