忘却探偵はエッフェル塔盗難の怪盗に生まれ変わるー西尾維新「掟上今日子の旅行記」

ショートカットの髪は総白髪、小柄な美人という風貌で、年齢は25歳前後にして、警察から事件を短時間で解決する「最速探偵」として依頼の絶えない「置手紙探偵事務所」の所長。しかし、彼女には、眠ってしまうとその日体験したすべての出来事を忘れてしまい。17歳の頃まで記憶が遡ってしまうという秘密があります。
なので、毎日、まっさらの状態で事件の依頼を受け、(ほぼ)一日で事件を解決し、しかも事件の内容も謎解きも忘れてしまうので秘密が漏れることのない探偵なのですが・・という「忘却探偵」掟上今日子の「推理」と「活躍」を描いたシリーズの第八弾が『西尾維新「掟上今日子の旅行記」(講談社)』です。

あらすじと注目ポイント

掟上今日子さんは、一旦眠ると17歳以降の記憶をまっさらにしてしまうという特殊能力(?)のために、毎日、警備システムで厳重に守られた「掟上ビルディング」内にある居住スペースに帰り、そこで安全に眠るということを日課にしているので、圏内から離れることはほとんどないのですが、今回はエッフェル塔を盗む、という「怪盗」の犯行を阻止するために、パリにやってきたという経緯です。
一方、隠館厄介くんのほうは、勤めていた旅行代理店で起きた事件の容疑者にいつものようにノミネートされ、容疑は晴れたものの職場を騒がしたかどでクビになっての退職金+口止め料として、パリ行きの航空チケットを押しつけられた、という設定。
そして、この二人が偶然同じ飛行機(今日子さんはファーストクラス、厄介くんはエコノミーなので、機内で出くわすことはなかったのですが)、到着後パリへ向かう今日子さんの乗ったバスに、これまたストーカーよろしく同乗して、パリで今日子さんと合流した、というところです。今日子さんは、いつも「初めまして」の人なので、厄介くんとはこの時の初対面のはずなのですが、あっさりと彼女のパリでの探偵業の助手として野盗渡りは、無警戒の極みなのですが、物語進行のためにはやむをえないところでしょう。

ところが、探偵としてエッフェル塔盗難を阻止するはずの今日子さんが、いつの間にか、右腕に書いているいつもの「私は掟上今日子。探偵。一日ごとに記憶がリセットされる」という文言が「探偵→怪盗」と書き直されていて、今日子さんは「怪盗淑女」としてエッフェル塔の盗難に取り組むこととなりましたー、というふうに物語が変質していきます。

巨大な建造物である「エッフェル塔」を盗むにはどうしたらいいか、エッフェル塔を少しづつ解体して、部品をほかのものに入れ替える「テセウスの船」的なやり方、とかエッフェル塔が消えた、と思わせる方法とか、今日子さんがあれこれと盗難方法を提案してくるので、可能かどうかは別にして、ほら話的に楽しんでください。

そして、事件のほうは、今日子さんがパリでも有名なブランドショップに服を買うために、フィッテイングルームに入っている時に、日本人の「矍鑠伯爵」と名乗る老人によって、厄介くんが拉致されることで大きく動き始めます。

実はこの老人が、今日子さんをパリへ招待した依頼主であるとともに、今日子さんの右手の文章を修正して「怪盗淑女」の記憶を植え付けた張本人でもあります。彼が厄介くんを拉致した理由は、そして「怪盗淑女」の記憶を植え付けられて敏腕探偵・掟上今日子さんは、エッフェル塔を盗み出す犯行に手を出すのか・・・といったところが後半部分の読みどころです。

少しだけ、ネタバレしておくと、今日子さんは、怪盗淑女の偽の記憶から「忘却探偵」への記憶を取り戻すのですが、エッフェル塔の盗難方法が、彼女なりのGood Ideaを披歴してくれるので楽しみにしておきましょう。

レビュアーから一言

今日子さんの恋愛事情はほとんど明らかになっていなおいのですが、今巻では、パリ滞在の1日目の夜、今日子さんを起こし続ける仕事を受けた厄介くんがホテルの一室での

今日子さんはころしと寝返りを内、無防備にこちらに近づいてきてそしていかにも自然な風に手を伸ばすーしかし、とろりと僕を見据えるその目は、狙った獲物は決して逃がさない、大怪盗のそれだった。
「私を一晩眠らせないことが、厄介さんのお仕事なんでしょう?」

という意味深なシーンが登場します。真相はこの巻では詳らかにならないので、読者の皆さんは想像のし放題、というところですね。

掟上今日子の旅行記
「エッフェル塔を頂戴します。――怪盗淑女」大胆不敵な犯行予告を阻止するため、パリに招かれた忘却探偵の掟上今日子。しかし怪盗の真のたくらみは、今日子さん自身にエッフェル塔を盗ませることで……!?奪われた記憶と華麗なる罠。助手役を担う隠館厄介は...

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