忘却探偵の過去はまさかの戦争犯罪人?ー西尾維新「掟上今日子の鑑札票」

ショートカットの髪は総白髪、小柄な美人で、年齢は25歳前後。一旦眠ると経験したことを全部忘れて17歳当時の記憶まで戻ってしまうことから、1日以内の「最速」で謎解きをする「忘却探偵」掟上今日子さんが、なぜ「忘却探偵」となったのかの秘密が明らかになるとともに、いつもは今日子さんに引きづられっぱなしのアシスタント・冤罪王こと隠館厄介くんが今日子さんの危機を救うために推理とアクションに大奮闘するのが「忘却探偵」シリーズの第13弾『西尾維新「掟上今日子の鑑札票」(講談社)』です。

「掟上今日子の鑑札票」の構成と注目ポイント

構成は

第一話 掟上今日子の狙撃手
第二話 掟上今日子の地雷原
第三話 掟上今日子の自走砲
第四話 掟上今日子の防空壕
第五話 掟上今日子の徴兵制
第六話 掟上今日子の終戦日

となっていて、物語は、忘却探偵こと掟上今日子さんの「忘却」が一日で記憶をリセットするのではなく、ミステリー用語に関する意味記憶を全て忘れてしまうものへと変質してしまったところから始まります。

掟上今日子、狙撃される

事の発端は、ある総合病院の一室で入院中だった大企業の重役が、はるか遠方から窓越しに続けて三回銃撃され、再度意識不明の重体となる事件が起きます。この事件の容疑者として、狙撃ポイント線上に位置する高層ビルの建築現場で働いていた「隠館厄介」くんが逮捕されてしまった、というのが第一番の出発点。

いつものように、自分の身の潔白を晴らすため、今日子さんを探偵として呼んだのですが、彼女と厄介くん、彼を拘束していた腰縄を持つ警察官、病院関係者の立ち会う現場検証中に、今度は今日子さんが頭部を狙撃される、という事件が起きます。脳を貫通したこの狙撃によって、今日子さんはミステリーに関する意味記憶を全て失ったしまったというわけです。治療で動けない今日子さんに代わって、厄介くんが、今回は探偵役として名乗り出た、という筋立てです。

厄介は地雷を踏み、掟上ビルディングは砲撃を受ける

第二の事件は、探偵役に立候補した厄介くんに起きます。今日子さんを狙撃した可能性の高い、彼が以前働いていた高層ビルの建築現場に夜、忍込み、手がかりとなるものを調べて歩くのですが、そこで犯人の仕掛けた(本当の)「地雷」を踏んでしまい、身動きがとれなくなってしまいます。これは、翌朝、ビルの忍び込んできた今日子さんの、靴ごと生コンで固めるという方法で救出されるのですが、最後のところは「今日子さん頼み」というところは変わっていないようです。

三番目には、走行で固められた巨大な戦車が3階建ての掟上ビルディングを砲撃し、ビルごと瓦礫の山にしてしまうという第三の事件がおきます。

この3つの事件でどうやら今回の狙いは、大企業の重役の殺害ではなく、「掟上今日子」襲撃のために仕組まれたものであるらしいことが浮かび上がってきますね。

そして、厄介くんは、彼のアパートで、部屋中をひっくり返して捜査活動をした後の、日系アメリカ人のFBI捜査官・バーチに待ち伏せされます。彼は掟上ビルディングの寝室の天井の字を書いたのは自分だと言い、今日子さんの「忘却」の秘密の一端を明らかにします。

バーチによって知らされた今日子さんの優秀な軍人としての記憶を失くす前の前歴と彼女の記憶を蘇らせ戦線に呼び戻そうとする犯人から逃亡を図るため、沖縄に身を潜めようとした厄介くんなのですが、沖縄で、かつてシリーズの第一作「掟上今日子の備忘録」の「紹介します、今日子さん」で知り合った天才漫画家・里井有次先生(女性です、年の為)の「「大自然の産物であるガマを防空壕とか野戦病院に改造したりー」という一言から、崩壊した掟上ビルディングの地下の仕掛けに気づきます。

「掟上今日子」の過去の真の姿は?

そして、その地下に潜り込んだ彼が出会ったのは、掟上今日子を狙撃し、厄介くんに地雷をしかけた、かつての軍人・掟上今日子の影武者であった掟上今日子そっくりの「ホワイト・ホース」その人でありました。

ギリースーツに身を包み、スナイパーライフルを抱えた「ホワイト・ホース」は、彼女が「マム」と呼ぶ、かつての掟上今日子の過去、18歳の時に世界から戦争を失くすため、地雷撤去ボランティアを皮切りに野戦病院の看護師となり、そして「戦争」を消滅させるために戦争をする「戦争のリーダー」となった過去の姿と彼女の「暗殺」の様子を語ります。さらに、掟上今日子を戦場に連れ戻すのではない、彼女の本当の目的も・・。

さて、ついでに今日子さんの過去と犯人の目的を不用意にも知ってしまった厄介くんの運命は・・・といった展開なのですが、ここから先の詳細は原書のほうで。
少しネタバレしておくと、大事な勝負どころでは、いつも「今日子さん」にお世話になってしまう厄介くんの習性は最後まで変わっていません。

TV版を吹っ飛ばす「掟上今日子」の正体

2015年に新垣結衣さん主演でTVドラマ化された本作ですが、2015年当時はまだ第5作の「掟上今日子の退職願」が出たばかりで、今日子さんが忘却探偵になった理由とか、もろもろの過去設定は、原作では謎のままの状態でした。

TV版では、天井文字の書き手が、及川光博さん演じるアパルトマン「サンドグラス」兼探偵斡旋所所長の絆井法郎(TV版の独自設定キャラですね)ではないか、と匂わすところがあり、また、ドラマの最終回は、大富豪の跡継ぎと間違われた今日子さんが誘拐されて偽記憶を植え付けられ続けているのを厄介くんが救出する、というほんわかした恋愛ドラマに仕立てられていたのですが、今回、原作のほうで明らかになったのは、とっても「ハードボイルド」で「国際犯罪」級の彼女の過去ですね。

原作者は、新垣結衣さんのつくった今日子さんのほんわかムードをどこかでちゃぶ台返しをする機会を虎視眈々と狙っていて、ガッキー結婚報道のこの時期にぶつけてきたのかもしれません。

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コメント

  1. らぴ より:

    >世界から戦争を失くすため
    >地雷撤去ボランティア
    >「戦争」を消滅させるために戦争をする「戦争のリーダー」
    すごいな、これでもかって程に別シリーズの某キャラに寄せる匂わせですね。
    きっと、いずれ読者が「これもう同一人物確定じゃん!」となった頃に 別情報を重ねてきて「残念、別人でーす」って突き放されそうですが笑

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