葉山くんと柳瀬さんの「掛け合い」は夫婦漫才さながらー似鳥鶏「まもなく電車が出現します」

某市立高校の美術部のたった一人の部員で、なにかと揉め事を引き寄せる体質の「葉山くん」を語り部にして、ヒロインは、演劇部の部長で、葉山くんを女王様的存在の「柳瀬沙織」。サブキャストに演劇部所属の演出兼照明担当の「三野小次郎」、吹奏楽部所属の小動物系キャラの「秋野麻衣」、そして、天才的変人キャラの「伊神恒」が探偵役を務めて、高校内でおきる謎の事件を解決していく、「市立高校」シリーズの第4弾が『似鳥鶏「まもなく電車が出現します」(創元推理文庫)』です。

収録と注目ポイント

収録は

「まもなく電車が出現します」
「シチュー皿の底は並行宇宙に繋がるか?」
「頭上の惨劇にご注意ください」
「嫁と竜のどちらをとるか」
「今日から彼氏」

となっていて、時期設定的には、第1弾の「理由あって冬に出る」から第2弾の「さよならの次にくる<卒業式編>」に至るまでの、小エピソード群を集めた短編集という感じです。

第一話目の「まもなく電車が出現します」は、「理由あって冬に出る」の後、芸術棟の一部の部屋が閉鎖されて、文化系クラブのいくつかが部室を失いつつある時期の話です。美樹部とか、書道部、手芸部といった学校の科目に関りのあるところは、その美術室などの学習室を利用すればいいのですが(もちろん、部の備品の置き場には苦労することになるのですが)、学校の教科に全く関係のないサークルやクラブは棲家をなくし、校内のあちこちの空きスペースの争奪戦が激化したというわけです。
美術部自体は美術室があり、部員は「葉山くん」以外いないのでスペースとしては十分なため、卒業生の作品などが置いてある部屋が領有者不明地とされ、争奪戦の対象となったのですが、ここの領有をめぐって映画研究会と鉄道研究会が競うことになります。両者とも譲らない中、ある日、大きな鉄道模型が部屋の中に設置されるという出来事がおきます。てっきり鉄道研究会の仕業かと思いきや、彼らは心当たりがないと言い。さらに、その部屋の入口には鍵がかかっていたり、ドアの前に物が置かれていて出入りが不可能な状態。さて、誰が、何の目的で、模型を設置したのか、という謎解きです。

第二話の「シチュー皿の底は並行宇宙に繋がるか?」は、「葉山くん」たちの学級の調理実習での出来事。彼らは実習で「シチュー」をつくり、実食することになったのですが、メンバーの一人「三野小次郎」は「じゃがいも」嫌いのはずなのに、シチューを躊躇なくたいらげます。他のメンバーの皿にはしっかりじゃがいもが入っているので、彼の皿だけにじゃばがいもが入っていないわけはないのですが・・・、といった他愛もないが、トリックがわからない謎解きです。事件と言うほどのものではないのですが、三野くんが、じゃがいもを食べたと見せかけた動機がいい味出してます。

第三話の「頭上の惨劇にご注意ください」では、部室のある別館前の庭を歩いていた「葉山くん」と「柳瀬さん」の近くに植物が植えられていた30センチぐらいの植木鉢が2個落下してきます。その植木鉢は、別館4階のボランティア部とESSの共同部室に、陽にあてるために園芸部が置いていたペラルゴニウムの鉢なのですが、謝って落としたのではなく、二人のうちどちらかを狙って落下させたものだろうと、柳瀬さんは激怒し、犯人捜しを始めます。
そして、鉢の落下の翌日、「葉山くん」の下足箱に、横書きの封筒に大きな釘を入れたものが入れられていたり、彼が通学に利用している自転車の左ブレーキだけが緩められているといういやがらせが仕掛けられます。
犯人の狙いは「葉山くん」なのか、そして、彼の恨みを持つ人物の犯行なのか・・といった展開です。

第四話の「嫁と竜のどちらをとるか」は、ガンプラ・マニアの旦那と奥さんの間のトラブルですね。奥さんに内緒でご主人が買ったレアもののガンプラの値段を、そのご主人と友人との会話だけで当ててしまう神業を、伊神さんが見せてくれます。

第五話の「今日から彼氏」では、柳瀬さんと葉山くんの間にひびがはいることになります。映研の自主製作映画の撮影のヘルプに駆り出されていた葉山くんは、そこで映研の脚本担当の「入谷菜々香」という女の子から話しかけられます。彼女とはメールアドレスの交換をするぐらいの仲良しのなるのですが、その日、柳瀬さんから突然、彼氏ができたので、これからは近寄るな、というメールをもらいます。柳瀬さんから勝手に振られた状態に当惑していると、数日後、「入谷菜々香」ちゃんからつき合ってほしい、と告白されて・・という筋立てで、なんと葉山きんに「彼女」ができてデートを重ねます。このあたりは、「青春だなー」という展開です。
しかい、このシリーズがそういう方向にそのまま邁進するはずもなく、夏の花火を見る約束をし、彼女の「実家」に迎えにいったところで、彼女のストーカーらしき大学生にからまれることになって・・・という展開となります。あわや、葉山くんはストーカー大学生によってボコボコにされるのか、というところで、救世主・柳瀬さんがスタンガンを持って現れます、彼女の働きでストーカーを撃退したと思いきや、真相は全く別のところにあって・・・、という展開です。「菜々香」ちゃんの本当の狙いにはちょっと驚かされると思います。

レビュアーからひと言

葉山くんと柳瀬さんを中心に、二人の周りにおきる「日常の謎」を伊神さんが解き明かしていくというのが本巻の大まかな流れなのですが、読んでいて楽しいのは、カップルのようでカップルでない、葉山くんと柳瀬さんの掛け合いです。葉山くんの危急の時には必ず現れて彼を救出する、柳瀬さんの「姉御」ぶりは今回も健在なので、そこらもしっかり愉しんでください。

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