マンションの「死体消失・再出現事件」の謎を解けー大崎梢「ドアを開けたら」

ひところ、マンション隣人による殺人事件とかがおきて、都会のマンション生活の匿名性というか、「隣は何をする人ぞ・・」といった関係性の薄さが話題になったものですが、同じマンションに住む知り合いの部屋を訪ねたところ、そこには死体が転がっていて・・といった都会マンション”あるある”的な設定で始まるミステリ―が本書『大崎梢「ドアを開けたら」(祥伝社)』です。

「ドアを明けたら」の構成と注目ポイント

構成は

第一章 まずはチャイムを押してみる
第二章 今度はノックを
第三章 カップ麺をすする
第四章 さっぱりわからない
第五章 作戦会議はドアの内側で
第六章 千客万来
第七章 まさかあの人が
第八章 踏み込む
第九章 過去にできなかったこと
第十章 ちょっとはその気に

となっていて、物語の舞台となるのは、神奈川県横須賀市の、駅まで7分程度の東京への通勤圏内のファミリーマンションです。ここに住んでいて近々引っ越しを計画している中年男性・鶴川佑作が、同じマンション階に住む知り合いの老人「串本英司」さんに借りていたものを返すために部屋を訪ねたところ。廊下に倒れて死んでいる串本さんを発見するところから物語が始まります。

ここで警察に通報すれば物語はここで終わったのかもしれませんが、マンションの自室が売れなくなることを心配した「佑作」が、通報をためらっているうちに、「紘人(ヒロト)」と名乗る男子高校生から、再び串本さんの部屋に入り、中に落ちている「手帳」をとってくてくれつるよう頼まれます。自分が死体を発見しながら黙っていたことがバレるのがいやで、再度、入室した佑作は、廊下に倒れているはずの串本さんの死体がきれいさっぱりなくなっていることに気付くのですが・・といった筋立てです。

まあ、死体のほうは、その翌日、串本さんの姪が訪ねてきて再発見することになるので、完全な死体消失事件ではないのですが、再発見したところが廊下ではなくて「リビング」というおまけつきで、この「死体消失→再出現+移動」の謎解きに、謎の高校生「紘人」とともの、今巻の主人公「佑作」が関わっていく、といった展開です。

佑作としては、海外旅行経験も多く、人柄も優しくて、趣味の写真を活かして撮影活動をしたり、近所の子供たちにもカメラワークを教えていて、その子供たちがうっかりカメラを棄損した時に声を荒げることのなかった串本さんには好印象をもっていたのですが、マンション内の聞き取りを進めていくうち、女子高生らしい女の子にガンをつけられたり、幼い子をもっている若奥さんグループからは、小学校低学年の女の子に話しかけ、カメラを見せたり、写真を撮ろうとしていたり、住宅街を行き来して、人の家を覗き込んで居たりしていた不審な人物だ、という苦情を聞きます。

さらに「紘人」からの、佑作と同じマンションに住んでいる彼の祖母が近くのマンションで開かれる新興宗教の集まりに顔を出しているのですが、その集まりに串本さんが数回出席していたという情報をもとに、串本さんが入信するふりをしながら、集会の開かれている部屋の窓から、自分のマンションのほうをなにか覗っていた、ということをつきとめます。

おりしも、このマンションの近くの小学校で、小学校低学年の女子児童が行方不明になっていることがわかります。若奥さんのグループはこの事件と関りがないか、串本さんを問いつめたらしいのですが、彼は曖昧にはぐらかし、「今は言えない」「待ってほしい」と突っぱねたといういうことです。

さて、串本さんと女子児童誘拐事件との関係は、そして彼を死においやった犯人はこのマンションの住人なのか、といったところで、佑作と紘人によって謎が明らかになっていきます。

誰も殺されないミステリ―もいいもんだ

本巻、作者・大崎梢さんが得意とするコージーミステリ―で、知り合いの部屋を訪ねたら知り合いが死んでいるのを発見したが、死体がいつの間にか消えていた、という謎から始まるながら、途中、毒殺事件や誘拐殺人といった装いを見せながら、実は誰も殺されておらず、そして、佑作と紘人の抱える事情もほんの少し解決するという筋立ては、刺激の強い物語や出来事に疲れ気味のあなたにぴったりかもしれません。

ドアを開けたら
鶴川佑作は横須賀のマンションに住む、独身の五十四歳。借りた雑誌を返すため、同じ階の住人・串本を訪ねた。だが、インターフォンを押しても返事がなく、鍵もかかっていない。心配になり家に上がると、来客があった痕跡を残して串本が事切れていた。翌日いっ...

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