パリピの「ライオン・ガール」探偵、平塚に誕生ー東川篤哉「ライオンの棲む街」

神奈川県のほぼ中央部、茅ヶ崎市と大磯町に挟まれた「湘南地区」の中心あたりにありながら、イメージ的には後れを取っている感のある「平塚市」。その市内の相模川沿いの雑居ビル「海猫ビルディング」で探偵業を営む27歳の「野生ライオン」こと「生野(しょうの)エルザ」と、彼女の同級生の元OL「川島美伽(かわしまみか)」の二人が、地元で起きる難(?)事件を、速攻かつ乱暴に解決していく探偵ミステリ―「平塚おんな探偵の事件簿」シリーズの第1弾が本書『東川篤哉「ライオンの棲む街 平塚おんな探偵の事件簿1」(祥伝社文庫)』です。

収録と注目ポイント

収録は

第一話 女探偵は眠らない
第二話 彼女の爪痕のバラード
第三話 ひらつか七夕まつり
第四話 不在証明は鏡の中
第五話 女探偵の密室と友情

となっていて、物語はまず、東京で地味なOLをやっていた本シリーズのメインキャストの片割れ「川島美伽」が、会社を退職したところ同級生の「生野エルザ」からの誘いに釣られて、彼女の探偵事務所へやってくるところから始まります。この「生野エルザ」という女性、

男の子を思わせるショートヘアは、茶色もしくは欧銀色に近い色合い、それは高校時代から彼女の最大の自慢であり、いわばエルザのたてがみだ。鋭角的な顎のラインと引き締まった口元は遺志の強さを表し、他人を馬鹿にするような尖った花は高慢さの象徴。・・・街を歩けば、知らない男に口説かれるか、いちゃもんを点けられるか、どちらにしても面倒に巻き込まれるタイプ

といった風貌で

濃紺のデニムのミニスカートから伸びた脚は、同性の私から見ても、菜電話したくなるほど魅力的だ、

という様子なのだが、口を開くと、乱暴な「タメ口」で、探偵事務所に依頼に来る客の半分以上は、そのせいで怒って帰ってしまうという、とっても「個性的」な女性探偵です。

そして、ただいまプータロー中の「私」こと「「川島美伽」は、彼女の探偵助手として、エルザの「タメ口の補正」と「突進気味の行動」の調教役として働き始める、という設定です。

まず第一の事件「女探偵は眠らない」では婚約者の浮気疑惑の調査依頼が入ります。依頼者・沼田一美の婚約者・杉浦圭太は真面目で男らしいイケメンということで女性にもてそうなタイプなのだが、最近、電話にでなかったり、休日のデートも御無沙汰という状況が続いているとこと。調査を引き受けたエルザたちは杉浦の「隠れ家」らしきアパートを見つけ、浮気現場をおさえるためアパート近くで張り込みを始めます。そして、その部屋へ派ながらワンピースの女が入り、しばらくしてあわてて部屋を出ていった様子から不審をいだいたエルザたちが踏む混むとそこには、バスタブの中に裸で後ろから刺されて死んでいる「杉浦」の死体が転がっていて、という展開です。
この「花柄ワンピの女」の正体を突き止めるのが、この話の謎解きなのですが、果たして「浮気相手はいたのか」というあたりがヒントになります。

第二話の「彼女の爪痕のバラード」では、高級和菓子会社の社員から、家出して行方不明になっている恋人の捜索依頼が入ります。その恋人は市内のスナックで働いていた21歳の女性なのですが、実家の母親が彼氏と旅行に出て帰っきたら行方がわからなくなっていた、というもの。ひょっとすると何か事件に巻き込まれてているのでは、とエルザたちが調査を進めていると、依頼者の男性が相模川の河川敷で死体で発見される、という展開です。
失踪した女性の自宅の部屋に何か手がかりがないかと、エルザは、午前中から夕方まで調べまわるのですが、夕方になって偶然、エルザは何か手がかりを発見します。そして、女性の母親に、今夜は家にいないほうがいい、と忠告します、さて、その理由は・・といった筋立てです。あやうく、母親の「彼氏」に疑いをもっていこうとする作者の罠にひっかかりそうになるので注意してください。

第三話の「ひらつか七夕まつり」では、平塚市の夏のイベントの夏祭り会場の近くの路上で、男性大学講師が刺殺されます。その殺人の容疑者として大学講師とつきあっていた女子大生が浮上するのですが、その女子大生には犯行時刻ごろ、アリバイがあって犯行はほぼ無理。そのアリバイというのが、エルザたちが、その女子大生のルームメイトから、ルームメイトの恋人と浮気していないか見張ってくれと依頼を受け、夏祭りの間中、後を付け回して監視していた、というものです。有力容疑者の無実をエルザたちが立証したことになるのですが、実は・・・という筋立てです。ちょっとネタバレすると、目撃者に印象を植え付ける「時間差」アリバイ工作です。

第四話の「不在証明は鏡の中」の調査依頼は、悪徳占い師に騙されている姉を捜してくれという妹の依頼なのですが、調査対象自体はすぐに見つかります。謎解きのメインは、その占い師が、お客を信奉させるように仕向ける「鏡の部屋」のトリックで、その部屋の中央に置かれている鏡には、占い師の姿は映っても、占い師の前にいるお客の姿は映らない、という現象が起きます。姿が映っていないことを聞いた占い師は、「未来が消滅する」ことを意味していると告げるのですが、といった展開です。
この話では、囮となって潜入した「美伽」が占い師にしっかりと騙されてしまうことになりますが、鏡の形は長方形や円形とは限らないというのが謎解きのヒントです。

第五話の「女探偵の密室と友情」では、依頼主の老女・日高静江の夫の死亡事件の謎解きです。その老夫婦はあるマンションの7階に住んでいたのですが、ある朝、静江の夫が首に使い古したタオルを巻いて、藤の椅子に座ったまま窒息死しているのが発見されます。発見されたのは老女の寝室で、眠っていた彼女が起きた時にはすでに死亡していたという状況。

本来なら、彼女が犯人と疑われるところなのですが、静江は女性で非力なうえに足も不自由なので犯行は無理。さらに、そのマンションには老夫婦の医者をしている甥が泊まっていた上に、その寝室は内部からドアが目張りされていた「密室状態」となっていて、外部からの侵入者による犯行も無理、といったシチュエーションで、警察からは自殺として処理されそうになっています。しかし、夫が自殺する原因がわからない静江が、エルザたちに調査依頼をしてきた、という設定です。

そして、調査を進める「美伽」はある夜、マンションで「藤の椅子」を運び出そうとしている不審な男を見つけ、その藤の椅子が運び出された小屋の中で忍び込んで確認していると、背後から何者かに後頭部を強打されて失神させられ、目が覚めると依頼者の静江が使っていたベッドに括りつけられていて・・という展開です。
ネタバレを少ししておくと、発見現場と犯行現場が同じとは限らない、というトリックです。

レビュアーから一言

女性の探偵モノというと、主人公が何かくらい過去を抱えていたり、自分の親しい人を殺した犯人を探している、といった「いわくつき」のことが多いのですが、ユーモアミステリーが「ウリ」の筆者だけあって、年令は27歳、スタイル抜群のパリピ娘という、なんとも魅力的な「探偵」を送り出してきました。しかも、相棒となる助手役も、見た目は地味ながら、ノリは主人公の「エルザ」と「同類」という女性なので、かなり派手な展開になるのは間違いないところです。しかし、トリックのほうはそれなりに造り込みがされているので、安心して、謎解きとエルザ・美伽の活躍をお楽しみください。

ライオンの棲む街――平塚おんな探偵の事件簿1 (祥伝社文庫)
都会で夢破れ、故郷・平塚に帰ってきた元OLの川島美伽は、高校時代の旧友・生&...

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