荘丹たちは新・五カ国連合軍を組織し、新生・秦国軍と激突ー王欣太「達人伝」29

二百年続いた中国戦国時代の晩期。西方の強国・秦が周辺諸国に強大な力を背景に強圧をかけつつあるが、他の五国にまだ、秦の強権的なやり方に反抗する力の残っていた時代に、荘子の孫「荘丹」、伝説の料理人・包丁の甥「丁烹」、周の貴族出身ながらある事情でそれを捨てた「無名」び三人の男が、「法律」と「統制」で民衆を縛る秦の中原統一の野望に抵抗する姿を描く『王欣太「達人伝ー9万里を風に乗りー」(アクションコミックス)』シリーズの第29弾。

前巻で秦軍を国境の函谷関の中に押し込めながらも、秦の李斯の仕組んだ謀略によって信陵君率いる五カ国連合軍が内部から瓦解させられたのですが、ほころびた紐を荘丹たちがつなぎ直し、今度は五カ国の正規軍に頼らない新たな連合軍が結成されていくのが本巻です。

構成と注目ポイント

構成は

第百六十九話 大戦への道程
第百七十話  魏軍最後尾
第百七十一話 丹(あかし)の連合
第百七十二話 帝国の絵図
第百七十三話 開戦!!
第百七十四話 天命を繋ぐ

となっていて、冒頭では魏へ亡命を申し出た趙の廉頗将軍なのですが、魏軍の公孫信将軍は彼を自軍へ引き入れることを拒みます。歴戦の勇将が参陣しようというのですから、ここは細かい手続きは置いとけばいいのですが、尻の穴の小さな人物が己の力の誇りどころと意地を張るのはよくあることではあります。しょうがなく、廉頗将軍は同じ魏軍の晋遼将軍のところへ行くのですが、魏軍の将軍たちはすでに融通の利かない人物ばかりになっているので、見通しは暗いですね。

そして、廉頗将軍の参陣を断った魏軍の前に現れるのは、函谷関の守備隊長上がりで、秦王・政に抜擢されたばかりの麃公将軍です。秦王・政はその酷薄さと功利性から評判はよくないのですが、こうした自由奔放な人物の才能を見出して活用するあたりは只者ではないと思います。

彼はあっさりと公孫信将軍の首を刎ねて魏軍を怖れさせるのですが、荘丹たちとはかなり激しい戦闘シーンが展開されることになります。

そして、荘丹たち「丹の三侠」の攻撃に苦戦気味の麃公に対して、楚の項燕、趙の李牧、十代目盗跖こと八代目盗跖の妹・盗扇、

そして、立派に成長した劉邦が参陣してきます。これらの義勇軍を趙の援軍を率いる龐煖が指揮して、新たな連合軍が結成されることになります。
この連合軍の反撃によって、秦軍は押され気味で、秦将・王翦も丹の三侠たちに囚われるのですが、将軍が捕縛されてもひるまず

と攻撃の手を緩めないのが、新生の秦軍の強さでありますね。今巻では秦軍vs新・五カ国連行軍との決着はつかず、混戦のまま戦闘シーンが展開されるところをお楽しみください。

レビュアーから一言

公孫信将軍に参陣を断られた趙の廉頗将軍は仕方なく、魏の晋遼将軍のもとへ行くのですが、彼が見たのは秦軍によって惨殺され、首塚とされている彼らの姿です。

秦・昭王時代の白起や王齕がよくやった蛮行なのですが、これは秦王・政が自ら指揮する軍の仕業なのですから、彼の覇業が祖父・昭王の再来であるのは間違いないところですね。
虎狼の国が蘇った「秦」に荘丹たちが今度はどう挑むのか、楽しみなところではありますが、「政」の酷薄さと軍才は、昭王を遥かに上回っている気がしてきます。

Amazon.co.jp

コメント

タイトルとURLをコピーしました