法医学教室の二人は消えた死体の謎を解くー椹野道流「新装版 壺中の天 鬼籍通覧3」

大阪府にある医科大学の法医学教室を舞台に、茶髪で口と目の大きな、トトロを細くしたような女性医師・伏野ミチルと、ビジュアル系のロッカーのような風貌で怖がりの医学部の大学院生・伊丹崇、伊丹の小学校時代の同級生でガッチリした体型にセサミストリートの太い眉毛で大きな目のマペット似の風貌ながら動きのいい敏腕の刑事課の刑事・筧兼継をメインキャストに繰り広げられる法医学+ホラー・ミステリー「鬼籍通覧」の第3弾が本書『椹野道流「新装版 壺中の天 鬼籍通覧3」』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

一章 おそらくはどうでもいいこと
間奏 飯食う人々 その一
二章 今に何か見える
間奏 飯食う人々 その二
三章 だんだん遠くなって
間奏 飯食う人々 その三
四章 崩れ落ちずここに
間奏 飯食う人々 その四
五章 足跡だらけの道
間奏 飯食う人々 その五
六章 一度だけ現れて
飯食う人々 おかわり!

となっていて、今巻では法医学教室の主任教授である都筑教授の授業の助手を務めたお礼に、教授の奢りで、ミチル、伊丹の三人がパスタ屋に昼飯を食いに行く途中のゲームセンターで人が死んでいる事件に遭遇するところから始まります。その現場に出張ってきているのがいつもO大学の法医学教室に検死を依頼しているT署の中村警部補と伊丹の幼馴染・筧刑事ということで、三人は否応なく、この事件の検死に引っ張り込まれることになります。

事件のほうは、「ダンス・ダンス・レボリューション」という音楽曲にあわせてステップを踏むゲーム機の上に若い、パンプスを履いて事務服を着た女性が頭から血を流して死んでいる、というもので、見る限り、ゲームで遊んでいるうちに自己転倒した、と推測できるものです。ただ、昼飯を食いにでかけたところで、検死現場に引き込まれているので、道具もなく、さらに野次馬も集まってきているので、詳しい検死は、後で法医学教室へ運んでもらって行うことになります。

で、昼食後、その死体が運び込まれるのを待っている三人だったのですが、ここで、警察から死体が現場検証を終わって、法医学教室に運ぶ途中で、納体袋だけ残して「消えて」しまったという報告が入ります。納体袋の口はしっかり締まったままなのですが、中には腐敗臭のする茶色い濁った液体と土塊のようなもの、そして頭の毛らしい長い毛髪が一本はいっているだけで中は空っぽという状態。遺体を警察車両に積んだときには中身があったのですが、いつ、どこで盗まれてしまったのか、といった流れです。おまけに、事故現場の現況保存のために写した写真のうち、死体を写したはずのものはなぜかちゃんと写っていない、という怪奇現象のおまけつき、というのが第一の事件です。

ここで、この怪奇現象に納得のいかないミチルたちは、再びこのゲーセンを訪れ、死体のあったゲーム機械の隙間から、黒っぽいホコリのような血痕のかけらのようなものをみつけるのですが、実はこれが後で謎解きの大事なヒントになってくるので覚えておきましょう。


この奇妙な事件からしばらく後、ミチルの大学の同期生で兵庫県警の監察医を務めている「龍村」のもとへ一件の検死案件が入ります。事件は19歳の女子大生が首を吊ったというもので、彼女の恋人からの通報で、「アヒルの足は、赤いか黄色いか?」という遺書らしきメモが残されています。そして、龍村が検死をすすめると、これは自殺ではなく、何者かに後ろから扼殺されていることがわかってきます。おそらく彼女は前方にあるなにかに意識を集中しているところを、背後から首を絞められたと思われるのですが、ということで、犯人と被害者の関係性がなんとなく推測されてきます。

さらに、この女子大生扼殺事件が起きた頃、法医学の学会のメーリングリストに「風太がずんこを殺した」というメールが送られていることがわかるのですが、これも事件との関連性を感じさせます。「アヒル」「風太」「ずんこ」といった名前はニックネームか、会員サイトの「ハンドルネーム」を連想させるのですが・・といった筋立てです。少しネタバレすると、この名前はある温泉好きの集まる会員サイトのハンドルネームであることが判明し、そこから芋づる的に第二の事件の被害者の恋人が第一の事件の被害者とも知り合いであったことがわかってきます。警察がその恋人を尋問すると、第二の事件の犯行と経緯を自白し始めるのですが、第一の事件について、意外な事実も喋り始めるのですが・・と展開していきます。

そして、ここで物語は「ホラー局面」に突入。この第二の事件の被害者の恋人が自殺する少し前から、市内の山中の小さな墓地の管理人から、夜中に「どん、どん」という音が響くので、調べてほしいという要請が入ります。この要請の電話を受けた筧は、伊丹とともに管理人の老人のところを夜中に尋ねると確かのそういう異音がしているのを確認します。その音は耳というよりも頭にダイレクトに響くような感じで聞こえてきて、そのリズムはまるで胎児の「心音」のようなペースで聞こえてきます・・、といった感じで、ゲームセンターから死体が消えた理由や、第一の事件の被害者の死体の在りへとなだれこんでいきます。

今巻のホラー部分は、後半部分で、三人が再び墓地を訪れたところが仕上げになります。三人の耳に、「赤ん坊」の泣き声のようなものが聞こえてくるのが仕上げになります。「ヒャアア、ニャアアア」という細い声をたどるとそこには、捨て子ではなく小さな「捨て猫」がいて、ということで、この猫が次巻以降のマスコット的な存在になってきます。

Amazon.co.jp: 新装版 壺中の天 鬼籍通覧 (講談社文庫) 電子書籍: 椹野道流: Kindleストア
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レビュアーから一言

タイトルの「壺中の天」というのは、俗界と切り離された別天地のことで、中国・後漢の時代に費長房という人がいたのですが、市場の役人をしていたとき、薬を売っている老人が、商売を終えると、店先に吊るしていた壺の中に飛び込むのを見かけます。費長房は老人に頼み込んで壺の中に入れてもらったところ、中には立派な建物があり、美酒と美味な料理が並べられています。費長房は老人と一緒にそれをたらふく飲み食いして壺からでてきたという「後漢書」の「方術伝」にでてくるお話を語源にしていて、酒を飲んでこの世の憂さを晴らすことも意味しています。

今回の事件も被害者と加害者たち三人の「閉じられた関係」をどうにかする「酒」のような存在があれば、どうにかなったかもしれないですね。

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