忘却探偵は、推理小説のウンチクで謎を解くー西尾維新「掟上今日子の家計簿」

ショートカットの髪は総白髪、小柄な美人という風貌で、年齢は25歳前後にして、警察から事件を短時間で解決する「最速探偵」として依頼の絶えない「置手紙探偵事務所」の所長。しかし、彼女には、眠ってしまうとその日体験したすべての出来事を忘れてしまい。17歳の頃まで記憶が遡ってしまうという秘密があります。
なので、毎日、まっさらの状態で事件の依頼を受け、(ほぼ)一日で事件を解決し、しかも事件の内容も謎解きも忘れてしまうので秘密が漏れることのない探偵なのですが・・という「忘却探偵」掟上今日子の「推理」と「活躍」を描いたシリーズの第七弾が『西尾維新「掟上今日子の家計簿」(講談社)』です。

構成と注目ポイント

収録は

第一話 掟上今日子の誰がために
第二話 掟上今日子の叙述トリック
第三話 掟上今日子心理実験
第四話 掟上今日子の筆跡鑑定

となっていて、今巻は警察から今日子さんが依頼を受けた事件の解決集です。

第一話 掟上今日子の誰がために

第一話の「掟上今日子の誰がために」では、今日子さんが冬の山上にあるペンションでおきた殺人事件の推理で招かれます。起きた事件は、このペンションに宿泊していた若い女性が深夜に撲殺されるというものなのですが、大雪にみまわれ、ペンションから一歩も外に出られない中での殺人事件で、犯人は宿泊客の中にいることは間違いない「密室」常態なのですが、被害者と他の宿泊客はそのペンションで初めて会った人ばかりで動機がまったくわからない、という状況です。

今回の謎解きは、どうやってやったか、というよりも、誰がこの殺人で利益を得たのか、というところがキーになります。この事件によって宿泊客全員が足止めをくらうことになたのですが、それで誰が一番得をしたのか、というところですね。

第二話 掟上今日子の叙述トリック

第二話の「掟上今日子の叙述トリック」では「刧罰島」の鳥川荘という旅館で合宿をしていた推理小説研究会の部長が殺害されるという事件です。その殺害方法というのがグランドピアノで頭を殴りつけた後、身体をそのピアノの下敷きにして圧死させるという、通常の人間ではなしえない殺し方。そして、被害者っは「XYZの悲劇」という推理小説の古典的名作の表紙が呼び出されたスマホを握りしめて死んでいる、という状況です。

さらに、そのスマホにインストールされている計算機アプリに+5-12+40+20-8+221-9-14-94+7-8-18-19+20+143」という謎の計算式が保存されていたのですが、この殺人の手段と小説、そして計算式は犯人を示すダイイングメッセージなのでしょうか・・といった謎解きです。

第三話 掟上今日子心理実験

第三話の「掟上今日子心理実験」では、男性が鉄の扉で閉ざされた地下室のベッドの上で串刺しにされた状態で殺されているのが発見されます。地下室の鉄扉はカードキーによって開閉するシステムで、容疑者となるのは、そのカードキーを使うことのできた、被害者の父母と実兄の誰かです。被害者は、手がつけられないほど乱暴で、気に入らないことがあるとわめき散らし、コミュニケーションも成立しない上に、身の回りの世話をすべて求めてくる人物だったようなのですが、そこが犯行の原因となったようなのです。

この謎を今日子さんがミステリのトリックの一つである「叙述トリック」のウンチクを傾けながら解き明かしていきます。少しだけネタバレすると、今回は語り手である百道浜警部の心理的なハードルが謎を複雑にしています。

第四話 掟上今日子の筆跡鑑定

第四話の「掟上今日子の筆跡鑑定」では殺人事件の犯人のアリバイ崩しのため、今日子さんが遊園地のアトラクションに挑戦します。今回の事件の容疑者は、事件発生当時、その遊園で開催されている脱出ゲームに参加していて、通常クリアに2時間程度かかる、そのゲームを1時間以内でクリアしなければ犯行時間に現場に行くことはできないというアリバイを主張しています。

しかも、ゲームをクリアするのにかかった時間は、ゲーム用に貸し出されるスマホに自動的に登録されるシステムになっていて、それによると「1時間半」でクリアしたという記録が残っているのですが・・という展開です。

レビュアーから一言

今回は、このシリーズの語り手として常連の「隠館厄介」も「親切守」も登場しない、警察からの依頼事件に終始しているので、さすがの今日子さんも悪ふざけや仮眠をとって推理をリスタートさせるようなこともなく「最速」の探偵に徹しています。その分、「叙述トリック」であるとか「クイボノ」であるとか、いつもより「推理小説」ネタがふんだんにでてくるので、ミステリーファンには違った角度からも楽しめる仕立てになっています。

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