新入の美術部員「佐藤希」ちゃんの本当の狙いは何?ー似鳥鶏「さよならの次にくる<新学期編>」

某市立高校の美術部のたった一人の部員で、なにかと揉め事を引き寄せる体質の「葉山くん」を語り部にして、ヒロインは、演劇部の部長で、葉山くんを女王様的存在の「柳瀬沙織」。サブキャストに演劇部所属の演出兼照明担当の「三野小次郎」、吹奏楽部所属の小動物系キャラの「秋野麻衣」、そして、前巻まで文芸部部長で、卒業した天才的変人キャラの「伊神恒」が引き続き探偵役を務め、高校内でおきる謎の事件を解決していく、「市立高校」シリーズの第3弾が本書『似鳥鶏「さよならの次にくる<新学期編>」(創元推理文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第五話 ハムスターの騎士
断章4
第六話 ミッションS
断章5
第七話 春の日の不審な彼女
第八話 Add I’d give the world
第九話 「よろしく」

となっていて、今まで不定期に出没して探偵役を務めていた「伊神さん」は、卒業後、東京の大学へ入学、実家を出て一人暮らしをしているようです。
新学期になって、二年生になった「葉山くん」は、誰かに後をつけられて逃げ足になっている一年生の「佐藤希」ちゃんと、偶然、曲がり角でぶつかります。それが縁で、彼女の護衛のため、毎日、一緒に下校することになる、という安っぽいTVドラマでも最近仕立てないような出会いが生まれます。
これでストーカー被害がなくなればハッピーエンドということになるのですが、佐藤さんには不審な脅迫メールが届き始め、さらには、学校からの帰り道に紙袋にいれた人形の首や胴体が置かれているという嫌がらせが続きます。しかも、学校を出る校門や、帰り道を変えても先回りするように置かれている、という不気味さです。
これを見かねた演劇部の柳瀬沙織部長が、演劇部を動員して、ストーカーの捕獲作戦を展開史・・・という展開です。まるで、警察ものを読むような柳瀬さんの名指揮ぶりを堪能してください。

第六話の「ミッションS」では、今期、一人も入部者のいなかった美術部に、ストーカー撃退のお礼もあってか、第五話で登場した「佐藤希」ちゃんが入部してくれることとなりますね。葉山くんは可愛い新入部員が入って大喜びというところですが、これには実は「裏の動機」がありますので要注意です。
事件のほうは、人が良くて様々な頼まれごとを持ち込まれたり、トラブルを呼び込んでしまう「葉山くん」なのですが、今度は、パソコン研究会の同級生・磯貝がCAI室に忘れてしまったエロDVDを人知れず回収するため、職員室にある入室するときのIDカードをすり替えて持ち出す、というスパイもののようなミッションを頼まれます。職員室には教員が大抵数人はいるものでこのミッションは不可能かと思われたのですが、ここで登場するのが、あの辣腕の演劇部部長・柳瀬さんです。彼女は、オーソン・ウエルズ顔負けのラジオドラマを仕立てて、学校放送で放送して教職員の注意をひきつけて、葉山くんの「すり替え」をアシストします。
そして本来なら、このすり替えたカードでCAI室からDVDを回収して、さらにこのIDカードを持とに戻す、という段取りのはずだったのですが、回収役の磯貝くんにトラブルが生じて、その日の夕方は回収ができない事態がおきます。
翌日、授業があるので、すり替えた偽のIDカードを持って担当の教員が、クラスの生徒を引き連れてCAI室に向かいます。ここで、ドアが開かなければIDカードが偽物であることがバレてしまうのですが、なぜか、その偽のカードで部屋の鍵は開いてしまい・・・という筋立てです。

第七話の「春の日の不審な彼女」では、今巻で美術部にも慣れ、演劇部でもお手伝いキャラとして重宝され始めた「佐藤希」ちゃんにストーカー疑惑が持ち上がります。発端は、葉山くんのところへ、ファウストの引用をした手紙やメールが届き始めるところから始まります。その後、県内の端っこにある市の主催する演劇祭に出場する演劇部のお手伝いで、演劇部や佐藤さんと用意されているホテルに宿泊するのですが、高校生の部活動の宿泊時の恒例行事である秘密の酒盛りの翌日、目をさますと自分が、小道具のマネキンが添い寝していたという事態がおきます。その前夜、風呂から上がると希ちゃんが部屋で待っていたり、葉山くんに「美術部に入部したのは、先輩が目当てだった」と告白されたり、といった嬉しい出来事をふっとばす出来事ですね。もっとも、希ちゃんが「私のせいだ」という謎の言葉を残すにも気になるところですが。
そして、この謎を解決するため、伊神さんに依頼した葉山くんたちは、このホテルに事前に希ちゃんが宿泊して下見していたことや、希ちゃんが実は市立高校の生徒ではなかったことを突き止めます。さらに、伊神さんが最近、ストーカーにつきまとわれていることも判明します。果たして、希ちゃんの目的は・・・という展開です。
ちなみに、伊神さんのストーカーが判明した後、そのストーカーの撃退方法がすさまじいのですが、ここは本書でご確認を。

第八話の「Add I’d give the world」と第九話の「よろしく」は、佐藤希ちゃんの本当の正体と、伊神さんの出生の秘密が明らかになります。
第七話では、伊神さんか葉山くんのストーカーではないかと疑われた希ちゃんなのですが、ここではもっと意外な正体が明らかになるとともに、前巻ででてきた英語の歌詞の落書きの意味と目的が明らかになってきます。総体としては、ユーモアミステリーなのですが、少々、重いネタが今回仕込んでありますのでご用心を。

レビュアーから一言

今巻では、お気に入りの「葉山くん」を誘惑する女の子「佐藤希」ちゃんが登場して、、柳瀬さんも気が気ではないのですが、希ちゃんのストーカーのおびき出しでは演劇部総動員の捜査網を指揮したり、伊神さんのストーカーの撃退では、彼の芝居に一役かったり、と今回も重要な役どころを務めています。伊神さんが東京の大学に進学して登場場面が減少するのを十分フォローする、いい「姉御っぷり」を演じていますのでお楽しみください。

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