「南蛮」の野望と「信長」の本音が今、手を結ぶー梶川卓郎「信長のシェフ」29

現代からタイムスリップをしたフレンチのシェフが、織田信長の専属料理人となった上に、彼の命を受けて信長の前に立ちはだかる様々な難題を「料理」によって解決していく『梶川卓郎「信長のシェフ」(芳文社コミックス)』シリーズの第29巻。

前巻で本願寺を降伏させ、日本統一に向けて大きく踏み出しつつも、日本を勢力下におさめようとする南蛮勢力が姿を現します。この南蛮勢力の尖兵となっている宣教師たちと対峙する信長とケンの姿が描かれます。

構成と注目ポイント

構成は

第238話 地を分かつ者たち
第239話 隠さねばならぬもの
第240話 消えた従者を求めて
第241話 五条橋の名物
第242話 馬揃えの裏側で
第243話 最悪の事態
第244話 大航海時代と料理
第245話 隠された狙い

となっていて、まずは「ポルトガル」の意をうけたヴァリニャーノと信長との京都での面談からスタートします。

ヴァリニャーノは「巡察使」として日本各地を訪れていて、大友宗麟や高山右近などキリシタン大名として有名な人達と面談しているのですが、当時、日本で一番権勢を誇っていた「信長」と面談し、彼から協力を引き出そうという計画のようです。

本巻で、通史的なものとちょっと違ってくるのは、後に信長の小姓となった黒人奴隷の「ヤスケ」を信長の目から隠そうとしていることですね。ヴァリニャーノは、彼の従者・ヤスケを見たいという信長の依頼に対し、すでに堺の港へ発たせたと嘘をついて彼と信長とを会わそうとしません。その理由は・・というところが今巻の山場の一つなのですが、とりあえず、京都市中に隠れている「ヤスケ」の探索を、市内に買い物に出ていた「ケン」が始めることとなります。この探索で有効打となるのが、「チキンナゲット」につけたケチャップなのですが、その詳細は原書のほうでどうぞ。

中盤部分では、日本をキリスト教国にして一気にポルトガルの勢力下におこうという魂胆を秘めたヴァリニャーノほかの宣教師たちを「天正の馬揃え」へ招待します。この馬揃えは、通説では、武田、上杉を降し、本願寺勢を退け、京都を支配する信長が、いまだ敵対する各地の戦国大名たちへ力を誇示したものとされているのですが、本書では、力を誇示する相手がもう一つ存在した、という解釈をしているようですね。

そして後半部分で、信長勢力の武力を十分認識したヴァリニャーノは、ヨーロッパでポルトガルがスペインの勢力下に入ったという知らせを受け、日本をキリスト教国にして支配下におき明国を征服しようという本当の目的を一部変更します。ヴァリニャーノたちの属するイエズス会は修道会の中でも新参で力が弱かったため、古参の修道会の圧迫により日本から追放されるのを防ぐため、早急に強力な「信長勢力」と結びつく必要がでてきたというわけですね。
そして、ヴァリニャーノが信長に提案したのは、日本国王として「明国」を滅ぼし、中華の皇帝にもなって欲しいというものなのですが、果たして信長の反応は・・・という展開です。

これが、本能寺の変、秀吉の唐入りと安土桃山時代の後半部分の大トピックスの骨格となってくるのですが、詳細は本書のほうでどうぞ。

レビュアーから一言

本巻で、宣教師たちの親玉として登場するヴァリニャーノは、通説では日本人のキリスト教司祭を認めるなど、前任の日本の布教の責任者で、日本人を含むアジア人を馬鹿にし、嫌っていたカブラルとは違い、日本人の能力を評価した人徳者とされているのですが、本書では、直情径行で単純なカブラルに対し、冷静で、したたかな陰謀家として描かれています。ちゃんとした宗教家であったのはマチガイないでしょうが、そうした陰の部分なしでは、戦に明け暮れていた戦国大名たちの信頼を得て、キリスト教の勢力を伸ばす、なんてのはできなかったかもしれません。

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