科警研のホームズ復帰の次の仕掛けは「大学の寄付講座」ー喜多喜久「科警研のホームズ 絞殺のサイコロジー」

かつて「科警研のホームズ」と呼ばれた天才・土屋を復帰させるために科警研の出雲所長によって企画された「本郷分室」プロジェクトが失敗に終わった後、あきらめの悪い出雲所長によって再び組まれた復帰プロジェクトが東啓大学内につくられた寄付講座「科学警察研究講座」です。土屋を指導教官にすえ、警察庁の協力をえて新設されたこの講座の研究生となった松山悠太と藤生星良の二人に加え、再び北海道警から派遣されてきた北上純也をメンバーに、もちこまれてくる難事件を解決していく科学捜査ミステリ―「科警研のホームズ」シリーズの第三弾が本書『喜多喜久「科警研のホームズ 絞殺のサイコロジー」(宝島文庫)』です。

「科警研のホームズ 絞殺のサイコロジー」の構成と注目ポイント

構成は

第一話 悲劇を招くアヴォケイション
第二話 転落のケミストリー
第三話 隠匿されたデッドリー・ポイズン
第四話 絞殺のサイコロジー

となっていて、まずは東啓大学に新設される「科学捜査研究講座」に新しく研究生となった大学3回生の東山悠太が初顔合わせのために研究室へやってくるところから始まります。彼は「科学捜査」という言葉に興味をもってこの講座を選択した学生で、このどっちつかずの学生が、どっぷりと科学捜査にのめり込んでいくのもこのシリーズの読みどころです。

そして、彼以外のメンバーとして、、秘密にしている目的のために将来的には科警研への就職を希望している和風美人の藤生星良という女性が今回のメインキャストとなります。

このほか、前巻まで「科学警察研究所」の本郷分室に北海道警から研修派遣されていた北上純也が再び研修生として派遣されていて、面倒見の悪い「土屋」や科警研所長の橋渡しを務めるという設定です。

前巻では捜査中の事件の科学鑑定だったのですが、今回は発生から1年以上経過して、投入されている警察官が減っている案件の科学鑑定と調査、つまりか「迷宮入りスレスレ」の事件の捜査活動というわけです。

第一話の「悲劇を招くアヴォケイション」では、1年前、東村山市で75歳の一人暮らしの老人が自宅で殺され金庫が盗まれたという事件が対象となります。その金庫は後にこじ開けられて荒川の河川敷に捨てられていたのが発見されたのですが中身の法は何が入っていたかわからない状況。

被害者の通帳には多額の預金があったのですが、犯人がキャッシュカードでそれをおろした形跡もありません。さらに、被害者は絵を趣味にしてつつましく暮らしながら、地域の集まりでは多額の紙幣をみせびらかしていたというのが、犯行を誘ったと思われるのですが・・・といった展開です。

第二話の「転落のケミストリー」はマンションでの転落事故が保険金殺人と疑われる事件です。二年前に三鷹市のマンションで男性が非常階段から転落死しているのですが、彼の妻の再婚相手が今度は歩道橋から転落して意識不明になっていることから時間は経っているのですが、保険金殺人の疑いがでてきたわけですね。
二年前の被害者は自宅内で煙草が吸えないので、この非常階段で喫煙するのを常としていたのですが、その日は階段の踊り場の手すりにもたれた拍子に柵が外れ、柵と共に転落した、というものです。当時は施工不良か不良部品の使用が疑われて裁判にもなったようですが、どうもそういう気配もなく、示談で決着しています。
松山と藤生は、被害者とともに落ちた柵の部品の再鑑識からはじめると、折れたボルトから「ガリウム」が検出されます。ガリウムは融点が低く、人の体温でも溶ける金属であるとともに、他の金属への浸食力が強く、入り込まれた金属の強度を低下させるという特徴をもっているのですが・・・、という展開です。
今回は、事件のおきたマンションの同じ階にすむ元IT会社社員の「ユーチューバー」の「倒叙」に注目しておきましょう。

第三話の「隠匿されたデッドリー・ポイズン」はドイツから170年前に建築された洋館をそっくり移設した邸宅に住んでいる高利貸の老人がヒ素中毒で死んでいた事件の謎解きです。問題は、死因となったヒ素をどこで摂取したかということなのですが、当時の捜査では、食事などからも検出されておらず、さらに第三者によって飲まされた形跡もありません、さて・・というところですね。
ところが、ここで再度の現場検証に北上とでかけた松山くんは、庭に入ったところで、ヒ素がもとになって発生する有毒な「アルシン」ガスの特徴である「ニンニク臭」を感じ取るのですが・・という展開です。

第四話の「絞殺のサイコロジー」は、松山くんと同じ「科学捜査研究講座」の研究生である「藤生星良」の過去にかかわる事件の謎解きです。彼女は過去におきた出来事から科学警察研究所の研究員になることを目指しているのですが、それは数年前、3歳だった弟が公園で何者かに絞殺された、という事件の犯人をつきとめるため、ということがわかります。

その弟は母親と昼寝中に家を抜け出して公園にいるところをロープのようなもので絞殺されたのですが、未だに犯人は捕まっていません。

藤生の強い要請で、その事件の再捜査を「研究講座」で行うことになったのですが、弟が首を絞められた時に抵抗のあとがなかったころから、顔見知りの人物の犯行ではないかという疑いがでてきます。当時、弟はその多動症のために父母の悩みのタネになっていて、夫婦仲もあまりよくない状況であったことや、母親は手に怪我をしていてロープが持てる状態ではなかったというのが謎解きのネタになるのかもしれないのですが・・という展開です。
今回は、作者の強めのフェイクが入っているので注意してくださいね。

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レビュアーの一言>モラトリアム男子学生の成長物語として読んでみたい

今回も仕立ては、「科警研のホームズ」の復帰プロジェクトとして物語も始まっているのですが、あいかわらず当人の「土屋」は大学での研究活動や学会活動が忙しくて、研究生である松山くんや藤生さんへの指導もごくたまに行う程度のきまぐれ指導です。
ただ、そのせいか、自分のやりたいことが全く見当がついていなかった「松山くん」が、実際の事件の科学鑑定や捜査に関与していくにつれ、しっかりと自分の道を探しはじめる「成長物語」が展開されていきます。
最近のミステリ―は結末が苦いものになっていることが多いのですが、表題作も藤生さんの悲痛な過去の事件を題材にしながら、未来へ向けた明るい兆しがみえる仕立てになっているのが嬉しいですね。

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