バードは親の許さない結婚式に出席するー佐々大河「ふしぎの国のバード」8

明治初期、戊辰戦争の影響がまだ残る上、交通事情や衛生事情も現在とは比べものにならないほどの悪条件の中、日本各地を踏破し、当時の「日本」の諸事情を記録したイギリス出身の女性冒険家・イザベラ・バードの横浜から、日本海側へ抜けて北海道へと至る「日本奥地紀行」の大冒険を描いたシリーズ『佐々大河「ふしぎの国のバード」(ハルタコミック)』の第8弾。

構成と注目ポイント

構成は

第36話 秋田⑤
第37話 秋田⑥
第38話 秋田⑦
第39話 朝の身支度
第40話 米代川
番外編 曲独楽と旅人

となっていて、前半部分は、前巻に引き続いての秋田滞在記です。

羽州街道沿いに北上し、久保田(現在の秋田市)に到着した今シリーズの主人公であるイザベラ・バードは、前巻で、旅に出てからの彼女の念願であった西洋料理、特にビフテキを久久々に食したり、旅の間に知り合った人たちから寄せられた手紙を受け取ったりと、宿屋の宿泊を楽しんでいます。この時の様子を

私はたいそう親切な宿屋で、気持ちのよい二階の部屋をあてがわれた。当地における三日間はまったく忙しく、また非常に楽しかった。西洋料理–おいしいビフテキ、すばらしいカレー・きゅうり・外国製の塩・辛子がついていた–は早速手に入れた。それを食べると<目が生き生きと輝く>ような気持ちになった

と表現しているのですが、今巻では、さらに宿屋の娘・お志乃の婚礼に立ち会うこととなります。

しかし、この娘は通常の婚礼ではなく、親・親族の許していない相手と「嫁盗み」と呼ばれる一種の強奪婚

によって結ばれるもので、結婚式自体は行われるものの、新婦の父親は欠席するという祝福されない結婚式です。結婚するこの宿の娘。お志乃の好意で結婚式に出席したバードは、娘のことを案じながらも、娘に対する厳しい態度を崩さない父親とお志乃の仲を修復するある仕掛けをしていきます。

ちなみに、この婚礼のシーンでは、婚礼を妨害しにやってくる野次馬を酒食で丁寧にもてなすしきたりや、祝言の宴で新郎が燗番をするしきたりとか当時の秋田の風習が出てくるので、こういう古俗に興味のある人はチェックしておきましょう。

今回のお志乃には「嫁盗み」の前に整いかけていた縁談の相手方もいるでしょうし、お志乃の宿屋の商売の手前もあるので、一挙に「解決」というわけにはいかないようですが、未来の明るい姿を期待させています。

ちなみにバードの秋田滞在の様子は、こちらのホームページ

「イザベラバードの見た秋田」http://www.pref.akita.jp/fpd/meigi/meigi-00.htm

「イザベラ・バードの道」(北海道開発協会)のPDFファイル
https://www.hkk.or.jp/kouhou/file/no581_isabella.pdf

にも詳述されているので、もっと深く知りたい人はそちらも見てくださいね。

巻の後半では久保田(秋田)を出発します。内陸部の小繋、大館を経て、青森へと向かい、そこから函館へと渡海する行程なのですが、折からの大雨にため、米代川は大荒れ。
途中、激流に巻き込まれている「長船」という三人の船頭が操縦する大きな船の遭難現場に立ち会ってしまうことになります。ここらあたりを見ると、当時の「旅」というものが危険がいっぱいで、出発前には「水杯をかわした」というのも頷ける気がします。

レビュアーから一言

本巻では、バードの秋田でのエピソードでのほかに、旅先での歯磨きとか爪の手入れなど、当時の日本の庶民の「朝の身支度」の様子を描写した掌編が挿入されています。
人によって濃淡はあったのでしょうが、当時から朝の身支度は丁寧にされていたのかもしれません。

ふしぎの国のバード 8巻 (ハルタコミックス)
家族とは? そして結婚とは? 日本人の"血"を描く、最新刊! 秋田で手厚い歓迎を受けるバード一行は、ある女性の結婚式に出席することになる。 日本古来、東北地方伝統の方法で行われる式とは、一体どんなものなのか。 そして、日本人の考える、家族と...

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