警視庁の上層部の新しもの好きと気まぐれから、法医学の新分野として捜査活動の中に組み入れられた昆虫学。その法医を委嘱された、パワフルでKYな女性准教授・赤堀淳子が、死体にわいているウジや現場の臭気をものともせず、被害者や犯行現場に残された「虫の声」を聞き分けて、通常捜査や鑑識活動では見抜けない謎に迫っていく「法医昆虫学捜査官」シリーズの第2弾が本書『川瀬七尾「シンクロニシティ 法医昆虫学捜査官」(講談社文庫)』です。
「シンクロニシティ 法医昆虫学捜査官」の構成と注目ポイント
構成は
プロローグ
第一章 彼女と虫のテリトリー
第二章 半陰陽が語るもの
第三章 人魂とアナログ時計
第四章 「R」に絡みついた蛇
第五章 ハードビート
エピローグ
となっていて、今回おきる事件は、東京都江戸川区の東葛西の地下鉄東西線の高架下にあるトランクルームの一室で、左手の中指のない40代から60代くらいの女性が撲殺され、腐乱状態になって発見されたというもの。
この事件の捜査を東京で進める警視庁の岩楯や昆虫学の法医・赤堀たちと並行して、事件の重要なカギとなるらしい、福島県の枯杉村という人口800人の小さな村に移住してきている「薮木」という人形作家の目線での村の様子が描かれていきます。
事件の捜査のほうでは、今回は最初から赤堀准教授が捜査メンバーとして呼ばれていて、一番もめているのは、死体を調べた昆虫学者・赤堀準教授がハエのウジの生育状況で割り出した死亡時期と、解剖医の出した結論とが食い違っているという、前巻同様、鑑識サイドと昆虫学者の意見が異なる波乱含みのスタートです。
今回、赤堀のお世話係となるのは、前巻に引き続き、離婚の危機を抱えている岩楯刑事と、今回の事件で最初のかけつけた警察関係者で、現場の保存のために締め切ったトランクリームの中でハエの攻撃と腐臭に数時間耐えた月縞刑事で、彼らは遺体に付着していた金髪の毛髪とサギソウの種と、遺体が放置されていたトランクルームの線から捜査を進めていきます。
このトランクルームは犯行現場の下の階を借りている活字中毒者をはじめ三人の男が借りていて、全員、警察の取り調べには協力してくれたのですが、取り調べ後、三人とも行方をくらましてしまいます。この不自然な状況を調べるため、再度、トランクルームの経営者のもとにやってきた岩楯たちはそこで、金髪の男と偶然出くわし・・・といった展開です。
ただ、これで事件落着かと思ったらこれは作者のフェイクなんですが、被害者の死体がトランクルームに放置されていた理由までは明らかになります。
一方、赤星が注目したのは、コンテナの中でみつかったクロナガアリで、巣の中になんでもとりこむクロナガアリの習性に着目した蚊の彼女は、コンテナ近くにあるアリの巣の中からヤゴの抜け殻を発見します。
このヤゴの抜け殻と被害者に付着していたトランクルーム付近には自生しないサギソウの種から、被害者が殺害された場所の手がかりが、オスとメスが混じった半陰陽の性モザイクのトンボの変異種にあることを見つけ出し、その生息地であり、被害者が殺害された現場である「枯杉村」へとたどりつきます。
そこのトンボの生息する湿原で、岩楯と赤堀は、埋められていた被害者の中指を発見するのですが、その中指にはめられていた「R」の字が彫られた指輪から、被害者が「臓器移植コーディネーター」に就いていたのをつきとめるのですが、そこで、被害者の「黒い噂」、リベートをとって生体移植の順番を操作していたのでは、という噂をききつけます。
今回の犯罪は、その「臓器移植」にかかわる黒い噂にあるのでは、と推理した岩楯たちは、犯行現場である「枯杉村」の住民たちを調べ始めます。そして、村にUターンしてきている村一番の旧家出身の「日浦瑞希」という若い女性が、心臓移植によって命が助かったことを知るのですが、その移植に今話の被害者が関わっていたらしく・・といった展開です。
物語の途中から、最初思ってもいなかった方向へ引っ張りこんでいく、作者のお得意の技は如何なく発揮されていますので、そこらあたりも楽しんでみてくださいな。
レビュアーの一言ー人形作家の陽動にひっかかるな
今巻では、岩楯たち警視庁の捜査本部の動きと赤堀たち昆虫学者サイドの動きに並行して、少しのどかな感じすら漂う、福島県の枯杉村の様子、人形作家として村に移住して創作活動を続けている成年「薮木」が、村にUターンして帰ってきている日浦瑞希という美少女に憧れて、「雪氷花」と名付けた彼女そっくりの人形をつくっていくところが妖しい雰囲気と猟奇的な雰囲気を増長させていて、ここらに嵌められて、ミスリードさせられるのも結構楽しいかと思います。
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