巴里の薄闇の中、曲技団マネージャーの推理が冴えるー三木笙子「クラーク巴里探偵録1・2」

20世紀初頭のパリを舞台に、ヨーロッパを巡業中の、曲芸一座の誘客かた宣伝までを一手に引き受けて采配する敏腕の番頭・片桐孝介と、彼に付き従う料理上手の見習い・晴彦の二人をメイン・キャストにすえて、曲芸師一座や彼らの住んでいる下宿に持ち込まれてくる怪しい謎の事件を解き明かしていくシリーズが『三木笙子「クラーク巴里探偵録」「露西亜の時間旅行者 クラーク巴里探偵録2」(幻冬舎文庫)』です。

構成と注目ポイント

「クラーク巴里探偵録」

一巻目の「クラーク巴里探偵録」の構成は

第一話 幽霊屋敷(メゾンアンテー)
第二話 凱旋門と松と鯉
第三話 オペラ座の怪人
第四話 当方の護符

となっていて、時系列的には第一話の書き出しに「戦争が終わったばかりで、そんな露西亜人の多い国にいったら、逆恨みで仕返しされるんじゃないかって言うんですよ」とあるので、日露戦争の終わった直後ぐらいの世紀末の雰囲気の抜けないバリが舞台です。

第一話の「幽霊屋敷」では、パリ市内のデュボア家という金持ちの屋敷の息子・ジュリアンの寝室にポルターガイストがでるというもの。この正体をつきとめてほしい、とパリ巡業中の日本の曲芸一座・那須一座の座頭のところへ持ち込まれた依頼を一座の番頭・孝介が解決に乗り出すという、ちょっと唐突な仕立です。
そのポルターガイストは、ジュリアンに石をぶつけてくるというものなんですが、それが「煙突掃除」の行われる時に限ってでてくるところにヒントを得て・・という展開です。まあ、少しネタバレすると、身分違いの恋バナといったところかな。

第二話の「凱旋門と松と鯉」は、孝介の知り合いの日本人の外交官から持ち込まれる話です。彼はパリ市内に下宿しているのですが、そこの美人の女主人につきまとう男がいるのでそいつの正体をつきとめてくれ、というもの。その女主人は、死んだ夫から送られてきていた外国の絵葉書を大事にしていて、部屋の壁にも貼っているのですが、その中に、「松と鯉」が描かれた日本の絵葉書を見つけて、孝介は女主人が隠しているある秘密に気づくのですが・・・という展開です。この絵葉書が意味しているものが、絵葉書のつくられた年代を表している、という謎解きですね。

第三話の「オペラ座の怪人」は、晴彦が日本からパリにやってきた経緯にまつわる謎解きです。孝介は実は「朝倉商会」というヨーロッパでも手広く貿易をやっている商社の経営者の孫で、彼に会社を継がせようとする経営者の意思を断念させるため、身代わりになってくれと依頼されての渡欧してきたということです。
事件のほうは、オペラ座の舞台芸術をやっていた男が、精巧な「だまし絵」が描かれたアパルトマンの部屋でおきる、密室内での盗難事件です。盗まれた紙幣が部屋にある戸棚の引き出しに描かれたものに化けたしまったといった仕立ですね。

第四話の「東方の護符」では、晴彦が孝介の身代わりとしてやった演技で、うまく後継者指名から脱落することに成功するのですが、その一連の動きが、孝介にバレてしまいます。孝介の信頼をすべて失ってしまう晴彦の運命は・・・という筋立てなのですが、実はこれがすべて孝介の「掌の上」のことであったのがわかるという仕掛けです。

Bitly

「露西亜の時間旅行者 クラーク巴里探偵録2」

二巻目「露西亜の時間旅行者 クラーク巴里探偵録2」の構成は

第一章 光と影
第二章 オスマンルビーの呪い
第三章 露西亜の時間旅行者
第四章 遥かなる姫君

となっていて、心臓病に罹っていた弟の病気治療と看病のため一時、日本へ帰国していた「晴彦」が、再びパリへ帰ってきての物語再開です。

第一章の「光と影」では、孝介は、大人気のダンサーのマドモアゼル・オンブルから、日本文化にレクチャーをしてくれという頼みを受けます。もともとこのダンサーはスリの手練で、文化的なことには全く興味のない人物だったのですが・・・といった謎解きですね。ネタバレ的には、ある有名な飛行機乗りとお近づきになるためだったのですが、その理由は、彼女のスリの腕が決めてになりますね。

第二章では、売れっ子デザイナー「ガレ」が自分の研究所でつくろうとしている「人造絹布」の製法メモの紛失騒動です。もしこれが特許となれば、大儲けとなるところですが、パリで最近起こっている連続出火騒ぎに巻き込まれて焼失してしまいます。
この出火は、ガレが最近手に入れた、オスマン皇帝が秘蔵していた「ルビー」の呪いで起きているのだという噂がたっているのですが・・という展開です。
途中、登場するマヌカンの一人のような女性の正体がヒントになりますね。

第三章では、時間を旅して将来のこともわかるという、怪しげなロシア人が登場します。そのロシア人・エピファーノフは、ノーベル賞類似の賞の受賞者を予言して世間の注目を集めるのですが、彼は、ある手のひらに聖なる証が刻まれた人物に仕える目的があって、その予言力もその人物のために使うと宣言します。そして、その証をもつ人物は名乗り出てほしいと公開で捜索を始めるのですが・・という展開です。
ミステリーには中国人を登場させるな、という不文律があるのですが、今話しはそれを逆手にとって、超能力者の人探しにみせかけた本当の狙いの謎解きですね。

第四章は、当時、長い間、鎖国をしていたので、未知の植物の宝庫として認識されていた「日本」の植物にまつわる謎解きです。世界で日本にしかないといわれ、プラントハンターたちが狙っている「黄金の雲」と呼ばれる百合が自生している場所のヒントを、プラントハンターで、ガラス製造会社の親族でもある人物が、所蔵している「ガラス製品の中に地図を隠した」という言葉を残して急死します。彼のコレクションは、今では、親しいガラス美術品収集家に寄贈されていて、それはその収集家が所有していた保管庫にしている7軒の民家のどこかにあるというのですが・・問いう展開。依頼を受けた孝介が、その「地図」の在在り処を推理したのは・・・という筋立てですね。この当時、ガラスはすでに布状のファイバーとして製品化されていたというのがヒントですね。

Bitly

レビュアーから一言

このシリーズの魅力は、謎解きのところというよりは、20世紀初頭の「世紀末」の雰囲気が未だ色濃く残る「パリ」の風情だと思います。
当時、オリエンタル趣味もあって人気のあったという日本の曲技団や、パリのモンマルトルの劇場や、華やかさの残る社交界など、すでに失われてしまった「過去の栄華」の香りを楽しんでみてはいかがでしょうか。

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