美貌の悪女の甘いアドバイスにはご注意をー中山七里「嗤う淑女」

中山七里さんのミステリー・シリーズでは、善玉の探偵ばかりではなく、悪党が主人公となるピカレスク・ミステリーもあって、代表格は弁護士・御子柴礼司の登場するシリーズがあります。そちらは、多額の報酬さえ出せばどんな弁護でも引き受けるという悪徳ぶりを標榜していながら、実は弱い者や虐げられていた者の味方である「御子柴」の不器用さが魅力となっているのですが、今巻は、美貌の悪女の登場する、正真正銘の「ピカレスク・ロマン」が、『中山七里「嗤う淑女」(実業之日本社文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

一 野々宮恭子
二 鷺沼紗代
三 野々宮弘樹
四 古巻佳恵
五 蒲生美智留

となっていて、今シリーズの主人公となる悪女・蒲生美智留の登場から彼女が脱皮して別人物になるまでが描かれます。

まず第一話の「野々宮恭子」は、今シリーズのメインキャストとなる「蒲生美智留」が登場話なのですが、まずは、学校でイジメられている中学生の「野々宮恭子」という女子生徒の独白から始まります。
彼女は、教科書やノートを隠されたり、トイレに入っているところに水を頭からかぶせられたり、と同級生からひどいイジメをうけているのですが、ここに彼女の従妹で「蒲生美智留」という美少女が転校してくることで様相が一変します。
「美智留」はクラスのボス格の女子生徒の彼氏をふったことで、恭子に代わっていじめの対象となるのですが、その美貌と「人誑し」の能力で、イジメの首謀格の女子生徒を罠にはめ逆襲します。このあたりの「淫靡」なやり口はとても中学生とは思えない手管なのですが、詳細は原書のほうで。
そして、従妹なのでイジメから救い出してくれたと感謝する恭子だったのですが、美智留の狙いは別のところにあることがやがてわかります。それは、美智留を虐待し、性的暴行を加え続ける美智留の実の父親の「駆除」で・・・、といった展開です。

第二話の「鷺沼紗代」では、それから数年経過後で、今度のターゲットになるのは、総合職ながら男性行員に出世競争で追い抜かれ続けれ、憤っている女子銀行員「鷺沼紗代」です。
彼女は、その鬱憤を晴らすため、買い物中毒に陥っていて、すでにカード破産寸前なのですが、その危機を回避する手段をアドバイスしてくれるのが、美しく成長し、生活コンサルタントとして独立して事業を営む「蒲生美智留」と、彼女のアシスタントとなっている「野々宮恭子」です。彼女たちに、カードの支払いを回避するため、架空口座をつかった銀行内部からの偽装振込を示唆された紗代は、その手口を使って支払いを免れるのですが、いつの間にかその偽装金額が膨れ上がってくるのですが、銀行内の査察があるという情報が入ります。この偽装振込を、一度にチャラにする方法を、紗代は美智留にアドバイスされるのですが・・・という展開です。
紗代の息詰まるような偽装工作と、最後にトンビが油揚げをさらっていく美智留のあくどさにきっと驚きますよ。

第三話の「野々宮弘樹」では、美智留が、野々宮恭子の実家に転がり込んでおきる事件です。恭子の実家は、父親がリストラ後、小さな産廃業を営んでいるのですが、恭子の弟も就活に失敗して家業を手伝っているのですが、この家族に美
智留が絡んでくることで、一家を巻き込んだ惨殺事件がおきることになります。美智留の狙いの中には、今巻で類推されるもののほか、かつて自分の父親の死後、手助けをしてくれなかったこの家族への復讐の念も含まれていたのかもしれません。
この犯行に、中山七里ミステリーでおなじみの、警視庁の麻生警部が疑念を持ち始めることになりますね。

第四話では、自動車会社をリストラされた後、自称小説家志望者となっている夫を保険金目当てに殺す妻へ、美智留がサジェッションする話となるのですが、この事件の取り調べがもとで第五話の「美智留」の逮捕へとつながっていきます。第四話の事件は名古屋で起きているのですが、担当刑事が警視庁の麻生警部へ情報提供したことから、第二話の事件を麻生が調べなおし、鷺沼紗代殺害の容疑で美智留を起訴することに成功します。
数々の殺人事件の実質的な教唆者としてマスコミの注目の的となった彼女は「稀代の悪女」として糾弾されるのですが、その裁判では彼女のしかけたあるトリックが炸裂して・・・と言う展開なのですが、「えー」と驚く結末が待っていますので、原書のほうでお楽しみを

レビュアーからひと言

ひさびさに「悪女中の悪女」といった主人公の登場なのですが、「いやミス」のようなざらっとした感じではなく、なにかエイリアンのような異生物がいつの間にか近くにいて、知らない間に犯行を重ねている不気味さを感じる一冊です。「蒲生美智留」は最後に高らかに勝利宣言をするのですが、この悪女は次に手を染める犯行は一体どんなものなのでしょうか・・・。

嗤う淑女 (実業之日本社文庫)
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