「なつめ」と「安吉」は次への飛躍に向け雌伏中ー篠綾子「子育て飴」江戸菓子舗照月堂8

徳川綱吉の時代を舞台にして、駒込の菓子屋・照月堂を舞台に、京都で御所侍をしていた両親と兄を火事で失い、江戸の了然尼のもとに身を寄せながら、女性職人見習いの「なつめ」の菓子職人修行を描く『篠綾子「江戸菓子舗照月堂」』シリーズの第8弾。

前巻で照月堂の商売をあの手この手で妨害をしていた「氷川屋」が一鶴堂という昔から職人の引き抜きで店を大きくしてきた店に親方を引き抜けれた苦難を救うため、照月堂の辰五郎を派遣したり、菊蔵が婿にはいり、照月堂の新たな体制となっての、「なつめ」が描かれるのが本巻です。

構成と注目ポイント

構成は

第一話 歌占
第二話 長命餅
第三話 子育て飴
第四話 あんじょう飴

となっていて、まず第一話では、「なつめ」の菓子作りの弱点が指摘されます。
それは、饅頭を一から終いまで一人でつくった時に明らかになったもので、いわゆる「ひるみ」ですね。今回は皮をつくるための小麦粉を後から付け足すということがあったのですが、それは以前、餡づくりでも砂糖の入れ方で見せた弱点と同じです。人の評判を気にしすぎる「なつめ」の優しさゆえのことなのですが、これが「職人の技術」としてどうなのか、というところですね。特に、従業員として勤める時はいいのでしょうが、自分の店を持ったときにどう影響するか、というところです。

本筋の「歌占」というのは、矢に結んだ「歌」を書いた紙を結んでおいて、引いた紙に書かれた歌によってその人の悩みを占いというものを、なつめが世話になっていた戸田露寒軒が始めるという筋立てです。ここの、以前に照月堂に勤めていて、店の金を持ち逃げした男が再び店に顔を出すことからひと悶着が起きるのですが、この「歌占」がその解決に結びつくか、といったところです。

第二話の「長命餅」は第一話で照月堂の前に現れた、過去に店の金を持ち逃げした「琳太郎」の妻の「おその」が照月堂へ受け入れられるまでが描かれます。流石に、金を持ち逃げした「琳太郎」は店に入ることは許されないのですが、「おその」がその人柄が認められることになりますね。

第三話では、舞台が変わって、京都で修行をしている「安吉」へと移ります。
宮中の菓子作りを司っていた菓子司の柚木家の本流である「長門」が店内に別工房をつくって新しい「菓子作り」に取り組むこととなるのですが、その下働きに「安吉」が任命されます。まあ、体よく厄介払いされた、というわけなのですが、京の本店の果林堂にいたままでは燻ったままですので、安吉にとっては良い展開だったのでしょう。
この「長門」の工房で作られるのが「寒天」の菓子です。葛に比べて下等にみられる寒天をどう上菓子に仕上げるか、が次巻で描かれるのですが、ここは急死した母親の幽霊が子供になめさせる飴を買いにきたという「幽霊子育飴」の話が語られます。

第四話では、第三話の「子育飴」の話をうけるかのように、拠点となる「お寺」を建立するために東奔西走し、そのために体調を崩してしまった「了然尼」のために生姜を使った「飴」をつくる話ですね。病気の時に飲む「あめ湯」が基本となっています。
ここで、照月堂で働くことになった「琳太郎」の女房の「おその」が、京都に修行に行っている、ちょっとぼんやりした「安吉」の嫁に、「なつめ」がどうかと思い始めていることが、次巻以降で妙な展開になりはしないか、心配なところでありますね。

レビュアーから一言

本巻では、了然尼のところに時折訪問してくる「慶信尼」が京都の出身で、「なつめ」の兄と不倫騒ぎをおこした女性であることが明らかになります。いわゆる男女の関係はなかった、と慶信尼は言っているのですが、「なつめ」の両親が火事で死亡し、家も廃家とされているので、彼女がこの件について何か関係していそうな気がするのですが、これは疑い過ぎかもしれません。まあ、彼女は自らの蓄えを「なつめ」が自分の店を持つ資金として拠出したいという申し出をしてくれているので、妙な疑いは持たないほうがよさそうですね。

子育て飴 江戸菓子舗照月堂 (時代小説文庫)
梅香る頃、照月堂では、これまで注文を受けて作っていた煉り切りを店頭でも売り出した。 これも、幕府の有力者が贔屓にしてくれるようになったおかげと、主・久兵衛や番頭の太助は感謝しきりである。 忙しくなった厨房では、弟弟子を迎えたなつめが饅頭作り...

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