忘却探偵は「本格ミステリ」風謎解きに挑戦するー西尾維新「掟上今日子の退職願」

ショートカットの髪は総白髪、小柄な美人という風貌で、年齢は25歳前後にして、警察から事件を短時間で解決する「最速探偵」として依頼の絶えない「置手紙探偵事務所」の所長。しかし、彼女には、眠ってしまうとその日体験したすべての出来事を忘れてしまうという秘密があります。
なので、毎日、まっさらの状態で事件の依頼を受け、(ほぼ)一日で事件を解決し、しかも事件の内容も謎解きも忘れてしまうので秘密が漏れることのない探偵なのですが・・という「忘却探偵」掟上今日子の「推理」と「活躍」を描いたシリーズの第五弾が『西尾維新「掟上今日子の退職願」(講談社文庫)』です。

収録と注目ポイント

「掟上今日子の退職願」の収録は

第一話 掟上今日子のバラバラ死体
第二話 掟上今日子の飛び降り死体
第三話 掟上今日子の絞殺死体
第四話 掟上今日子の水死体

となっていて、今回は、忘却探偵・掟上今日子さんが警察から依頼をうけて解決する事件の数々を描いた短編集になってます。この今日子さんへ依頼する警察官は何人も登場するのですが、いずれも初顔合わせではないですが、今日子さんの「初めまして」にあわせて「初めまして」と自己紹介することが慣例になっているようです。

第一話の「掟上今日子のバラバラ死体」では都内のマンションで殺人事件が起きるのですが、その被害者の遺体は、十何分割にぶつ切りされていた状態で発見されたという「バラバラ殺人」です。さらに被害者はその性格から恨みを買いやすい人であったため、彼の周辺にいた人間のほとんどが容疑者という状況です。
しかも、十何分割に切断するためには、少なく見積もっても2時間以上の時間が必要で、容疑者となっている人全員にアリバイが成立してしまっています。さて、今日子さんの解いたアリバイ崩しは・・といった展開です。
今回のネタバレは、変形の「オリエント急行事件」というやつですね。

第二話の「掟上今日子の飛び降り死体」では、野球場のマウンドの上で、ベテランのプロ野球選手が腹ばいになって死んでいるのが発見されます。彼は高いところから落下して、全身を強く売った打撲傷で死んだことが判明するのですが、近くに高い建物もなく、ドームでもない野球場のマウンドにどこから落ちて死んだのか、という謎解きですね。
今回の事件のネタバレは、マウンドへ被害者が運ばれた、ということなのですが、どこの高いから落ちたか、という謎解きは。被害者をそんな臭いところでで発見させるわけにはいかなかった、というところですね。落下による死は、高いところから堕ちるだけでなく、低いところに堕ちることでも出来上がる、というのが最大のヒントです。

第三話の「掟上今日子の絞殺死体」は、病院に長期入院していた老人男性がベッドの上で、絞殺されていた事件の謎解きです。その老人は何か細い紐のようなもので絞殺されているのですが、犯行時刻頃にナースコールが鳴らされているというのがさらにこの事件の謎を深めます。ナースコールを押したのは誰で、何の目的で、といったところですね。
ネタバレは、今日子さんが被害者が死んでいた福祉ベッドに寝転んで、近くにあるスイッチを押すと、マットレスが自動に起き上がりはじめた、というところでしょうか。
第四話の「掟上今日子の水死体」では都心の公園の中にある池に、女性が撲殺されて浮いているのが発見されます。犯人はその女性の元恋人で、別れ話がもつれて被害者を恨んでいたようなのです。ここで謎なのは、この池は水深1メートル半ぐらいの人工池で、死体を遺棄するにはとんでもなく適していない上に、容疑者の家からごく近いところであるので、遺体が発見されれば疑われるのは間違いない、という立地にあるところです。謎をとく鍵は容疑者が「猫派」なのか「犬派」なのか、という点なのですが、今回の謎解きはちょっと強引すぎる感じがいたします。

レビュアーから一言

今回、掟上今日子さんと捜査をともにするのは、年齢的にも彼女と同じぐらいの女性警察官です。どの女性も、今日子さんと同じぐらいの25歳頃という若い年齢なのに「警部」以上の役職の人ばかりなので、警察官としてエリートたちばかりなのですが、自分に立ち位置に悩んながら警察官をやっている人たちばかり、という設定です。彼女たちが、一日ごとに記憶をなくし、毎日まっさらの自分から始めざるをえない「今日子さん」との「初めまして」の繰り返しの中で何を今日子さんから教わることになったのか、というあたりを原書で読み解いてくださいね。

掟上今日子の退職願(文庫版) 忘却探偵(文庫版) (講談社文庫)
退職願を胸ポケットに忍ばせ、波止場警部は揺れていた。 彼女の最後の事件は、公...

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