忘却探偵は飛び降り自殺の二次被害の謎を解くー西尾維新「掟上今日子の遺言書」

ショートカットの髪は総白髪、小柄な美人という風貌で、年齢は25歳前後にして、警察から事件を短時間で解決する「最速探偵」として依頼の絶えない「置手紙探偵事務所」の所長。しかし、彼女には、眠ってしまうとその日体験したすべての出来事を忘れてしまうという秘密があります。
なので、毎日、まっさらの状態で事件の依頼を受け、(ほぼ)一日で事件を解決し、しかも事件の内容も謎解きも忘れてしまうので秘密が漏れることのない探偵なのですが・・という「忘却探偵」掟上今日子の「推理」と「活躍」を描いたシリーズの第四弾が『西尾維新「掟上今日子の遺言書」(講談社文庫)』です

構成と注目ポイント

「掟上今日子の遺言書」の構成は

第一章 入院する隠館厄介
第二章 依頼する隠館厄介
第三章 案内する隠館厄介
第四章 拝聴する隠館厄介
第五章 待機する隠館厄介
第六章 対面する隠館厄介
第七章 再訪する隠館厄介
第八章 質問する隠館厄介
終 章 執筆する隠館厄介

となっていて、今巻の語り手は、忘却探偵シリーズのデビュー作である「掟上今日子の備忘録」で登場した、「軽犯罪かた凶悪犯罪まで、数々の犯罪事案に巻き込まれ、その上そのたび、あらぬ疑いの目を向けられては容疑者扱いされる」という不運の塊である「隠館厄介」くんです。

今回はアルバイト先の古書店からの帰り道、ビルの上から飛び降りてきた女子中学生に激突され、その女子中学生も厄介くんも命は助かったものの大怪我を負ったところから始まります。
ここまでなら、単純な女子生徒の自殺に不運にも巻き込まれた、ということだけなのですが、彼女の残した遺書に、厄介くんが世話になっている大手出版社の編集長・紺藤さんが担当している漫画家・阜本氏のファンで、彼の作品に影響を受けて自殺する、と書いてあり、それを気に病んだ作者本人が「引退する」と言い出したため、その遺書の真相を解明するため、いつものようになじみの探偵である「掟上今日子」さんに依頼が舞い込んだ、というわけですね。

で、こうした漫画家や小説家がからむ事件の常として、今日子さんは、その作家の作品をほぼ全部読みとおすことになるのですが、今回は先回ほど数が多くないせいか完読はするものの、その自殺のきっかけとなったと遺書で名指しされている作品が、それほど面白くなくて、影響力を及ぼすとは思えない、なんてトンデモ発言をして、関係者を凍り付かしてしまいますね。

マンガ家への歪んだリスペクトが今回の原因ではないとしたら、彼女の自殺の真意が引き続き謎なのですが、ここで今日子さんが、自分が他の事件のために右足の内太股あたりに書いて消し忘れていたメモ「もし自殺でなかったら」にヒントを得て、事件の意外な真相に迫っていきます。
それは、飛び降りをした少女のことを聞き込みに回っているうちに段々と明らかになってきたことで、彼女が自分の行動の動機や自分の性向・好みを他者に知られることを非常に嫌がっていたことと、読書好きで、学校の図書館からのたくさん本を借りたり、書店や古書店にも出入りしていたのですが、自分の読書傾向を知られないために、全く違うジャンルや方向性の本とセットで借りたり、買っていたということ。
彼女がそのことを隠すために、起こした行動が今回の厄介くんの巻き込まれ事故の原因となっていたのですが・・・という展開です。

謎解きの鍵を少しネタバレすると、彼は事故のあった時は、アルバイト先の古書店から借りた傘をさしながらの帰宅途中だった、というところですね。

レビュアーから一言

今回、事件解決のキーとなる今日子さんの右足の内太股あたりの消し忘れメモを見つけたのは厄介くんで、その時までは少女の転落を「自殺」として疑ってもみなかった今日子さんが、関係者を前にした謎解きのシーンでは

「はい、私は早い段階から、その可能性について考えていました。」

と眠りをとって全てを忘れたわけでもないのに、強気に嘘をつくあたりはいつもの彼女とは違いますね。最後まで、彼女の眼を違う方向に向けさせていた女子中学生の奸計にちょっと腹を立てているのでしょうか・・。

掟上今日子の遺言書(文庫版) 忘却探偵(文庫版) (講談社文庫)
冤罪体質の隠館厄介は、ビルの屋上から転落した女子中学生に 直撃され生死の境を...

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