荘丹ら三侠は連合軍の総司令官となり、秦国軍を撃破ー王欣太「達人伝」4〜6

二百年続いた中国戦国時代の晩期。西方の強国・秦が周辺諸国に強大な力を背景に強圧をかけつつあるが、他の五国にまだ、秦の強権的なやり方に反抗する力の残っていた時代に、荘子の孫「荘丹」、伝説の料理人・包丁の甥「丁烹」、周の貴族出身ながらある事情でそれを捨てた「無名」び三人の男が、「法律」と「統制」で民衆を縛る秦の中原統一の野望に抵抗する姿を描く『王欣太「達人伝ー9万里を風に乗りー」(アクションコミックス)』シリーズの第4弾から第6弾

前巻までで、三人の主人公たちが出会い、中国の伝説の盗賊・盗跖、中原の戦国四君の一人で「鶏鳴狗盗」の故事で有名な孟嘗君のお墨付きをもらった、荘丹、丁烹、無名が、魏の王族で戦国の四君の一人「信陵君」のもとへいき、そこから秦と魏との戦に参画していきます。

構成と注目ポイント

第4巻 洛陽で「無名」の秘密が明らかになる

第4巻の構成は

第十九話 渦の中へ
第二十話 華陽の軍議
第二十一話 無名の沈黙
第二十二話 くそったれの洛陽
第二十三話 チータイ先生
第二十四話 森の遭難者

となっていて、荘丹たちが、孟嘗君の今際の際にもらった紹介状を携えて、戦国四君の一人「信陵君」のもとへ向かうところから始まります。

信陵君は戦国七雄の一つ「魏」の王族の一員で、その優れた能力で他の諸国との協力体制を作り上げ、秦を苦しめた傑物ですね。しかし、本書では

といった感じで表現されていて、思ったことをズバッというために、頭の固い宮廷役人や武将を怒らせることが多く、とりわけ、国王の安釐王に反感と疑惑をもたれ後に失脚してしまうことになります。

今巻では魏の華陽城にむけて秦の王齕将軍が進軍してきているという情報のもとに、魏、韓、趙の軍勢が集結しているところに、荘丹ら三人がやってくるという設定です。孟嘗君からの紹介状を携えていた三人は、すぐさま信陵君に信用され、三国の軍議の末席に連なるのですが、そこに王齕将軍の軍勢が華陽城ではなく、周の王都・洛陽を包囲しているという情報が入ります。すでに権力を失って抜け殻のような「周王朝」の首都を取り囲む意図を誰もがわからないのですが、「無名」だけは

と皆の心の支えとなっているものを破壊する「秦」の悪辣な作戦に気づいているようです。
そして、「周王室なんかくそくらえじゃ」という暴言を吐き、信陵君を始め、魏、韓、趙の将軍たちの反感をかってしまうのですが、この発言の根底には彼のの周王室に対する過去のわだかまりが関係しています。

この巻の後半部分では、「無名」が周王室の関係者であることが明らかになるとともに、彼がなぜこの洛陽の都を捨てたのか、ということがわかってきます。第一巻あたりの印象では、上昇志向のやけに強い軽薄な若者のように描かれていたのですが、名門の人間の悲しさが奥底にあったわけですね。ただ、この時の「王陵を破壊した」という旧悪が咎められて投獄されてしまいますね。

第5巻 王齕、洛陽の城兵を惨殺する

第5巻の構成は

第二十五話 王齕ぐるり
第二十六話 木鶏
第二十七話 激突一本橋
第二十八話 混沌の夜
第二十九話 潮流の先
第三十話 三侠、初陣!

となっていて、周王朝の首都「洛陽」を包囲した王齕の攻撃が始まります。

ただ、包囲軍による力攻めと思いきや、城壁に攻城機を仕掛けての、王齕自らの単独攻撃です。その攻撃は、周りを取り囲む城兵たちを束ねて切り捨てるというもの。この巻では「ほとんど処刑じゃないか」と表現してますね。

この王齕の毎夜の攻撃に対し、信陵君が立ち向かいます。攻城梯子の上で二人の一騎打っちが始まるのですが、なんとか引き分けに終わっています。

この一騎打ちで怪我をした信陵君は、これを利用して投獄されている三人を助け出し、其の上、彼らを王齕を迎え撃つ、魏・趙・韓連合軍の総司令官として推薦します。

「孟嘗君直伝の采配術を会得している」という信陵君のお墨付きを添えての推薦なので、連合軍の将軍たちとしても、半ばフェイクじゃね、と思いながらも、無下にするわけにはいかなかったということのようですね。そして、彼らの初陣の指揮の様子については、原書のほうでどうぞ。かなり危なっかしいですが、なんとか形にはなっているようです。

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第6巻 荘丹たちは秦国軍を撃破するが、白起、鯨骨の新たな危機迫る

第6巻の構成は

第三十一話 急襲
第三十二話 莫逆の友
第三十三話 王齕、日没前
第三十四話 戦場の経穴
第三十五話 無用の用
第三十六話 凶刃

となっていて、王齕軍のうちの黒衝騎を正面突破した後、荘丹らは兵を二つに分け、趙国軍を黒衝騎の抑えに残す一方、残りの4万の魏・韓連合軍で、洛陽を取り囲む笵束率いる秦国軍へ向けて兵を進めます。

二つに分けたといっても、趙国軍は体よく別働隊になって戦力を温存したという感じですね。

魏・韓連合軍の攻撃を受けた秦国軍は、無名や丁烹の指揮する戦闘部隊と、後方の舞台との分断を計り、まんまと成功します。ここでも、自軍の兵士を犠牲にしての秦国軍の戦法が使われていて、信陵君は味方の命を「モノ」のように使うやり方に憤慨していますね。
そして、先頭と分断された胴体にあたる後方部隊の殲滅にとりかかろうとするのですが、ここで祖父の教えに従った荘丹の采配が冴えてきて、秦国軍から守りきります。

そして、持ちこたえたところから、そのまま反撃に転じて、秦国軍を退却させることに成功します。

秦国軍を一旦退却させた、荘丹たちだったのですが、夜襲の得意な王齕軍に警戒して、斥候にでた荘丹たちは、以外にも華陽城の方向へ進む、秦の「白起」軍の姿を目撃します。荘丹たちは、王齕軍に洛陽を攻めさせて連合軍をひきつけ、その隙に、白起軍が華陽城を攻め落とす作戦かと推理するのですが、実は、それよりももっと恐ろしい目的が隠されていることが次巻でわかります。(ネタバレ的に付け加えておくと、この時すでに、王齕軍には秦国本土から撤収命令がでています)

そして、白起軍の到来を信陵君に知らせるため、荘丹たちが洛陽へ急行している頃、城内への秘密の地下道を使って、秦の刺客・鯨骨たちが潜入を始めています。彼らの目的は・・・というところで次巻以降へ続いていきます。

レビュアーから一言ー洛陽はプライドまみれの首都

中国の古代王朝「周」は全部で800年ぐらい続いていて、内乱のため都を「洛陽」に遷してからも500年ぐらいの歴史をもっています。周辺諸侯に圧迫されて「洛陽」周辺にしか勢力が及ばない弱小勢力になっていたとはいえ、趙、韓、魏など有力諸侯は、いずれも周王朝の配下だったのですから、格からいうと「周」がテッペンです。先祖代々、そこで暮らす貴族たちの「プライド」が、本書の描写でもにじみ出てきています。

「格式」「儀礼」で500年間染め抜かれた「洛陽」っていうのは、かなり窮屈なものに違いなく、「無名」が逃げ出したのはある意味正解であったような気がするのは庶民の偏見でしょうか・・・。

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