Z世代の新感覚探偵が「旧家」の遺産相続の謎を解くー田村由美「ミステリと言う勿れ」3・4

天然パーマが爆発したような特徴的なカリフラワーヘアーの持ち主で、人と交わるのが苦手な心理学専攻の大学生・久能整(くのう・ととのう)が、望まないのに向こうのほうから降りかかってくる奇妙な事件を、その丁寧で鋭い観察力と、雑多な博学的知識をもとに謎解きをしていく。Z世代が探偵の新感覚ミステリー・シリーズ『田村由美「ミステリと言う勿れ」』の第3弾と第4弾

構成と注目ポイント

旧家の遺産相続に隠された陰惨な過去

第3巻の構成は

 episode4−2 相続人の事情
 episode4−3 落とされたものは
 episode4−4 鬼の集
 episode4−5 殺すのがが早すぎた
 おまけのたむたむたいむ

となっていて、第2巻の後半で、広島で開催された「印象派展」を観にいったところ、旧家の遺産相続騒動に巻き込まれたのですが、その顛末が描かれます。

少しばかり復習すると、旧家の名前は「狩集家」の先代の当主・狩集幸長の遺言で、一族の孫世代の「狩集理紀之助」「波々壁新音」「赤峰ゆら」「狩集汐路」の4人のうちから後継者を選ぶことになって、その方法がそれぞれに敷地内にある「蔵」を一つづつ割当て、それぞれの蔵で「あるべきものをあるべき所へ過不足なく、する」という課題を最もうまくこなしたものを相続人にするというものです。

変なクイズみたいな課題なのですが、この一族では、過去いつもこんな得体のしれない「お題」がでて、その出来を争う形が踏襲されているのですが、そのたびに相続人候補から何人も死者が出るという因縁の相続争いです。先回のときには、今回の孫世代の親となる相続人候補全員が乗った車が、運転手であった「汐路」の父親の居眠り運転で崖下に転落して全員が死んでしまうという事故がおきてます。果たして、今回は・・という筋立てですね。

それぞれが割り当てられた蔵には「人形」「宮島焼の器」「座敷牢」「毛がこびりついた鎧と血まみれの刀」が入っています。そして、「あるべきものをあるべき所へ過不足なく、する」という謎解きに挑戦する汐路たちに、植木鉢が落ちてきたり、階段に油が撒かれていたり、といいつたえのように死人がでそうな展開をしていくのですが、ここで、本シリーズの新感覚名探偵「久能整」が、この言い伝えを利用した、「汐路」の企みに気づき、といった展開となります。

ネタバレをここで少ししておくと、一応の決着かなと思わせておいて、もう一段階、作者は仕掛けを講じているので要注意です。汐路の犯行を利用しながら、遺産相続争いの中で、ある特徴をもっている者を殺そうとする人物が別にいることに「整」は気づくのですが、その動機は、一族が江戸末期に富を蓄えてのし上がった秘密がかくされていて・・・と一挙に、旧家の因縁話の真相へとつながっていきます。

Bitly

爆弾魔と引退刑事の事件の思い出話

続く第4巻の構成は

 episode4−5 殺すのが早すぎた
 episode5 雨は俎上に降る
 episode6 ばちあたり夜話
 episode7 暖かいのか温かいのか
 おまけのたむたむたいむ

となっていて、最初の話で、汐路たちの親4人が転落死した真相が明らかになります。

そしてあわせて一族が抱えてきた「因縁」も浄化されることになりますね。「整」のこの言葉が

意味深です。

ついでにネタバレしておくと、事件が解決して東京への帰り際の「広島駅」で、「整」は小学校の頃の同級生に偶然出会うのですが彼は「人違い」だと否定するシーンが出てきます。このあたり、彼が隠している幼少期の秘密につながりそうなところですね。

episode5「雨は俎上に降る」は「整」が雨の中、昼食をとるために外出したところ、土手沿いのベンチに、雨に濡れたままで座り込む男に出会います。
彼は記憶喪失にかかっている上に、まるでラリっているようでしゃべる内容も要領を得ません。「整」が相手をしていろいろ聞き出しているうちに

ととんでもないことを言い出して・・・、という展開ですね。おまけに、爆弾の爆破予定時刻のトリックに気づくあたりは流石です。

episode6「ばちあたり夜話」では、前話で爆弾魔と会っていた土手から足を滑らせて転落したため、運び込まれた病院で巻き込まれた奇妙なできごとです。
検査のために一晩入院することになった「整」なのですが、一人きりと思い込んでいた病室で、一人の老人と相部屋になります。

彼は現役時代は刑事をしていて、そのときに担当した日本版「切裂きジャック」事件のことを話してくれます。ある時、一人の女性から「ジャック」らしい人物から狙われているので保護してくれという依頼が入り、指定された場所に相棒の刑事といっしょに向かうのですが、彼が着替えのために自室に少し立ち寄って遅れた間に、その女性が殺され、相棒の刑事は瀕死の重傷を負ってしまいます。その後、「ジャック」の容疑者は行方知れずになったのですが、実はそこにはある秘密が隠されていて・・という謎解きです。連続殺人事件の犯人が全部、同じ犯人とは限らない、というアガサ・クリスティの「ABC殺人事件」の”のり”ですね。

episode7「暖かいのか温かいのか」では、病院の掲示板に貼られている掲示物が誤字だらけなのが気になった「整」は、それをつなぎあわせてこれに秘められた暗号を解き、それに従って病院内の温室に行きます。
そこで、温室の管理をしている女性が隠していた秘密を見つけてしまうのですが・・・という展開です。その秘密を解いたヒントは、温室の床に○ー○ー○という形式で書かれていた数字で、それは、前話ででてきたマルクス・アウレリウスの「自省録」のページ数ー行数ー何文字目にあたるかを示しています。このメッセージが謎解きのヒントになるのですが、それを「整」の示してくれた女性「ライカ」が次のタームの重要人物となっていくことになります。

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レビュアーの一言ー「星座の指輪」の意味するものは何?

第4巻のepisode5や6では、爆弾魔が牡羊座が刻まれた指輪をしていたり、「整」が入院したときに、「我路」から射手座の刻まれた指輪がお見舞いに贈られてきたり、と「星座の指輪」がなにかのキーワードになってきている感じがします。第3巻や第4巻ではまだそれに関する謎解きの気配がないので、次巻以降の展開でしょうか。

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