アポフェニアの謎解きの裏にはクロい「心理ミステリー」があるー七尾与史「妄想刑事 エニグマの執着」

警察ミステリの基本というと、地道な聞き込みと綿密な現場捜査か、ほとんど何も残されていない現場のかすかな証拠や関係者のちょっとした人間関係からの抜群の推理と洞察力で犯人へと迫っていく、というのが定番なのですが、事件にまつわる何の意味もないと思われる数字や記号から「女の勘」で真犯人を見つけていく、非論理的な名探偵・江仁熊氷見子こと「エニグマ」ちゃんが活躍する「心理」ミステリーが本書『七尾与史「妄想刑事(デカ) エニグマの執着」(徳間文庫)』です。

「妄想刑事 エニグマの執着」の収録と注目ポイント

収録は

第一話 女刑事の執着
第二話 女刑事の妄執
第三話 女刑事の偏執

となっていて、本書の主人公は警視庁捜査一課に所属する「江仁熊氷見子」(エニグマヒミコ)という女性刑事で、彼女は現場に遺された一見意味のない数字や記号から犯人を推理していく「占い」あるいは「オカルト」まがいの捜査で実績を上げている名探偵です。

ただ、その推理を彼女は「女の勘」と称しているのですが、被害者の蟻が十匹たかっていたことから、今まで捜査線上にあがっていなかった被害者の中学校時代の家庭教師だった「有藤」という人物が犯人であることをつきとめるなど、実績はありつつもその捜査や推理が「真っ当」なものとは認められていない人物です。ただ、実績だけはあるので、難事件の帳場が発生すると相棒の真山恵介刑事とともに現場へ必ず派遣される、という設定ですね。

第一話 女刑事の執着

まず第一話では、若い会社員の女性が家庭用のナイフで視察されるのですが、そのナイフの木製の柄に彫り込まれた「W」の字に赤い塗料が塗られているという事件から始まります。そして、被害者の右手がグーで左手がパー、さらに犯人が被害者の手首の時計を4時7分をさした状態で壊していた、というところが「エニグマ」の着眼点となります。

そして、ここで第二の事件が起きます。今回は公園で男性が殺されていたというのですが、第一の事件と同様の「W」のマークが刻まれたナイフで、「富士の天然水バナジウムウォーター」を飲んでいる途中で刺殺されたというものです。

ここで、「エニグマ」は第一の被害者が「23区」というブランドの服を着ていたことや、第二の事件の被害者の名前が「清浦奎吾」であることから、今回の一連の事件にある法則性を見出すのですが・・・といった展開です。

第二話 女刑事の妄執

第二話の冒頭では、マルチ商法関連の連続殺人事件を解決しているのですが、ここでの謎解きの鍵は「フィボナッチ数列」。「ドS刑事 桃栗三年柿八年事件」でも連続殺人事件の謎解きの鍵になったやつですね。

本筋の事件は寂れた倉庫街にある倉庫から、40代なかばの男性がスーツ姿で胸の襟を握りしまた状態で死んでいるのが発見されます。急性の心臓発作で死んだようなのですが、彼の周囲は、A4サイズの用紙が散らばっていて、それには広辞苑の内容を丸写しされている、という状態です。

一見、過労による心臓発作で死んだという扱いにされるのですが、「エニグマ」ちゃんは、被害者の周囲に散らばった、広辞苑を写したA4用紙に不審を抱いて捜査を進めます。そんな中、大手旅行会社に就職したがパワハラで退職した若い女性が自宅で絞殺された状態で発見されます。彼女は殺された夜、部屋内で二人と男と言い合いをしていたらしく、「私達はルシファーにされた」と叫んでいた、という証言が隣人からされます。そして、さらに、この被害者たちは、郵便受けに投げ込まれていた時給5千円のアルバイト募集のポスティングに応募してアルバイトをしていたらしい、ということをつきとめたのですが・・という展開です。

第三話 女刑事の偏執

第三話では、健康器具メーカーの社員で「里見」という男が公園で刺殺されるという事件がおきます。彼は社内でも札付きの社員で、恨んでいる者は社内外に多数いるので容疑者にはこと欠かない人物だったのですが、その中でも、彼が中学時代にイジメの標的にしていて、不登校にさせた元同級生・鈴木との接点が浮かび上がってきます。

ただ、その元同級生も首を包丁で掻き切った状態で発見されていて、本人からの証言はつかめないのですが、学生時代から仲の良かった友人たちの証言では、一緒に酒を飲んでいる時に、「里見」の話題になったときに、突然激昂し始めたとのことです。

おそらく、この怒りが原因となって「鈴木」が「里見」を殺したのだろうと推理され、「鈴木」の自宅から凶器も発見され一見落着かと思われたのですが、昔の恨みをなぜ今になった思い出したのか不自然に感じた「エニグマ」ちゃんが調べ続けると、一緒に酒を飲んでいた「鈴木」の友人・三良坂の過去にも彼をイジメた教師が同僚教師から殺されたり、実家が放火されるといった出来事があったことから、彼の陰にあるあることに気づき・・・、という展開です。

レビュアーの一言ー「シロ」から「クロ」へと心理実験は変貌する

本書は最初、「アポフェニア」(無作為またな無意味な情報の中から規則性や法則性を見出して、それらを何らかのメッセージだと思い込む一種の妄想)っぽい「エニグマ」ちゃんの迷推理が、名推理につながっていく、軽めのミステリーで始まるのですが、いつの間にか、「スタンフォード大学実験」を再現した殺人事件であるとか、「スタンダール症候群」を利用した誘導殺人といった方向に進んでいきます。まさに「シロ」とみせかけて「クロ」い物語へと変貌していく、作者お得意のストーリー展開。これにうかうかと乗ってしまうのも楽しみではありますね。

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