呂不韋のもとに「秦」の体制は一新。あらたな征服戦争始まるー王欣太「達人伝」24・25

二百年続いた中国戦国時代の晩期。西方の強国・秦が周辺諸国に強大な力を背景に強圧をかけつつあるが、他の五国にまだ、秦の強権的なやり方に反抗する力の残っていた時代に、荘子の孫「荘丹」、伝説の料理人・包丁の甥「丁烹」、周の貴族出身ながらある事情でそれを捨てた「無名」び三人の男が、「法律」と「統制」で民衆を縛る秦の中原統一の野望に抵抗する姿を描く『王欣太「達人伝ー9万里を風に乗りー」(アクションコミックス)』シリーズの第24弾から第25弾。

前巻で国王の度重なる死去で揺らいでいた秦国の体制を、呂不韋がその新しい感覚で立て直し、政治も軍も一新して、再び中原の統一に向けて動き始めます。これに対して、五カ国をまとめた連合軍に信陵君が就任し、立ち向かっていく姿が描かれるのが本巻です。

構成と注目ポイント

第24巻 秦の新しい名将・蒙驁が見せる秦の新侵攻戦略

第24巻の構成は

第百三十九話 沛の邦
第百四十話  素晴らしき哉、大乱世
第百四十一話 沁みついた記憶
第百四十二話 呂不韋ーその明と暗
第百四十三話 大盗の血脈
第百四十四話 信陵君進発!

となっていて、まずは後に秦王朝を倒し、漢王朝を創設した劉邦の登場です。劉邦の母親が身籠ったエピソードは第21巻で出てきていて、どうやら八代目盗跖のご落胤といった設定です。

天下の趨勢のほうは、秦王・昭が薨去し、後を継いだ安国君も政権の重さに耐えられず急死、さらに軍事面では白起、王齕の亡くなった後はまだ埋めきれていない、という状況がしれてきたため、東周と韓が連合して秦へ攻め入ります。双方とも弱小な国であるのですが、秦が弱ったと思って火事場泥棒的に攻め込んだようですが、ここで待ち受けるのは前巻で呂不韋に将軍として抜擢された蒙驁と息子の蒙武です。蒙驁の信念は

ということで、無欲の名将なのですが、孫・蒙恬へ託した思いは残念ながら叶いませんでしたね。

そして、東周・韓の連合軍をあっさり退けた秦の蒙驁軍は、王齕の甥・王齮に洛陽城を制圧させます。しかし、ここで今までの秦軍との違いは、制圧はしても首級をあげないというところで、「敵地の領有を最優先」する戦法に切り替えていること。

敵軍の将兵を倒すことを最優先していた白起や王齕の戦法とは真逆なのですが、秦が天下征服ではなく天下の統一と支配に本気になってきた証でもあります。

ここで、周の洛陽、韓の榮陽を陥落させ、その勢いのまま魏、趙へと攻め込みます。いよいよ、秦vs五カ国連合の全面戦争の開始、つまりは秦の総司令官・蒙驁と連合軍の総司令官・信陵君との戦の始まりです。

さらに、秦vs六カ国連合軍の戦場に、秦の公子「政」と

若き劉邦が

と、それぞれの軍勢に参画してくることで、当面の秦の征服戦争の攻防とあわせて、未来の秦からの解放戦争の前哨戦が始まっています。

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第25巻 秦の蒙驁へ帰国の命令下る。信陵君の追撃なるか?

第25巻の構成は

第百四十五話 武を超える力
第百四十六話 戦場の邦
第百四十七話 緊切の一報
第百四十八話 司令官の任命
第百四十九話 赤き龍の道
第百五十話  報仇

となっていて、前巻の後半部分に引き続いての、蒙驁と信陵君の一騎打ちから始まります。

双方とも一歩も譲らぬバトルシーンが展開されるのですが、蒙驁将軍はもともと「斉」の出身で、孟嘗君を疎んじる祖国に見切りをつけて秦へ入り、そこで登用された人物ですので、中原諸国に失望した男と中原諸国が最後の望みを託した男とのバトルでもありますね。

一方、秦の本国の方では、鯨骨を見たことで幼少時の忌まわしい記憶が蘇り錯乱した朱姫と、国王の重責に耐えられず、さらには血のつながらない我が子「政」に自分以上の王器を見て気力を失ってしまっている子楚、そして、国の実権を握りつつも方向性に迷う呂不韋、と秦国の舵取りに揺らぎが生じ始めています。

そして、信陵君の五カ国軍との決戦の火蓋が切られようとするその時、秦本国から、蒙驁に急遽、帰国命令が下ります。白起将軍の帰国命令のときは白起の解任と失脚だったのですが、今回はそうではなく、はっきりとしたことは命令書にないものの、国の一大事、つまりは国王の突然の死去といったことが予測されるところです。

韓・趙・魏の中原の三カ国を押し潰す勢いで進軍してきた蒙驁率いる秦軍が突然の「大退却」を始める後ろをついて、蒙驁・王齮軍には信陵君、董摎・蒙武軍には信陵君の軍師・蔡要が率いる五カ国軍が追撃し、迫力ある戦闘シーンが展開されます。

ただ。退却戦でありながら、闘志を失うことなく、五カ国軍と渡り合いながら統率がとれた状態で退却していく秦軍は、今までとは一味違うようです。

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レビュアーから一言

呂不韋が宰相として秦の実権を握ってから、第24巻の蔡要の言葉にあるように、秦の政治信条や侵略方針はガラッと変わったようです。

それは、商人として実績を積み上げてきた呂不韋の才能と性格に影響されてもいるのですが、秦国自らが、今までの武力による侵攻一辺倒でうまくいかなかった政策を自主的に変化させたともいえます。秦に対抗する五カ国のほうは、王族を中心とする体制から変化しきれなかったのとは対照的です。
ここらに、好き嫌いはあるのでしょうが、秦が中国統一を成功させることのできた秘密が隠されているように思います。

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