白起に続き秦・昭王が薨去。秦国の勢いは止まるか?ー王欣太「達人伝」22・23

二百年続いた中国戦国時代の晩期。西方の強国・秦が周辺諸国に強大な力を背景に強圧をかけつつあるが、他の五国にまだ、秦の強権的なやり方に反抗する力の残っていた時代に、荘子の孫「荘丹」、伝説の料理人・包丁の甥「丁烹」、周の貴族出身ながらある事情でそれを捨てた「無名」び三人の男が、「法律」と「統制」で民衆を縛る秦の中原統一の野望に抵抗する姿を描く『王欣太「達人伝ー9万里を風に乗りー」(アクションコミックス)』シリーズの第22弾から第23弾。

白起の賜死と王齕の戦死によって秦軍に大きな穴があき、さらには長期間にわたり、王位にあって、その冷徹な執政で各国を圧迫してきていた秦の昭王の急死によって、秦国の覇業が大きくブレーキがかかりそうな情勢になってきます。この時、その勢いを止めないための呂不韋の動きと、実権を握っていく呂不韋の陰謀に気づいた荘丹たちが投獄されて危難を受けるところが描かれます。

構成と注目ポイント

第22巻 秦王・昭、薨去。そして、公子「政」、秦都・咸陽へ入京

第22巻の構成は

第百二十七話 杜郵にて
第百に十八話 秦の時代へ
第百二十九話 九代目盗跖
第百三十話  天下の矛
第百三十一話 無人の政道
第百三十二話 再会

となっていて、冒頭のところでは、秦王の使者としてやってきた鯨骨によって、白起が死を賜るシーンから始まります。

ひょっとすると大きな抵抗にあうかもと警戒する鯨骨なのですが、白起は従容として自死を選びます。このあたりは、古き「秦」が消えていく一瞬でもありますね。

そして、趙が秦の侵攻を食い止めたことが、悪影響を見せます。秦の力が衰えたと錯覚した、武力をほとんど持たない西周の君主が諸国へ号令をかけ秦国へ攻め入ります。これを見逃す秦ではなく、白起の軍を引き継いだ董摎が西周公を逆襲し、この結果、西周は領地と人民、伝来の宝器をすべて秦に差し出します。

これにより実質的に秦が天下をとったこととなり、さらに、魏、韓も屈服します。
ここで、秦の天下統一か、と思われたのですが、そううまくいかないのが世の中というもの。秦王が薨去し、権力の空白が生まれることとなります。

というのも、その強烈な性格と強権的な支配力で君臨した昭王と違い、次期君主の安国君はとても気弱な人物なのですが、これが秦国における「呂不韋」の地位を押し上げ、彼は宰相と同じ待遇を手にし、商人出身ながら異例の出世を遂げることとなります。そして、めでたく「皇太子」となった子楚(異人)は、趙国に遺してきた朱姫と政を呼び寄せるのですが、7年間の人質生活で生命を狙われたり、保護してくれていた屋敷の主・宋洪に身をまかせる母親の姿を見ていたせいで、より妖艶となった「朱姫」と、

冷酷さをより増した「政」に再会するんですが、その場に居合わせた荘丹は、彼に不吉なものを感じ・・・、という展開です。

Bitly

第23巻 荘丹は獄吏を脅して命拾い。そして新国王は急死し、秦に激震走る

第23巻の構成は

第百三十三話 秦の牢獄
第百三十四話 命の火
第百三十五話 歴史の夜
第百三十六話 壇上の少年
第百三十七話 王の風格
第百三十八話 解き放て

となっていて、呂不韋の屋敷に無断侵入し、皇太子・子楚の子供「政」に無礼な言葉をかけたとして、荘丹たち「丹の三侠」は秦の牢獄へ投獄されてしまいます。

秦の牢獄は過酷なことで有名であったらしく、荘丹たちは早速、麻袋に入れられ投げ殺される囚人の姿を見て戦慄するのですが、ここで秦の宮廷から数多くの宝物を盗み出していた九代目盗跖、こと玄信の息子・玄修に再会します。彼は、仲間の窮地を救うのと、秦の情勢を探るため牢に入っていた、というわけですね。

で、投獄された荘丹を待っていたのは、獄吏による裁判なしの処刑だったのですが、ここで

という「白起の呪い」の話を持ち出すことで、九死に一生を得ることに成功します。ここで荘丹得意の「大言壮語」が活きたということですね。
この後、即位したばかりの安国君がわずか三日後に急死することによる恩赦で出獄することができたのですから、大ぼらを吹いて人を驚かすのも役にたつものではあります。

一方で、義理の祖父・安国君の葬儀で、居並ぶ廷臣や諸国の使者を壇上から見て、自らが把握するであろう権力に酔いしれるような風情を見せる「政」の姿が、まさに、その苛烈な統治で諸国や民衆を怖れさせた「始皇帝」の片鱗を感じさせます。

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レビュアーから一言

秦王・昭王の薨去によって即位した安国君はその「王位」の重さに耐えかねるように急死してしまいますし、

後を継いだ、公子・子楚(異人)は、朱姫のことだけが頭にあるような人で、二人ともとても昭王のような果断で冷酷な国家運営はできそうにない人物です。この二君の急死によって、政権は早いうちに呂不韋と政に移ることになるのですが、案外、「秦国」にとっては、無能な君主が二代も長く続くより良かったのかもしれません。

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