ツバメとヌカカの関係が昆虫学者を犯人へ導くー川瀬七緒「スワロウテイルの消失点」

警視庁のオエライさんの気まぐれで法医学の新分野として捜査活動の中に組み入れられ、とうとう警察の正式組織「捜査分析支援センター」の一分野に昇格した「法医昆虫学」。警視庁の捜査官として正式採用になっても、相変わらずKYな女性准教授・赤堀淳子が、死体に蠢くウジや現場の腐敗臭をものともせず、被害者や犯行現場に残された「虫の声」を聞き分けて、通常捜査や鑑識活動では見抜けない事件の真相に迫っていく「法医昆虫学捜査官」シリーズの第7弾が本書『川瀬七緒「スワロウテイルの消失点 法医昆虫学捜査官」(講談社文庫)』です。

「スワロウテイルの消失点」の構成と注目ポイント

構成は

第一章 感染と隔離
第二章 法医昆虫学者の助手
第三章 SOSのサイン
第四章 二つの道が交わる場所
第五章 覚悟と減らず口

となっていて、今回の事件は西武新宿線沿線の下井草か上井草あたりに民家で、70歳代の男性住人・飯山が柔らかい布で首を絞められている最中に心臓麻痺で死んでいるのが発見されます。死体には腹部に浅い刺し傷と頭に軽い内出血の痕があるのですが、こちらの方は死因と関係がない様子で、被害者宅の捜査で杉並区で頻発している空き巣狙いで見つかったのと同じDNAをもつ毛髪と指紋が発見されるのですが、今回の異常時は、この死体を検死中、立ち会っていた警察官や赤堀を含む法医学者が全員、なにかに触られたような感触を感じた後、突然、発疹が出、猛烈な痒みに襲われるという現象がおきます。

当初は、何かのウィルス性の感染症か、と疑われ、全員が厳重に隔離されるのですが、この正体は台湾生まれのヌカカの一種である「小黒蚊」ということが赤堀によって判明します。ただ、ここで普通、日本には自生しないこのヌカカがどこからやってきて、しかも被害者の体に付着したのか、というのが新たな謎になってくるのですが、ネタバレは物語の後半のほうで。

事件捜査のほうは、被害者の交友関係や暮らしぶりを調べるところから始まるのですが、貧乏暮らしではあるものの川柳サークルに参加し、温泉巡りを楽しんでいたりして人付き合いもよいい人物で、誰かに恨まれるといったことは見当たらない人物。少しだけ不審な点は、、もともとが収入は年金ぐらいしかなく、ほとんど貯金もないのですが、川柳サークルの新年会の経費をおごってみたり、高価な贈り物をしてみたり、と不相応な浪費をしていることぐらい。

なので、岩楯たちも「怨恨」の線ではなく、通り魔的な「空き巣狙い」の方向で捜査を進めていくと、聞き込みの最中に偶然、連続空き巣犯に遭遇します。そして、この空き巣犯が、今回の被害者の飯山宅にも忍び込んだことを自白します。
ここで一件落着かと思われたのですが、彼の供述と現場の証拠から、飯山を殺したもうひとりの人物の存在が浮かび上がるとともに、飯山が1億円の宝くじに当選し、当選金を自宅の金庫に保管していたことも明らかになり・・といった筋立てです。この1億円は被害者宅からは消えていて、犯人探しと当選金探し、そして、被害者の飯山はその当選金を何に使おうとしていたのかというのが捜査の焦点になってくるわけですね。

一方、赤堀のほうは、被害者の遺体に付着していたヌカカ「小黒蚊」の繁殖地探しを始めています。今回の事件の重要な手がかりとなるとともに、有害な外来生物の駆除もかねての昆虫学者の活動ですね。

この調査の過程で、この事件のおきた町内の周辺では、カラスが殺されて吊るされるという事件が連続しておきていることがわかります。一見、関係ないかと思われていたのですが、赤堀が、彼女の調査が燕の巣の撤去を企んでいるのではと誤解した少年に「スリングショット」というパチンコで襲われる事件をきっかけに、その目的がツバメを襲うカラスの牽制であることや、ツバメの営巣とヌカカの生息場所とが結びついていくこととなります。
さらには、この少年の証言がきっかけで、被害者を殺したと思われる男はある銘柄のタバコのヘビースモーカーであることもわかり・・といった展開です。

そして、岩楯たちの捜査で、被害者がその当選金を、高級有料老人ホームの入居費と入会金に使おうとしていたことが判明したことから、その線から容疑者を手繰っていくのですが、その住居が赤堀たちがつきとめたヌカカの繁殖地の近くで、といったことになるのですが、このシリーズのお決まりとして、犯人から赤堀や岩楯が襲撃されるシーンにつながっていくという、アクション好きの楽しみもしっかり用意されていますので念のため。
今回の犯人の武器は、3Dプリンターでつくった模造銃と模造弾丸というトレンディなものですね。

レビュアーの一言ー赤堀の捜査仲間が増殖していく

シリーズの最初のあたりは、赤堀准教授の独自捜査を手助けするのは、彼女の大学の後輩でパシリのように使われている昆虫コンサルタントで日本人とウズベキスタンのハーフ・辻岡大吉ぐらいだったのですが、前巻で「捜査分析支援センター」の同僚のプロファイラーの広澤が赤堀チームに加わり、今巻では捜査分析支援センター技術開発部の偏屈研究員・波多野や、ツバメのオタクである夏樹少年と、チームメンバーが増殖していっています。次巻以降の赤堀チームがどういう布陣になっていくか楽しみな展開でありますね。

スワロウテイルの消失点 法医昆虫学捜査官
東京・杉並区で男性の腐乱死体が見つかり、法医昆虫学者の赤堀と岩楯刑事が司法解剖に立ち会うことになった。岩楯の相棒となる深水巡査部長、高井戸署署長、鑑識課長らも同席するなかで、大柄で肥満した遺体にメスが入れられていった。と、そのとき、立会人た...

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