美貌のダークヒロイン、復活。標的は国会議員ー中山七里「ふたたび嗤う淑女」

美貌と巧みな会話で、狙った人を犯罪へと誘導して破滅させる、究極のダークヒロイン「蒲生美智留」を主人公にしたピカレスク・ミステリーの第2弾が本書『中山七里「ふたたび嗤う淑女」(実業之日本社)』です。

前巻で、自分の偽装殺人をしかけることによって、詐欺事件と殺人教唆の裁判で無実を勝ち取った、蒲生美智留が「野々宮恭子」の名を得て再び出現します。

構成と注目ポイント

構成は

一 藤沢優美
二 伊能典膳
三 倉橋兵衛
四 咲田彩夏
五 柳井耕一郎

となっていて、まず第一話の舞台は、女性の人権や社会参加を促進するNOPです。この団体は、企業や個人の寄付などを募って活動しているのですが、実は「柳井耕一郎」という新進の政治家の集金団体となっている、という設定です。
この団体の事務局長をしている「藤沢優美」という女性が一話目のターゲットとなるのですが、集まる寄付金が少なくなっているため、政治家秘書として成り上がっていく野望を抱く彼女は、その資金づくりのために、NPOの部下・神埼亜香里のすすめで、「野々宮恭子」という投資アドバイザーに会うのですが・・、という筋立てです。
前作を読んでいる読者はおわかりのように、ダークヒロイン・蒲生美津留の「仮の名前」ですね。そして、彼女のアドバイスでFXを始めた藤沢は、最初の成功から大きく賭けにでることにして、柳井議員の事務所や金融機関から多額の資金をつくるのですが・・・、という展開です。

二話目の舞台は、宗教団体。新興といっても、そこそこ歴史がある団体なのですが、そのせいか最近、新しい信者集めや寄付金集めに苦労している状況で、ここで一発、大逆転し、教団内の地位を一挙に押し上げようとする教団事務局の副責任者の伊能がターゲットとなりますね。
ここで注目しておきたいのは、彼を「野々宮恭子」に引き合わせるのが、「神埼亜香里」という女性で、どうやら第2弾目では、亜香里が野々宮恭子こと「蒲生美津留」のパートナーとなっているようです。
で、ターゲットとなる伊能がはめられる手口は、教祖の半生や教団の教義をまとめた書籍を信者に買わせる「出版ビジネス」なのですが、どこに伊能の失墜の種が隠されているかは原書のほうで。

三話目のターゲットは、柳井衆議院議員の後援会の会長をしている「倉橋兵衛」という不動産屋さんなのですが、彼は元全共闘の活動家で、政治の世界に未練たらたらという設定です。二世議員である柳井に不満をいだいている彼のもとへやってきたのは、今度は選挙プランナーを名乗る「野々宮恭子」からの都議選出馬の話で、今回も彼女の口車によって、壮大な「夢」を見始めた倉橋が罠にはまっていくことになりますね。この話の最後のほうで、第二話で登場した教団の侍従をしていた久津見の娘が柳川が過去に犯した犯罪によって自殺していて、久津見が柳井議員への復讐を企んでいることが明らかになります。これをきっかけに、久津見が恭子・亜香里ペアの仲間に入ることとなります。

四話目では、その柳井議員の政策秘書をしている「咲田彩香」がターゲットになります。彩香は、柳井議員の政策秘書であるとともに、男女の関係もあるのですが、この不安定な関係に悩んでいる、というバックグラウンドです。そして、ここで、久津見から、「柳井議員の妻・初美と対立党の若手議員との密会場面」を移したという写真が持ち込まれてきます。この写真を利用して、自分が正妻の座を奪おうと考えた初美は、久津見、亜香里たちの唆しにのって、初美夫人の密会場面を捏造しようとするのですが・・・、という展開です。

最終話の「柳井耕一郎」では、久津見から柳井議員への復讐の依頼を受けて仲間になっているはずの、恭子・亜香里ペアから、柳井議員へ、久津見の素性と彼が柳井議員へ恨みを抱いていることをリークするところか始まります。今まで味方のふりをして、多くの人を罠にはめて陥れてきた恭子・亜香里ペアなのですが、今回のターゲットは、実は「久津見」だったのか、と驚かせる展開です。柳井議員は、自分への復讐を狙っている
男をそのままにしておくはずもなく、彼を返り討ちするため、隠していた密造拳銃を持ち出してきて、といった展開で、さて、どちらのほうに軍配があがるか・・といったところですね。

そして、今まで警察の目から逃れていた「野々宮恭子」こと蒲生美智留へ、警視庁の麻生をはじめとした警察の捜査が始まります。藤沢、伊能、倉橋、咲田といった柳井議員周辺の連続自殺・事故死がさすがに怪しまれたというところです。そして、警察の捜査の手が迫る中、柳井議員の逆襲を撃退した久津見は自分を「売った」野々宮恭子への復讐をするため、彼女のもとへ行き、という最終展開ですが、詳細は原書のほうでどうぞ。

レビュアーからひと言

今まで、多くの人を騙して破滅させてきた「蒲生美智留」なのですが、今回は最後の騙しのところで、ペアとして下働きをしてきた「神埼亜香里」の密告によって年貢の納め時的な危機に見舞われることになります。ところが、ここでも作者は最後のどんでん返しを用意していて、あっと驚かせることになるのですが、ネタばらしはやめておきましょう。
ヒントは、「歳は三十そこそこ、目鼻立ちは整っているのに野暮ったい化粧が第一印象を台無しにしている」「濃い目の化粧が素地を台無しにしている残念な女」と表現されている「神埼亜香里」の存在ですね。

Bitly

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