要介護探偵と女性裁判官の最強コラボ誕生ー中山七里「静おばあちゃんと要介護探偵」

中山七里ミステリーで年齢をものともせず悪党たちに立ち向かう高齢者の代表が、女性で20人目の裁判官として活躍した「静おばあちゃん」こと、「高遠寺静」と、名古屋の経済界の大立者で、不動産屋兼デベロッパー会社の経営者である「要介護探偵」こと「香月玄太郎」なのですが、この最強に近い二人がコンビを組んで、日常に隠された謎や事件を解決していくのが本書『中山七里「静おばあちゃんと要介護探偵」(文春文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第一話 二人で探偵を
第二話 鳩の中の猫
第三話 邪悪の家
第四話 菅田荘の怪事件
第五話 白昼の悪童

となっていて、本拠地は、静おばあちゃんが東京、玄太郎じいさんが名古屋と離れているのですが、静おばあちゃんが名古屋の法科大学の50周年に招かれた記念講演を玄太郎じいさんが受講していた、という縁から話が始まります。もっとも、厳格な裁判官の典型のような静おばあちゃん、と横紙破りと傍若無人の塊のような玄太郎じいさんがでは水と油の「真逆」がくっついたコンビとなります。

第一話 二人で探偵を

第一話はこの二人が出会った法科大学のキャンパス内にあるモニュメントが突如爆発し、その中の空洞の中に、有名な彫刻家の死体が発見されるところから事件が始まります。モニュメントは地面に埋め込みになっているのですが、どうやって死体を入れたのかということと、なぜモニュメントが爆発したのかがメインの謎解きになりますね。
被害者と知り合いだった玄太郎じいさんは当然のように、この事件に首を突っ込み始めるのですが、ここで民間人が捜査にしゃしゃりでてくるのを許せない、静おばあちゃんと対立しながら調査をすすめ、彫刻家がこのモニュメントを、工事費のピンはねで有名な悪徳業者の下請けで制作したことをつきとめます。制作当時は問題はおきなかったのですが、最近、この大学から同時期に壁画製作の射ラウをうけた画家と酒を呑んでその時の報酬の話を聞いて激昂したらしいのですが、それと今回の事件との関係は・・・、という展開です。

第二話 鳩の中の猫

第二話では玄太郎の知り合いの老人が、未公開株詐欺にあうところから始まります。最初自業自得と突き放していた玄太郎ですが、憧れの女性。美代さんも同じ被害に会ったと聞いて本気になります。
本体の詐欺集団のてがかりはまだないので、その詐欺のきっかけをつくったセミナー講師の行方をつくとめ、彼から手がかりをたぐろうと画策するのですが、なんと、美代の甥である県警の刑事・神楽坂と向かった、その講師がおなじように老人をひっかけるセミナー会場で彼が何者かに襲われ他場面に遭遇するのですが・・、という展開です。

第三話 邪悪の家

第三話では、玄太郎が住む千種の町内会の昔からの住民である昭三という老人の相談事です。この老人の認知症が最近ひどくなり、近くの店で下着やら食料やらの万引が度重なっています。息子は、父親が出歩いて万引するのを防ぐため、営んでいる貸コンテナ業の予備のコンテナを庭において、父親を軟禁状態にしているのですが、という筋立てです。
認知症とはいえ、しっかりとする時もある彼がなぜ、万引を繰り返すのか、そして下着や食料といった日用品ばかりを盗むのはなぜなのか。玄太郎は、昭三が軟禁される庭のコンテナに秘密があると推理するのですが・・、という展開です。
少しネタバレすると、ヨーロッパでおきた違法難民がコンテナ内で大量死した事件が連想されるところです。

第四話 菅田荘の怪事件

第四話では、静おばあちゃんに女学校時代の友人におきた事件の謎解きです。その友人は、女学校の卒業前に縁談が整って名古屋の銀行員のところにお嫁にきていたにおですが、数十年を経て再会した、という形です。
同級生の友人の夫は親戚の破産に巻き込まれ財産を失ってしまったのですが、貧しいながらも老夫婦でひっそりと暮らしているという設定です。そして、これからも友人つきあいを確かめたところで、この夫婦が一酸化炭素中毒で死亡してしまいます。この死は、事故なのか他殺なのか、あるいは自殺なのか、といった謎解きです。
そして、ちょうど近辺で、玄太郎じいさんが宅地開発した団地も含まれる一体で、ガス中毒事件が頻発します。この中毒事件の真相を明らかにするため、玄太郎じいさんはこの地域の都市ガス供給を行っているガス会社と大喧嘩を始めるのですが・・という展開が並行していきます。「静」の友人の死亡事故もこれと関係しているのか、といったところですね。

第五話 白昼の悪童

第五話は名古屋のシンボルマークとして建設が進められている「ミッドランドパーク」建設地でおき外国人労働者の労災事故の隠された謎ときです。
この事故では近くを通りかかっていた玄太郎と介護士のみちこが巻き添えになって、みちこが怪我をしたために、玄太郎が事件解決に首をつっこんできた、という筋立てですね。一見すると、事故のように見えるのですが、犠牲になった外国人労働者の斡旋をしているのが、ある反社会的勢力のフロント企業で、ここが斡旋してくる労働者の多くには脇腹に手術痕があります。臓器摘出でもない、怪我の治療でもない手術痕も意味するところは・・、といった展開ですね。
今回は、静おばあちゃんの牽制のせいか、おとなしめであった玄太郎が大暴発してのアクションシーンも楽しめます。

レビュアーから一言

ピアニスト探偵・岬洋介シリーズとテミスの剣・ネメシスの使者の渡瀬警部シリーズのスピンオフ的物語という印象であった「要介護探偵」と「静おばあちゃん」両シリーズが合体して、水と油の性格と経歴の人物がタッグを組んだ新しい探偵シリーズの誕生です。個性の強すぎる二人の老人の探偵たちがどんな事件解決をしていくか、今後のシリーズ展開が愉しみなところですね。

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