「あお」は羅生門河岸の生霊の想いを晴らすー安達智「あおのたつき」5

江戸を代表する遊郭「新吉原」の羅生門河岸の角にある「九郎助稲荷」の奥の浮世と冥土の境にある「鎮守の社」を舞台に、売れっ子の時に死んだ花魁の霊「あお」と宮司の「楽丸」と社の主神・薄神の三人が、思いを遺して死んだ遊女の霊を浄化させていく、少しコミカルなオカルト時代劇本『安達智「あおのたつき」(マンガボックス)』シリーズの第5弾です。

前巻で廓番の鍵の復活のために、怒宮司の「朧神白狐社」での修験のテストを乗り越えて2つ目の認証を得た「薬丸」と「あお」が三番目の「淡神白狐社」へ向かいます。

構成と注目ポイント

構成は

其ノ弐拾壱 淡神白狐社①
其ノ弐拾弐 淡神白狐社②
其ノ弐拾参 淡神白狐社③
其ノ弐拾肆 淡神白狐社④
其ノ弐拾伍 儚神白狐社①
特別編 吉原俄

となっていて、第1話目から第4話目までは、楽丸の鍵の承認権限をもっている吉原五稲荷社を総括する立場である「廓番総頭」の「喜丸大宮司」の試験を受ける話。彼のお題は、人が持っている様々な「わだかまり」を、喜丸大宮司が、巻物の力で具現化した「肚の蟲」を捕まえ、蟲籠に戻す、というもの。

ただし、今回、捕まえる「蟲」の元の宿主は、吉原の大門の前に夜な夜な出るといって騒ぎになっていた生霊で、かなり霊力も強く、すでに死者である「あお」はこれに強く共感して蟲の中に呑み込まれてしまいます。

そして、その蟲の中で「あお」が出会った生霊は、二上山の西の「鳴村」の名主の息子を「間夫」にしている女郎の生霊なのですが、なかなかこないその男を待って、毎夜大門前にろくろ首となって現れたものです。「二上山」は奈良県の葛城市と大阪府の太子町にまたがる二つの頂きを持つ山で、その間に陽が沈む様子から上山と昔から言われてきた山で、ここには天武天皇の息子で、謀反の疑いで刑死した「大津皇子」の墓所がありますね。この「神」の山と「鳴村」に込められている謎を「あお」が解くのですが・・という展開です。

(「二条山」について詳しく知りたい人は、「icotto 心みちるたび」の”奈良・美しい双耳峰の山「二上山」のハイキングと観光スポット紹介”(https://icotto.jp/presses/134)をどうぞ)

見事、今回も「あお」と薬丸は、廓番の出した試験に見事合格できるのですが、実は「喜丸大宮司」の隠された目的も「あお」を悪霊化して、薬丸のもとから追い払うこと。よくよく廓番からは疫病神のように思われているようです。

このいろんな目的を重ねた試験を課した喜丸大宮司に対し、「あお」は

と訴えます。「わだかまり」の本質を知りながら、それを抱えている者を救おうとしない「喜丸大宮司」への抗議でしょうか。

今回出会った生霊は、羅生門河岸の最下級の女郎屋「暗闇長屋」の女郎なのですが、「女郎蜘蛛」のときで見たように「あお」たちの行う除霊が現実の世界とリンクしているのは証明済みです。「あお」が「わだかまり」を解消したことが、現実のほうでどう影響したかは原書のほうでお確かめください。

レビュアーから一言

この話ででてくる生霊の主の住んでいる「羅生門河岸」という名は、ここのいる女郎たちが通りを歩く男性の服や荷物をつかんで、見世の中に無理やりひきずりこんだことに由来しているのですが、ここの女郎たちは別名「鉄砲」と呼ばれていました。「鉄砲」というのは「河豚」の別名でもあって、この場合は「下手をすると(毒に)あたる」ということなのですが、羅生門河岸の「毒」はいわゆる梅毒のことで、これは最終話の「吉原俄」にも通じる話で、江戸期の吉原の暗い部分ですね。

Bitly

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