姫様・黒井マヤは中学時代の監禁事件を清算するー七尾与史「ドS刑事 三つ子の魂百まで殺人事件」

漆のように黒くつややかな髪を方の下あたりまで伸ばし、日本人形のような風貌と白磁のような肌をもった極めつけの美人な上に、スプラッタ映画と殺人事件が趣味で、警察庁次長という警察官僚のトップクラスの父親の権力を平気で濫用する、ドSのお姫様刑事「黒井マヤ」巡査部長を主人公に、彼女のお守役として抜擢された「代官様」こと「代官山脩介」巡査、彼女の暴力で生命の危機にさらされながらも「マヤ」命を貫く浜田学警部補とともに、連続して起きる怪奇な殺人事件の謎を解く「ドS刑事(デカ)」シリーズの第3弾が本書『七尾与史「ドS刑事 三つ子の魂百まで殺人事件」(幻冬舎文庫)』です。

本シリーズの主人公の姫様こと黒井マヤのマイナーなスプラッタ・ムービー好きは本シリーズの読者なら先刻ご承知なところなのですが、彼女がどういうきっかけでそうなったのか、彼女が同級生とともに遭遇した事件とともに、マヤが刑事となった理由が明らかになるのが本巻です。

構成と注目ポイント

構成は

プロローグ
神童キリコー2001年1月8日
代官山脩介ー立川・スィーツ食べすぎ殺人
神童キリコー2001年2月14日
代官山脩介ー浜松・電気椅子殺人
神童キリコー2001年2月17日
代官山脩介ー浦和・まぶた切除殺人
神童キリコー2001年2月19日
代官山脩介ー恵比寿・神童家
代官山脩介ー長野県・深森町
エピローグ

となっていて、本巻の冒頭は、黒井マヤに誘われて代官山くんが会員制の映画観賞会にさんかするところから始まります。カップルで映画となるとなんとなくほんわかしたものを連想させるのですが、映画というのが本物の殺人シーンなどを収録した「スナッフフィルム」というのが「マヤ」」らしいところです。そして、この鑑賞会で噂される「国産」のスナッフフィルムというのが今巻の謎解きの会議となりますね。

そして、物語のほうは、「マヤ」が中学生の時に経験した事件と、現在におきる猟奇事件とが並行して書かれます。

まず現在に起きる第一の事件は、倒産したシティホテルの一室で両足首を手錠で拘束された若い女性が、体全体は細身なのに腹部だけはパンパンに膨れ上がった状態で死んでいるのが発見されます。彼女は、両足を拘束され逃げられない状態にされた上で、スィーツを胃が破裂するまで食べさせられ、急性腹膜炎で殺されたというもの。
彼女を悪く言う人はほとんどいなかったのですが、ごく少数、裏で気に入らない人間をあの手この手で陥れていると証言する女性がいて、調べてみると、中学生の頃、同級生のイジメを陰で糸を引き、その娘が病院で治療中に過食症で自殺しているという前歴を発見します。この事件が殺人の原因か、とも思えるのですが「マヤ」の推測はちょっと別のところにあるようです。

第二の事件は今から5年ほど前に起きた事件なのですが、今回の「スィーツ食べすぎ殺人」と何かの関係があるのか、「マヤ」が浜松まできて古い事件を掘り返します。その事件は、パワハラで新入社員を自殺させた証券会社の元社員が、今は寂れてしまった温泉街の倉庫で、椅子に鎖や手錠で固定されたうえで、電気を何度も流され、悲鳴を上げながら感電させられ、というもの。当初、この男が自殺させた新入社員の親に疑いが向くのですが「シロ」。ただし、マヤは今回も、別のところに興味を抱いているようです。

第三の事件は浦和で起きた三年前の事件です。今回は、元ロックミュージシャンの男が倉庫の柱に瞼を切り取った状態で縛り付けられ、強い照明をずっと顔に充てられ、睡眠がとれず、半狂乱になって舌を噛み切って自殺したというもの。この事件の被害者には、ミュージシャンだったころ、夜昼かまわず自宅アパートで演奏し、隣室の男性をノイローゼにして自殺させているという前歴があります。

3つの事件の被害者はいずれも、彼らがかつて関わった自殺事件の被害者の死に方に関連したやり方で殺されているのですが、今回、マヤは、自殺した人たちが治療を受けていた主治医の名前にとてつもない関心を抱いているようです。

そして、これらの3つの事件に並行して語られるのが、マヤが中学時代に同級生とともに経験した事件です。
彼女の友人・神童キリコは女優志望の女の子で、マヤをスプラッタムービー・オタクに引きずりこんだ張本人で、中学時代のマヤの大親友です。彼女がB級シネマの主人公の代役にすかうとされることになったのですが、女優になることに反対する両親の目をごまかすため、「マヤ」に同行を頼んだのですが、これがマヤが事件に巻き込まれるきっかけとなります。

映画撮影のほうは、当初撮影していた主演女優が失踪したのですが、この映画のスポンサーが彼女の大ファンで、彼女が出演していないと映画への出資も打ち切られるということらしく、キリコには主演の「牧村美咲」そっくりの演技が求められます。そして、出資者の見守る中での撮影本番まで、雪に降り込められた山荘の中に二人は監禁状態で演技の指導を受けるのですが・・といった筋立てです。

映画の撮影自体は本当のことのようですが、凍てついた屋根裏部屋で、キリコがある人物の死体を発見するところから、彼女たちの運命が暗転していくこととなるのですが・・・という展開で、ここから先は原書のほうで。

レビュアーから一言

「マヤ」が刑事を志した理由は、この中学時代の事件で「死んだ」とされた神童キリコの「仇」を討つためだったのですが、今巻でその前提が大きく狂ってくることになります。
ただ、キリコによって開眼させられたスプラッタ・ムービー・オタクと殺人事件趣味が真相が分かった後でも、全く影響がなかった上に、「浜田」いじりも変わらず、今回は道路の跨線橋の上からの浜田くんのダイブも見ることができますね。もちろん、今回も彼はしっかり生き延びているようなので次巻での活躍も楽しみです。

ドS刑事 三つ子の魂百まで殺人事件 (幻冬舎文庫)
東京・立川で「スイーツ食べ過ぎ殺人事件」が発生。死体は無数のケーキに囲まれていた。捜査一課第三係の〝姫様〞こと黒井マヤはこの事件と同じくらい「殺人現場がエレガント」という理由で、浜松のある事件を洗い直す。すると徐々にマヤの心の奥底に眠ってい...

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