廃線オタクが東京地下に潜む住民を救出するー中山七里「帝都地下迷宮」

鉄道廃線というのは、採算のとれなくなった田舎の地方鉄道にあるのがほとんどだろうと思われる方が多いと思うのですが、戦前からの長い歴史を持っているだけあって、東京の地下鉄にも、博物館動物園駅、新橋駅・東京高速鉄道ホーム、初台駅、万世橋駅など、近くにもっと便利のよい新駅がつくられたり、ホーム長が長い駅ができたりといった事情から、使われなくなった駅やホームが存在しています。
そんな今では使われなくなった東京の地下鉄廃駅を舞台にしたミステリーが本書『中山七里「帝都地下迷宮」(PHP)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第一章 汽笛一声万世橋を
第二章 記者は煙を噴き立てて
第三章 車輪の響き 笛の声
第四章 記者をたよりに思い立つ
第五章 千里の林 万里の野

となっていて、まずは、東京の区役所で生活保護の事務を担当している公務員である本巻の主人公・小日向巧が、東京の地下鉄の廃線ツアーに参加するところから始まります。彼は乗り鉄、撮り鉄、模型鉄など各種ある鉄道オタクの中でも、希少種である廃線オタクという設定ですね。

で、彼は生活保護の審査という仕事で溜まるストレスを解消するため、たった一人で「万世橋駅」の無許可の廃駅探訪に乗り出します。駅構内への不審者の侵入の防止や、侵入者が敷設されている電線によって感電する危険を防止するために廃駅への立ち入りは厳しく制限されているのですが、彼は万世橋警察署の近くのビルの通風口から地下へと潜り、廃駅探検を敢行します。
そして、地下の闇の中で解放感を味わう小日向なのですが、その地下駅で一人のティーンエージャーの女の子に出会います。この女の子の仲間たちに捕まって連れて行かれたのが、「エクスプローラー(探検者)」と名乗る、廃駅の万世駅の構内で暮らす人々のコミューンです。いったい、この人たちの正体は・・といった筋立てですね。

少しばかりネタバレすると、この人達は高速増殖炉の臨界事故で被爆した住民たちで、その後遺症による皮膚の病気が発出しないように、陽の届かない東京の地下で生活しているわけですね。これには事故によるその後を隠しておきたい、日本国の意向も絡んでいるようです。

そして、ここで地下に暮らす住民のうち、一人の女性が地下で何者かに撲殺されるという事件がおきます。彼女の死体が発見されれば、地下に潜んでいる自分たちのことが世間に知られてしまうため、地下住民とともに小日向は、この女性の死体遺棄に協力するのですが、実は、この女性が警視庁の公安部門の警察官で、「エクスプローラー」たちの動静をさぐるために潜入していた人物であったことから、地下住民たちへの警察の捜査の手が伸びることになります。

このままでは、地下住民たちが警察に捕まり、どこかに隔離されることになると考えた小日向と地下住民たちは、万世駅を離れ、新たな「廃駅」へと安住の地を移すことを計画するのですが・・・という展開です。

レビュアーから一言

本書の帯には、中山七里さん初の「鉄道ミステリー」という謳い文句ででているものもあるのですが、このあたりはちょっとミスリードでは、と思います。
鉄道駅を舞台にはしているのですが、国家に翻弄される人々に静かな闘いを描いた「社会派ミステリー」という色合いが強い感じです。もちろん、事件の謎解きのほうでは、作者お得意のどんでん返しもきちんと用意されているので、そのあたりは安心してお読みください。

帝都地下迷宮
東京の地下鉄廃線跡に、潜む集団の目的とは? 著者が初めて挑む「鉄道」ミステリー。 鉄道マニアの公務員、小日向はある日、趣味が高じて、廃駅となっている地下鉄銀座線萬世橋駅へと潜り込む。そこで思いがけず出会ったのは、地下空間で暮らす謎の集団。身...

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