ショートカットの髪は総白髪、小柄な美人という風貌で、年齢は25歳前後にして、警察から事件を短時間で解決する「最速探偵」として依頼の絶えない「置手紙探偵事務所」の所長。しかし、彼女には、眠ってしまうとその日体験したすべての出来事を忘れてしまうという秘密があります。
なので、毎日、まっさらの状態で事件の依頼を受け、（ほぼ）一日で事件を解決し、しかも事件の内容も謎解きも忘れてしまうので秘密が漏れることのない探偵なのですが・・という「忘却探偵」掟上今日子の「推理」と「活躍」を描いたシリーズの第六弾が『西尾維新「掟上今日子の婚姻届」（講談社文庫）』です。
構成と注目ポイント
「掟上今日子の婚姻届」の構成は
序 章 掟上今日子の講演会
第一話 隠館厄介、取材を受ける
第二話 隠館厄介、嫌われる
第三話 隠館厄介、脅される
第四話 隠館厄介、好かれる
第五話 隠館厄介、断る
となっていて、冒頭のところでは、このシリーズの主人公・掟上今日子さんが、「忘却探偵」をテーマに講演を行っているところからスタートします。この講演で、今日子さんの記憶は17歳を起点にリセットされていることが本人の口から語られます。物語の設定では、今日子さんはこの時25歳なので、８年間の記憶が毎朝失くなっているということになりますね。
物語のほうでは、講演会の質問コーナーの最後で、自分がいつも同じタイプの男性を好きになって、同じような失敗をするというエピソードとともに、今日子さんの男性の好みを質問するロングヘアの女性が登場するのですが、彼女と、おなじみの冤罪キャラの「隠館厄介」くんとの絡みが主題となります。
その女性の名前は「囲井都市子」といって、やり手タイプのジャーナリストです。彼女は、多くの冤罪事件に巻き込まれている厄介くんに興味をいだいてインタビューを申し込んできて、厄介くんも美人のジャーナリストの質問に気分がよくなってあれこれと正直に語っていたのですが、囲井さんも警戒心が解けたのか、自分が過去つきあった６人の男性がいずれも不幸な目にあい破滅しているということを打ち明けてきます。
１人だけならまだしも６人となると、彼女は男性を好きになったり、交際したりといったことに臆病になっていて、自分にはなにかの呪いがかかっているのでは、とさえ思っています。そして、その彼女の呪いを解消し、彼女が幸せになるため、厄介くんに自分と結婚してくれ、と突然のプロポーズをしてくるのでした・・といった筋立てです。
美人からのプロポーズなので、厄介くんとしては嬉しくないこともないのですが、あまりにも唐突で、しかも６人の男性がいずれも破滅しているというところに不気味さを感じて、その「呪い」の謎解きを今日子さんに依頼してきたというわけですね。
依頼をうけた今日子さんは、厄介くんから、彼女の６人の男性の「破滅」の経緯と現在の様子を４時間程度で調べ上げ、いずれも彼女の思い込みで、けして彼女のせいで破滅したわけではないことを突き止めます。
それを教えてもらった厄介くんは、それを彼女に告げるのですが、囲井さんは、自分のプロポーズを受けたくなくて、今日子さんに調査を依頼し、理詰めで断ろうとしている、と激怒します。そして、24時間後までに、自分が納得できる断り文句が言えないようなら、約助くんをどんな手を使ってでも破滅させると宣言してくるのでした・・・という展開です。
実はこの段階では今日子さんは、６つの男性の「破滅」の推理に一つミスを犯していて、そこに、囲井さんが封印したい過去のトラウマが隠れてます。これが厄介くんがプロポーズを断ったことに激昂してしまった原因ともなってますね。それは二番目の、自殺してしまった小学校の同級生の思い出に関わるものなのですが・・・ということで、真相については原書のほうで。
レビュアーから一言
今回、囲井さんの厄介くんの破滅宣言を回避するために、今日子さんが厄介くんの恋人だという偽情報を仕込んで、その場に当たることとなります。そのため、彼女は寝る前に「この人は隠館厄介さん。厄介さん！超好み。出会う前から一目惚れ。・・・厄介さんに嫌われたら生きていけない、厄介さんに見捨てられたら私の人生はおしまい・・」といった翌日の自分へ向けた伝言を厄介の胸板に書きつけます。
そして、それを読んだ翌日は、デレデレな態度で全力で厄介くんをサポートしてくれることになりますので、新垣結衣さんファン、もとい掟上今日子さんファンは、厄介になったつもりでデレデレしてみてはどうでしょうか。
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