国の隆盛・凋落の秘密は歴史的事象にあったー野口悠紀雄「リープ・フロッグ」

中国の経済面・研究面の躍進が注目を集める中で、「リープフロッグ」。カエルが跳躍して何かを跳び越えるように、それまで送れていた国が、ある時、急激に発展し、先を行く国を飛び越えて、世界の先頭に躍り出て、世界を牽引する現象が注目を浴びています。
それと並行して、今までトップで牽引していた国が、その原動力となった制度などが足枷となって失速していく現象も露わになっています。
その「リープフロッグ」現象をわかりやすく説明するとともに、凋落していきつつある「日本」の再生の道筋を提案しているのが本書『野口悠紀雄「リープ・フロッグ」(文春新書)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第1章 中国成長の秘密はリープフロッグ
第2章 ヨーロッパ最貧国が世界のトップに
第3章 世界最先端にいた中国は、リープフロッグされた
第4章 リープフロッグが次々に起きた大航海時代
第5章 産業革命をリードしたイギリスが、リープフロッグされる
第6章 リープフロッグにはビジネスモデルが必要
第7章 日本は逆転勝ちできるか?

となっていて、第1章と第2章は、最近、経済面でも研究面や社会生活の面でもトップのひとつに躍り出て、世界をリードしている中国やヨーロッパの最も貧しい国といわれていたのがITビジネスの中心となったアイルランドの分析、第3章から第5章は、過去の世界の歴史を振り返って、古代から中世にかけて科学や文化の中心であった「中国」、大航海時代をリードして世界帝国を築いた「ポルトガル」、産業革命で世界経済の中心となって「イギリス」の隆盛にいたる姿と凋落する姿が書かれています。

このあたりは歴史の教科書で知ってるよ、という人も多いかと思いますが、注目しておきたいのは

中国は、地球を周航できる技術を持っていたにもかかわらず、それを実行しようとはしませんでした。そのため、太平洋を横断して「新大陸」を発見することがなかったのです。こうして、中国は高い技術水準を持ちながら、歴史の動きから大きく立ち遅れることになました。ある時点以降、ョーロッパは地球規模で膨張していったのに対して、中国は500年の大停滞に陥りました。技術的には優越していた中国がその後の世界をリードできなかったのは、基本的な社会体制の違いによると考えざるを得ません

というところで、「リープフロッグ」という大逆転現象がおきる理由に、社会的「制度」「システム」の部分に着目していることでしょう。
国の勢いを落ちる理由に、人口の減少や、資源量などが言われるとともに、民族性みたいな話がでることがあるのですが、本書の理論からすると、そういった「運命論」的な話はちょっと脇に置いておいたほうがいいようです。
つまりは、今までうまくいってたから、と過去に胡坐をかいていると必ず古い制度が足枷になるということは認識しておかないといけないようです。ただ、ここで難しいのが

人口が500万人に満たない島国では、自動車産業などの製造業が発展することは望みえません。それは、ドイツやフランスなどの産業大国の役割です。20世紀型の産業構造において、アイルランドが貧しい島国にとどまらぎるをえなかったのは、必然的な現象だったのです。
そして、彼は、つぎのように言いました。「90年代に世界が変わった。そして、その変化は、アイルランドのような国に有利な変化だった」。
確かに、世界が変わったのです。しかも、アイルランドのような国にとって有利に変わったのです。ITが登場しなければ、アイルランドの経済成長はありえなかったでしょう

といったように、波にのれるかどうかは、かなりの偶然性に左右される、といったところでしょう。真面目に課題をつぶしていっているのでは、キャッチアップはできても、リープフロッグは起きない、という指摘は、国家という大きなレベルだけではなく、一組織の行く末を考えていく上で多くの示唆を含んでいると思います。

そして、「凋落」しているといわれる日本の「復活の方策」が第7章で考察されているのですが、ここは

キャッチアップ型の経済成長においては、先進国というモデルが存在するために、ビジネスモデルはすでに存在しています。そのため、政府がリードしてそれを実現するのが効率的な方法なのですが、リープフロッグの場合には、そういうわけにはいきません。
(中略)
私はこの質問自体に、現在の日本人のメンタリティが現われていると思います。つまり、改革をリードするのは政府の役割であるという考え方です。
これはキャッチァップ型の経済成長の場合です。日本はかってそれによって成功したので、こうした考えが人々の頭に染み付いてしまったのでしょう。しかし、リープフロッグは、このような思考法を変えない限り、実現できません。

というところを引用しておきましょう。「民間」であればなんでも善で、政府であればなんでも駄目という短絡的な思考に陥るとマズいとは思うのですが、最近、政府のメッセージが変な方向にいってしまうことが目立つので、ここはこの忠告を、政府も民間も踏まえたほうがよい気がします。

レビュアーのひと言

本書の主題は「国家の隆盛と凋落」といった歴史的な視点から書かれてはいるのですが、それぞれの個人のライフプランに置き換えて考えてみてもいいかもしれません。
特に、新型コロナウィルスなどの突発的な事象で、経済活動やワークスタイル、ライフスタイルの大きな変化が余儀なくされるときに、変化に呑み込まれて沈没しないためには、いままでの人生の「成功パターン」をチャラにする勇気も必要です。個人の「リープフロッグ」のおこし方を本書をヒントに考えてみてはどうでしょうか。

リープフロッグ 逆転勝ちの経済学 (文春新書)
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