「嫌い」は”悪い”ことじゃないー中野信子「「嫌い!」の効用」

人間、生きていれば「嫌いな人」や「嫌いなこと」っていうのが、どうしようもなく湧き上がってくるもので、しかも、「嫌っている」ことが自分でも嫌になったり、「嫌いなこと」が自分の心を占拠して身動きが取れなくなることってありますよね。
そんなあなたに、「サイコパス」「不倫」といった著作をはじめ、いつも「違った視点」から、世の中の事象を分析してくれる気鋭の脳科学者、中野信子さんが、「嫌い」と言う感情をそどうするか、アドバイスしてくれるのが本書『中野信子「「嫌い!」の効用」(小学館新書)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第一章 「ヒトは嫌わずにはいられない」
第二章 「嫌い」という感情はどのように形成されるのか
第三章 嫌いの効用と戦略的運用術
第四章 嫌いな人との付き合い方
第五章 家族に対する嫌悪感
第六章 自己嫌悪との向き合い方
第七章 嫌いなこととの向き合い方

となっていて、まず注目すべきは、私たちが何かを「嫌う」ということに対する「罪悪感」を払しょくしてくれるところ。本書の冒頭のところでも記述されているのですが、私たちは「好き嫌い」を言うことや何かを嫌いになることを咎めだてされるという経験を幼い頃からしているのですが、それに対して本書では

「嫌い」という感情は、自分を守るために非常に大事なものだからです。
(中略)
「嫌い」は脳に備え付けの重要なアラーム機能なのです。にもかかわらず、そうした感情を表に出すと、劣等な人間であると見んされる雰囲気があるのは、実に不思議です。

といったアドバイスをしてくれていて、少し気が「楽」になるところで、これを基礎におきながら、「嫌い」という感情の扱い方、世間や自分との上手いつき合い方を教えてくれています

とはいうものの、なぜ「嫌い」という態度が非難されたり、どうやってそれが生まれるかは「嫌い」とつき合う上で大事な分析で、本書では「嫌いな人や嫌いなものが少ないというだけで、社会的報酬を受けるのに有利となる・・報酬構造の中で育っている」や「リベンジへの警戒」から「嫌い」という感情を抱くことが良くないこととされるのだ、と分析し、その機能は脳の「眼窩前頭皮質」が行う、自分の主観的な好みを決めたり、選んだりする機能だとしています。
このあたりはスゴくプラグマティックに扱われているのですが、筆者の著作で救われるのは
、こうした感情の問題を「道徳の問題」として扱うのではなく、科学的に扱ってくれることで「善悪」ではない、「コントロールできる」問題であることを教えてくれるところですね。

なので、本書でアドバイスする「嫌い」の克服法は、嫌いなものを好きになろうではなくて、

生きていれば必ず嫌なことに直面します。
そこで、その「嫌い」をそのまま放置、あるいは我慢するのではなく、「嫌い」の徳席から心を守るために、アプローチを変えてみるという方法があります。
一つは、嫌いの「展開と分散」。
例えば「嫌い」なのは自分だけではないだろうと考え、同じように感じている他の人を捜して展開してみます。そのような人を見つけたら、「嫌い」を共有し、ストレスの分散を試みます。
(中略)
もう一つは「転換」です。
(中略)
その「嫌い」を解決することは大きなビジネスにつながる可能性があり、「嫌い」が「飯の種」「宝の山」になるかもしれないという発想の転換をするのです。

といった「かわし方」が有力なやり方になるようなのですが、確かに、嫌いなものを無理に好きになれと強要されるより、よほど現実的な手法のような気がします。こうした観点を基礎において、「きらいな人」の対処法が、いくつかのパターンに分けてアドバイスされているので、詳しくは本書で確認してくださいね。

そして、こうした「かわし方」「対処法」が大事だな、と思うのは家族や自分に対しての「嫌い」という感情がどうしようもなく生ずるときで、

考えてみれば、家族と知っても、まったく違う人格の人間が一緒に家にいるわけですから、本来衝突があっても当たり前なのです。
(中略)
悲しいことではありますが、家族だから話せばわかる、調製し合えるとは限りません

若者が不安を強く感じ、事故権をに陥ることは、実は成長するためには意味のあることで、大事な仕組みでもあるのです。
(中略)
脳が感じる不安=嫌いによって、もっと成長したいと願い、能力をみにつけるために努力いようとするのです。
つまり自分を嫌うことが、成長に向かわせるのです。

といったアドバイスには、少し「心」が軽くなるような気がしてきませんか。
「嫌ってはいけない」という感情に押しつぶされになっている人には、ぜほ読んでほしい一冊ですね。

レビュアーからひと言

本書の中でも

はっきり言いましょう。関係性はどうあれ、嫌いな人は嫌いなのです。どんなに頑張っても、嫌いになてしまうときは嫌いになってしまうのです。そして、嫌いな人との関係性をどうするかは、あなたの自由です。

といったあたりは、かなり乱暴な言説かもしれませんが、同調篤圧力が強い、と言われる日本人には、ある意味、とても有効なアドバイスのようにも思えます。人の目をそんなにきにすることなく、「ダメなものはダメ」と割り切って対処することも時には必要なのかもしれません。

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