織田信長や豊臣秀吉、徳川家康、淀君といった何だか綺羅星を筆頭に、戦国武将や戦国時代を彩った美姫は、歴史小説や時代小説のヒーロー・ヒロインとして、その行動のあれこれが意味深いものとして描かれることが多いのですが、そんな「偉人たち」への敬意は脇に置いておいて、歴史学者と脳科学者の二人で、偉人たちの精神構造について遠慮なく解剖・分析してみたのが本書『本郷和人・中野信子「戦国武将の精神分析」(宝島社新書)』です。
構成と注目ポイント
構成は
まえがきー中野信子
第1章 家族殺しという病
斎藤義龍ー愛着障害による悲しき家族殺し
伊達政宗ー「潜在的自己評価」の低い希代のパフォーマー
徳川家康①ー家康のペルソナが現代日本の源流
淀殿ー息子を出世カードにした元祖毒親
第2章 サイコパスの疑いあり
武田信玄ー感情で動かない合理的な侵略マシーン
織田信長ー完全無欠のサイコパス
松長久秀ー美に執着したソシオパス
豊臣秀次ー中二病をこじらせたパラノイア
第3章 女の選び方と異常性愛
徳川家康②ー確実に子孫を残す生殖戦略
細川忠興ー妄想をふくらませたボーダー気質
島津忠恒ー「報酬予測」でふくらんだ異性愛
大友宗麟ー家臣の妻も手ごめにした多動力
第4章 名将に欠乏したもの
上杉謙信ー不寛容で独善的な正義を生んだ「愛」
豊臣秀吉ー「問題設定能力」に欠けた天才
毛利元就ー人間不信を助長するセロトニン不足
石田三成ー空気が読めなかった秀才
あとがきー本郷和人
となっていて、とりあげられているのは信長や秀吉による天下統一がみえてきそうな「戦国末期」に活躍した武将や美姫で、ぶっちゃけていうと「NHK大河ドラマの常連」的な方々ばかりですね。
当然、こういう方々は、ドラマの中では長く続く戦乱の世を深く憂えていたり、天下を統一して平和をもたらすことを強く願っていたり、といった「立派」な人物に描かれていたり、あるいはそうした人物へやむにやまれぬ感情から抗って破滅したり、と英雄的か悲劇的かどちらかの視点で描かれることが多いのですが、本書では、表面上の飾りをとっぱらって、精神構造をまる裸にしようという「乱暴」な所業がしかけられています。
その様子はというとかなり遠慮のない腑分けで、例えば、織田信長の奥さんの情報が史上ほとんど伝わっていないところから「もう、間違いなくサイコパスといってもよさそうです」と断言したうえで
中野 サイコパスは「自分がなにかを実現したい」はあんまり思っていなくて、「ゲームをクリアしたい」くらいに思っている可能性があります。
本郷 だとすると、信長も「天下を統一してやろう」なんて、あんまり思ってなかったんですかね。
中野 天下取りというゲームをクリアしようという感じではないでしょうか
といったあたりは、信長のもつエキセントリックなイメージから「そうかもね」と納得してしまうところもあるのですが、「上杉謙信」のところでは
中野 やはり「やらなきゃいけないからやる」っていうことなんでしょうか、謙信にとっては、秩序やルールが一番大事なんですね。オキシトシンのたくさん出る人にとっては、ルールが一番大事で、それを破る人が悪なんです。
といった具合で、「うわぁー。謙信の「義の国」はオキシトシンの分泌過剰かよー」ってな感じで、新潟県人からは闇討ちされそうな分析もされています。
さらには、関ケ原の戦で、西軍を実質的に率いて徳川家康に対峙した石田三成に至っては
本郷 三成は、正義の人といえば正義の人なんですよね。
中野 本当に潔白だったんだと思います。
本郷 まあ、非常に優秀だったけれど「言っていいことといけないことの区別がつかない」ということになると、一番大人じゃない人ですよね。
中野 そうですね。大人力に欠ける人だったと言ってもいいですね。
と身も蓋もない「評価」がされています。
レビュアーの一言
大河ドラマや歴史の偉人・英雄好きにとっては、今まで構築してきた歴史上の人物のイメージを大きなハンマーでガンガンと壊されるようで「勘弁してよ」という気持ちになるかもしれないですが、その一方で歴史上の人物の「隠されていた秘密」を暴く妙な爽快感もあるのも事実です。大河ドラマや歴史ドラマのおともに本書を横において、「「意地悪な目線」でみるのもたまにはいいかもしれません。
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