浪士組は芹沢鴨たち水戸派の支配にーヒラマツ・ミノル「アサギロ」13〜15

幕末の歴史を、薩摩の西郷隆盛や長州の桂小五郎といった倒幕勢力や土佐の坂本龍馬といった維新志士たちの対抗勢力として、必殺の剛剣をふるって、京都の街を血で染め「浅葱色の狼」として恐れられた新選組の近藤勇や土方歳三、沖田総司の姿を描いた「アサギロ」シリーズの第13弾から第15弾。

清河八郎たちと決別し、京に居残った芹沢と近藤たちで、会津藩お抱えの地位を勝ち取り、壬生の浪士組として京都の市中警護の任に就いたのですが、水戸派と江戸派の組織内の対立は深まるとともに、芹沢たちの押借りをはじめとした乱行が目立ってくるのがこのタームです。

構成と注目ポイント

第13巻 天下の鴻池から借金して「ダンダラ模様」の隊服をつくる 

第13巻の構成は

第78話 五十両
第79話 師、松原忠司
第80話 いかほどででございましょう
第81話 ”誠”
第82話 黒船
第83話 肥後の人斬り

となっていて、まずは、芹沢鴨の愛妾で、彼が暗殺された時に一緒に斬られた「お梅」と芹沢との出会いの場面で始まります。

お梅は島原のお茶屋にいたのを京都の呉服商・菱屋が妾にしていたのですが、芹沢のつけを菱屋が彼女に取り立てに行かせたのがきっかけで芹沢の愛妾となったという経緯です。このシリーズでも芹沢のそばに侍って彼の行動に影響を及ぼしていますね。

中盤あたりでは新選組のトレードマークとなった、ダンダラ模様の羽織と「誠」の字を彫った鉢金の誕生秘話です。

発端は、芹沢たちが京都の商人たちから金を押借りやみかじめ料の強要などで、浪士組の評判がとても悪くなっていて、下手をすると会津藩のお預かりの取り消しもありうる事態をなんとかするため、土方歳三が、芹沢をそそのかして、関西一の豪商・鴻池へ借金を申し込みにいったところから始まります。

で、この借金の交渉のときに、土方が言い出した金額が五百両。これで浪士組に隊服と具足を揃え、大阪へ下阪してくる将軍・家茂の警護の隊列にそれを着て加わる、というものです。この借金の申し込みの際の挙動に、芹沢や新見錦とはちょっと性質の違う土方の「胆力」のようなものが現れていますね。

で、こうしてつくった隊服なのですが、黒っぽい衣装の多い会津勢の中でとりわけ目立つこととなり、これから新選組の「シンボル」となりますね。

もっとも、土方は、この衣装で目立ちたがり屋の芹沢をおだてるとともに、彼の行動が牽制できるのでは、と思っていたようなのですが、これは見事に失敗します。これ以後も、芹沢を含めた「水戸派」の押借りのクセは収まらず、土方は別の方策を次巻で講じることとなります。

Bitly

第14巻 悪名高き「局中法度」制定。ターゲットは誰?

第14巻の構成は

第84話 一手、お頼み申します
第85話 柔術の猛者
第86話 骨のある者たち
第87話 蟄居中
第88話 虎穴にて
第89話 禁令

となっていて、前半から中盤にかけては、浪士組に新たに加わった佐々木愛次郎が主人公です。

彼は柔術の使い手であるとともに、隊内きっての美男剣士として有名だったのですが、入隊後、わずか3月後に暗殺された隊士ですね。
愛次郎は、浪士組に潜入していている長州の間者・佐伯又三郎の不興をかったために、彼の密告で、佐幕派の暗殺を大々的にやっている河上彦斎の標的として狙われることになり、愛次郎を庇って、彼の柔術の師・松原が左腕を切り落とされるという大怪我をすることになります。

このトラウマが、見世物小屋で芹沢が起こしたトラブルがもとで、中国人の娘・宇春と知り合い、彼女に惹かれていった理由かもしれません。愛次郎と宇春の恋物語は次巻で描かれているので、詳しくはそちらで。

この巻でおさえておかないといけないのは、

一、士道ニ背キ間敷事
一、局ヲ脱スルヲ不許
一、勝手ニ金策致不可
一、勝手ニ訴訟取扱不可
一、私ノ闘事ヲ不許
右条々 相背候者 切腹申付クベク候也

という、後に新選組の「局中法度」と言われるようになった禁令が定められることでしょう。新選組の”鉄の規律”として知られ、隊内の規律の確保にとんでもない効果をもつとともに、隊内の「粛清」の根拠として多用されるようになった、血塗られた禁令ですね。
これを定めたときは、芹沢は自分だけは「例外」の禁令と思っていたのか大賛成で、後に、この「法度」が水戸派を殲滅し、試衛館メンバーを中心とする江戸派が組内を支配する権力基盤となることには気づかなかったようです。

この局中法度制定の目的は、次巻で土方に

と語らせていますね。

Bitly

第15巻 愛次郎は恋人・宇春を守り斃れる

第15巻の構成は

第90話 ”首斬り”愛次郎
第91話 愛次郎と宇春
第92話 二人の隊士
第93話 猿ヶ辻
第94話 田中新兵衛
第95話 浪士組最強の男

となっていて、前半は、愛次郎と見世物小屋の虎の世話をしていた中国人の娘・宇春との恋バナです。

局中法度の制定後、法度を破る隊士が相次ぐのですが、この切腹の介錯の役目を「愛次郎」が任されることが多く、彼には「首斬り愛次郎」という異名さえつくようになっています。その憂さを晴らすかのように、愛次郎は遊郭で、見世物小屋の虎の世話をしていた中国人の娘・宇春に再会します。商売敵によって虎が毒殺されてしまったので小屋主が少しでも損害を取り戻すために、遊郭に売り飛ばした、ということですね。

彼女に惹かれる愛次郎は、宇春の身請けをするために金策に奔るのですが、これを救ったのがあの芹沢鴨。芹沢は、愛次郎の借金を肩代わりしてくれるのですが、実は、芹沢には宇春を妾にしょうという下心があります。
ここで、長州の間者である佐伯又三郎が、愛次郎に彼女を連れて脱隊し、長州へ逃亡しろとアドバイスしてくるのですが、実は彼にも魂胆があって・・・という展開です。

巻の後半では、浪士組内部の抗争から離れ、幕末の熱狂的な攘夷論者で、国粋主義で志士たちを扇動した思想家・真木和泉によって動かされていく、長州と京都の朝廷が描かれます。

彼は久坂玄瑞と呼応して長州藩にイギリス艦隊を砲撃させるとともに、攘夷慎重派の姉小路公知を暗殺した上に、その犯人として薩摩藩の「人斬り新兵衛」こと田中新兵衛に罪をかぶせて、御所の警備から薩摩藩を排除し、長州藩で独占することに成功します。

真木についてはいろんな評価があるのですが、幕末の一時期を動かした思想家であることには間違いないですね。

Bitly

レビュアーから一言

佐々木愛次郎の暗殺を巡っては、美人で有名な愛次郎の恋人「あぐり」を芹沢が妾にしようとしたのから逃れようとして彼らに殺された、とか、愛次郎は実は長州に間者で、」新選組に寝返りそうになったので長州によって始末された、といった説が混在しているのですが、このシリーズの話が一番”哀しくて、美しい”かもしれません。

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