忘却探偵は殺人事件の容疑者となるー西尾維新「掟上今日子の裏表紙」

ショートカットの髪は総白髪、小柄な美人という風貌で、年齢は25歳前後にして、警察から事件を短時間で解決する「最速探偵」として依頼の絶えない「置手紙探偵事務所」の所長。しかし、彼女には、眠ってしまうとその日体験したすべての出来事を忘れてしまい。17歳の頃まで記憶が遡ってしまうという秘密があります。
なので、毎日、まっさらの状態で事件の依頼を受け、(ほぼ)一日で事件を解決し、しかも事件の内容も謎解きも忘れてしまうので秘密が漏れることのない探偵なのですが・・という「忘却探偵」掟上今日子の「推理」と「活躍」を描いたシリーズの第九弾が『西尾維新「掟上今日子の裏表紙」(講談社)』です。

構成と注目ポイント

構成は

序 章 掟上今日子の逮捕劇
第一話 掟上今日子の取調室
第二話 隠館厄介の今日子さん講義
第三話 掟上今日子の留置場
第四話 隠館厄介のジャーナリズム
第五話 掟上今日子の電気椅子
第六話 隠館厄介の面会室 & 第七話 掟上今日子の秘密の暴露
第八話 掟上今日子の公務執行妨害罪 & 第九話 隠館厄介の不法侵入罪
第十話 掟上今日子の相棒 & 第十一話 隠館厄介の相棒
第十二話 掟上今日子の出頭 & 第十三話 掟上今日子の可視化
終章 掟上今日子の釈放

となっていて、通常なら探偵として容疑者を見つけ、犯行方法を推理する役回りの今日子さんが、今巻では殺人事件の容疑者として逮捕されることになります。

事件のほうはメガバンクの創始者一族の一人で大金持ちのコインコレクターが、コインを展示している私設展示施設兼収蔵庫の中で胸を鋭利なもので刺されて死んでいるのが発見されるのですが、そばに凶器となったと思われる「刀銭」を握りしめた今日子さんが眠っていた、というもの。
このシチュエーションだけみると、今日子さんが犯人と思われるのは当然で、「ファイルを読む限り」は自分が犯人だと今日子さん本人も認めるのですが、本音のところは、「名探偵がこんな見え見えの凶悪犯罪を課冒すわけがない」といったことや、「凶器を握りしめたまま犯行現場で眠りこむ」ようなおバカなことをするわけがない、ということで完全否定です。
一番強いのは、一度眠ると全てを忘れてしまうという特殊才能で、犯行のことは仮にやったとしてもまるっきり覚えていないわけで、犯人の自白がとれないということ。この、黙秘権ならぬ「忘却権」を有する容疑者からなんとか犯行についての証言が引き出せないか。彼女の昔なじみである隠館厄介くんが警察の呼ばれてくることになります。今巻から彼は「今日子さんの専門家」を名乗っているようです。
まあ、「専門家」であるかどうかは別として、今回は留置場から一歩も出れない今日子さんに変わって、あれこれ現場を調べたり、被害者の周辺の人物に聞き込むをしたり、とかなり重宝な便利屋としてコキ使われています。

その聞き込みから隠館厄介くんが被害者から今日子さんと親しいということで敵視されていたり、今日子さんが被害者から何度もコレクションの蒐集協力を依頼され、その都度断っていたことがわかります。
そして、被害者が殺された展示室兼収集庫が扉を閉めると密室状態なることや、被害者が幼い頃に肺癌と誤診され、肺の片一方を全摘していることがわかってきます。
これらの事実と、今日子さんが逮捕されたときに持っていたユーロ硬貨(エストニア硬貨3枚、ルクセンブルグ硬貨2枚、スペイン硬貨2枚、ベルギー硬貨1枚)と握りしめた刀貨から、今日子さんが込めた犯行現場で眠り込むことによって「明日の自分」に送ったダイイングメッセージを、今回は厄介くんが読み解いていきます。

レビュアーから一言

留置場に留置されるとなると、飯は粗末だし、衣装も御仕着せで、毎日違う衣装を着ている今日子さんには絶えられない環境だろうな、と思われる読者もいらっしゃるかと思うのですが、警察署内には、今日子さんの隠れファンがかなりいるようで、美味な食事も、毎日変わるファッションもその内通者たちが密かに準備して差し入れてくれるようです。なんと、今巻の途中、厄介くんと留置場の面会室で接見するときは、警察官のコスプレで登場していますね。これを評して今日子さんが「こんな格好で失礼します。裏表紙用です」というのが今巻のネーミングの由来でしょうか。

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