「科警研のホームズ」は科警研に戻るのか?ー喜多喜久「科警研のホームズ 毒殺のシンフォニア」

犯罪の科学捜査研究の「本拠」ともいえる科学警察研究所に突然できた「本郷分室」を舞台に、かつて「科警研のホームズ」と呼ばれながら鑑定ミスで退職した「土屋」を科警研に呼び戻すために集められた道県警察から派遣されてきた科捜研のエース研修生たちが、土屋の「おざなり」な指導と「鋭い一言推理」で捜査本部の手を焼く難事件の謎を解いていく、科学捜査の倒叙型ミステリ―「科警研のホームズ」シリーズの第2弾が『喜多喜久「科警研のホームズ 毒殺のシンフォニア」(宝島社文庫)』です。

前巻で、土屋が科警研を去る原因となった「鑑定ミス」が、科警研内部の者によるサンプルすり替えであることが分かり濡れ衣が晴れたところで、土屋の復帰が実現するかどうかの期待をはらみながらの、科学捜査ミステリ―が展開されていきます。

「科警研のホームズ 毒殺のシンフォニア」の構成と注目ポイント

構成は

第一話 毒殺のシンフォニア
第二話 溶解したエビデンス
第三話 致死のマテリアル
第四話 輪廻のストラテジー

となっていて、前巻の最後で、当初6カ月間の予定であった研修期間が、捜査に対する「本郷分室」の貢献や、土屋の「鑑定ミス」が嵌められた結果だったことがわかったため、科警研所長に出雲所長によって6カ月間延長され、「伊達」「安岡」「北上」の研修生三人は、過去の迷宮入りしそうな事件の科学捜査に活動の範囲を広げていきます。

第一話の「毒殺のシンフォニア」は、指導教官からのパワハラで自殺した女性研究者の仇をうつため、女性の恋人や兄、友人の研究者が学会後のパーティーでしかけた毒殺事件の謎ときです。使われた毒は「ふぐ毒」として有名な「テトロドキシン」なのですが、これは即効性のある神経毒。被害者が倒れたパーティー会場では、加害者たちはそばに寄ることばなかったことが立証されているのですが、どうやって即効性の「テトロドキシン」を「遅効性」にすることができたか、といったところが謎解きのキモです。
さらに、この毒殺事件の首謀者をあぶり出して、無用な後追い自殺を防止するために、土屋お得意のポリグラフの誤用が仕組まれるのですが、詳細は本書で。

第二話の「溶解したエビデンス」では、奥多摩の山中の山梨との県境近くの廃製材工場で、ドラム缶にいれられた男性の死体が発見されることからスタート。ただ、「死体」とはいっても。ドラム缶の中に入っているのが濃度の高い水酸化ナトリウムの溶液が入っていたので、タンパク質が溶解して白骨状態になっています。死体には胸骨が砕けていたり、呑み込んでいたと思われる4ケタの数字が彫られたプラスチック片が見つかるのですが・・という筋立てです。
被害者の身元は、復元した顔をネットの画像検索に流すことであっけなく判明し、数月まえにある大学を辞職した電子回路研究の研究者であることがわかります。彼は学内の女性と交際していたのですが、辞職する前に、その女性に鞍替えされているのですが・・というtrん階です。
今回は、冒頭の「倒叙」のところで、誰かに頼まれて殺人を犯したらしい人物の告白と、中ほどで死体の見つかった現場近くで前科のある犯罪者が事故死していることがわかる、ってな情報が読者の推理を攪乱しますね。

第三話の「致死のマテリアル」では荒川区の一軒家で60歳過ぎの男性が死亡しているのが発見されます。その家には、一酸化炭素中毒の事故で回収の対象となっているストーブがあって、稼働中であったたため、このストーブの不完全燃焼による事故死、と処理されそうになるのですが、通報してきた第一発見者が見つからないのと、被害者の携帯電話がなくなっているのが引っかかるところです。
再度、現場を検証した研修生三人は、ここで「ニッケル」を検出するのですが、事件とのかかわりは・・といった展開です。少しネタバレすると、被害者があるものの偽造に関わったいたことが、死因を複雑にしています。

第四話の「輪廻のストラテジー」では、新興宗教の教祖が突然死します。診断によると心不全ということなのですが、その教祖は「輪廻」するために自らの意志で心臓をとめた、と教団側から発表があります。ここで、その教祖の愛人が妊娠していて、そのお腹の中の子が教祖の生まれ変わりだ、とその愛人と教団のナンバー2が主張をし始める、といったところから教団内で教祖の正妻と息子と愛人側で権力争いがおきてくる、といった筋立てです。
謎解きののほうは、この教祖がステージの上での座禅のパフォーマンスの後、座禅を組んでいた箱から出たところで倒れ、その後死亡したのですが、そこに何かのトリックがないか、と研修生3人が調査を始めていきます。今回は、前話までとはちょっと趣向が違って、物理トリックが主題となってますね。
意表をつかれるのは、教祖の生まれ変わりを妊娠したと主張している愛人で、最後のほうで妙な純愛ぶりが発揮されます。

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レビュアーの一言>土屋の科警研復帰工作は失敗するが・・

「科警研のホームズ」を科学捜査研究所に復帰させるために、仕組まれてきた「本郷分室」なのですが、残念ながら、土屋を復帰させるという科警研所長の出雲の企みは挫折してしまいます。ただ、各県の科捜研から派遣されてきた研修生がそれぞれの研究分野を活かして、独自に調査活動を繰り広げた、ということは土屋の「教育者」精神を動かしたらしく、今巻の最後のほうで、次巻に向けた新たな仕掛けが始まり、このシリーズはまだ続いていくことになりますのでご安心ください。

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