忘却探偵は営業活動の旅に出るー「掟上今日子の乗車券」(講談社)

ショートカットの髪は総白髪、小柄な美人で、年齢は25歳前後。一旦眠ると経験したことを全部忘れて17歳当時の記憶まで戻ってしまうことから、1日以内の「最速」で謎解きをする「忘却探偵」掟宇え」今日子さんが、いつも根城にしている「掟上ビルディング」を数日間留守にして、あちらこちらで事件解決をしていくのが「忘却探偵」シリーズの第11弾『西尾維新「掟上今日子の乗車券」(講談社)』です。

「掟上今日子の乗車券」の構成と注目ポイント

構成は

序文

第一枚 今日子さんin寝台特急「ひらめき」
第二枚 山麓オーベルジュ「ゆきどけ」
第三枚 高速艇「スピードウェーブ」
第四枚 水上飛行機「ウォータージェット」
第五枚 観光バス「ハイスピードロード」

掟上今日子の五線譜(序曲)

となっていて、第一枚から第五枚までは今日子さんとボディガード兼奴隷の親切守と、事件を解決してまわる旅行記。最終話は、旅行から帰っての、隠館厄介から今日子さんあてに来た手紙がもとで、親切守が事件の詳細を聞かされる話です。

今巻の今日子さんと親切守との「旅行」は単なる気晴らしではなく、観光地に出かけていって、そこで今日子さんが呼び寄せる難事件を、「最速」で解決し、置手紙探偵事務所のPRを図ろうというもの。
というのも、今日子さんが解決した事件は」、彼女が1日で全部忘れてしまう上に、事件の関係者や警察のほうから事件の詳細を明らかにしない類のものなので、隠館厄介や特定の警察署といった常連客からのものがほとんどのため、今回、今日子さんの「最速探偵」としての能力を世間にアピールして販路拡大を目指そうというものですね。

第一枚 今日子さんin寝台特急「ひらめき」

第一話の「今日子さんin寝台特急「ひらめき」」では、突然の思いつきで今日子さんが親切守を連れて、探偵事務所のPR活動として旅に出ることを決め、慌ただしく夜行の寝台列車「ひらめき」に乗り込んで 市を目指す旅に出ていきます。

この寝台列車は特等から普通座席席まである従来ながらの寝台列車なのですが、このうちの普通座席の三段寝台で男性が撲殺されているのが発見されます。

ご存知ない方も多いかと思いますが、寝台列車の三段寝台はとっても高さがなくて、身動きがほとんどできないつくりです。

犯行現場のコンパートメントには他の乗客もいて、被害者とも話をしていたという環境で、いつ、他の乗客に気づかれないうちに犯行を行ったか、というのが謎解きとなります。

第二枚 山麓オーベルジュ「ゆきどけ」

第二話の「山麓オーベルジュ「ゆきどけ」」では旅先の宿泊先で一緒になった老裁判官から過去の事件の謎解きを、持ちかけられます。

その事件というのが、高校三年生の男子生徒が、受験時期に、彼がすごく可愛がっていた小学5年生の妹を殺してしまったという事件。

彼の犯行動機が謎解きの対象となるのですが、今日子さんは、その犯行当日が滑り止めの大学受験の日で、彼は替え玉受験をしかけて、妹殺人のアリバイをつくったところと、彼の成績が急降下していたことに着目します。

第三枚 高速艇「スピードウェーブ」

第三話の「高速艇「スピードウェーブ」」は、処刑島という横溝正史感満載の小さな島へ渡る、これまた小さな連絡船の船中で起きる事件です。

この連絡船に乗り合わせていた今日子さんと親切守くんは、島の港近くになっても減速しない船の様子に不審を抱き、操縦室とドアを叩き壊して入ってみると、そこでは、錨形の文鎮に殴られて船長と副船長が倒れていたのが発見されます。

さて一体誰が、というところなのですが、船長は後ろから、副船長は前から額を殴られているのがヒントになります。ただし、一番気になるのは、犯行動機のところなのですが、このへんは今日子さんに妙な疑惑を残してお話が完結しています。

第四枚 水上飛行機「ウォータージェット」

第四話の「水上飛行機「ウォータージェット」」では、宿泊先の近くの湖で水上飛行機を運行していたという情報を知った今日子さんが、運行停止にもかかわらず水上飛行機に乗ろうとチャレンジするお話です。

停止となった原因は、その会社の社長が飛行機の運行中に自殺をしてしまったというものなのですが、今日子さんがその死の真相を明らかにすることを条件に水上飛行機を自ら運転する交渉に成功します。

そして飛行機に、乗り込んだ京子さんがつかんだ真相は・・・と言う展開です。今回は京子さんのジブリの「紅の豚」オタクであることがハッキリするとともにかなりのいい加減さが発揮されるお話でもありますね。

第五枚 観光バス「ハイスピードロード」

第五話の「観光バス「ハイスピードロード」」は、全ての旅の行程を終え、高速バスでの帰路に起きた殺人事件です。

そのバスは、座席がほぼフラットなるプライバシーに配慮された構造になっているのですが、親切くんの座っていた席の右隣の窓際の席の乗客が座席のシートベルトで絞殺されているのが発見されます。被害者の席の前の席は空席なので、殺害ぬ疑いがしっかり親切守にかかってくるという筋立てです。さて、この事件の今日子さんの推理は、という展開です。

掟上今日子の五線譜(序曲)

最終話の「掟上今日子の五線譜(序曲)」では、旅行を終えて掟上ビルディングに帰還した時に届いていた隠館厄介くんが出した手紙が発端となる謎解きです。今日子さんの代わりに厄介に面会した親切守は、彼から楽器職人達が暮らす隔離された小島でおきた殺人事件の謎解きをするよう迫られます。それは、老練な職人の一人が、コントラバスの中に殺されて押し込められていたという猟奇的なものなのですが、そういう死体隠しを行った理由が、今回の肝となります。

レビュアーの一言ーワトソン役にふさわしいのはどっち

最近、出番の少ない隠館厄介くんに代わって、掟上ビルディングのガードマンも務める親切守くんが今回も荷物持ち兼ボディガードとして旅行に同行させられるなど存在感を増してきています。
今話の「掟上今日子の五線譜(序曲)」は、親切(おやぎり)くんに対する、隠館くんの嫉妬の現れと言っていいかもしれません。
仕事をしくじる不運度では互角なのでしょうが、不審度が高く、犯罪者と間違えられて拘留されることの多い厄介くんの不利なことは間違いないのですが、この勝負どうなるか、次巻以降を期待したいところです。

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