伊丹くんは兵庫の監察医修行で成長するー椹野道流「新装版 隻手の声 鬼籍通覧4」

大阪府にある医科大学の法医学教室を舞台に、茶髪で口と目の大きな、トトロを細くしたような女性医師・伏野ミチルと、ビジュアル系のロッカーのような風貌で怖がりの医学部の大学院生・伊丹崇、伊丹の小学校時代の同級生でガッチリした体型にセサミストリートの太い眉毛で大きな目のマペット似の風貌ながら動きのいい敏腕の刑事課の刑事・筧兼継をメインキャストに繰り広げられる法医学+ホラー・ミステリー「鬼籍通覧」の第4弾が本書『椹野道流「新装版 隻手の声 鬼籍通覧4」』です。

今巻では、ようやく都筑教授や伏野ミチルさんの法医学教室に慣れてきた「伊丹くん」が、二人の「可愛い子には旅をさせよ」の親心から、兵庫県の監察医をしている瀧村医師のところへ修行に行かされます。伊丹クンがこき使われてヘトヘトになりながら掴んだものと、出くわした事件の「優しい」処理の仕方をお読みください。

あらすじと注目ポイント

構成は

一章 気晴らしを求めて
間奏 飯食う人々 その1
二章 聞こえてくる音に
間奏 飯食う人々 その2
三章 穢れのない魔法使い
間奏 飯食う人々 その3
四章 どこかで呼ぶ声が
間奏 飯食う人々 その4
五章 近づいても遠くで
間奏 飯食う人々 その5
六章 ありのままの君を
飯食う人々 おかわり!

となっていて、まず今巻はいつも死体の検死で追いまくられている伊丹崇の所属するO 医科大学法医学研究室としては少しイレギュラーな、DNA及び血液による親子鑑定のシーンから始まります。依頼してきているのは三十代前半くらいの女性で、7,8歳ぐらいの女の子とすでに亡くなっている男性との親子関係の鑑定を求めてきているのですが、鑑定を受ける女の子の

「お母ちゃんが言うてたもん。私がお父ちゃんのホンマの子供やったら、お金ようけもらえるて。なーんも心配なくなるて」

という言葉に遺産相続のゴタゴタと女の子の母親への愛情を感じます。このあたりの機微は「関西弁」特に「大阪弁」だと妙に伝わってくるように感じるのは偏見かもしれません。

そして伏線となる出来事はもうひとつあって、伊丹が筧のアパートで子猫の世話をしながら、AWというオンラインゲームを始めたところ、その中で「ブルーズ」というキャラを操る小学生の女の子と知り合いになり、住んでいる場所も顔も知らないのですが、その子の境遇、イジメで保健室登校、さらにはシングルマザーの母親と母親のボーイフレンドと同居していて、そのボーイフレンドは酔うと凶暴になる、という境遇に同情し、ゲームの指導をうけながら彼女の話し相手になっていきます。
先に言っておくと、最後のほうで、この「ブルーズ」の女の子はとりあえず前向きに生きていけるのですが、中程の父親を酔っ払って殺してしまっていても、病的酩酊という病気のため、その間の記憶が飛んでしまっている事件とかが、この女の子へのアドバイスに大きく影響してきています。

で、メインの事件の前提として、前巻で登場した兵庫県の監察医をしている龍村医師のところへ一週間に一度、研修ということで彼の手伝いに入るようになります。これは伊丹くんの属しているO大学の法医学教室が警察からの依頼を受ける検死が中心であるのに対し、龍村医師の大学は不審死の検死もする行政解剖の依頼も受けていて、解剖件数が桁違いに多いので、伊丹くんの経験値を飛躍的にあげようという指導教官の都筑教授のありがたい「親心」ですね。

で、まあ解剖件数が多いのと、龍村医師の研究室が極端な人手不足なためにヘロヘロになるまで使い倒されるわけですが、その中で生後六ヶ月の赤ん坊の行政解剖が持ち込まれます。事案としては、母親が洗濯物を干しに言っている間に、ベビーベッドに寝かされていた赤ん坊の様子がおかしいのを長男が見つけて母親に知らせるが、この時点ですでに心肺停止状態になってます。父親も同じ部屋にいたのですが、うたた寝をしていて気づかなかったという状況です。ちなみに、この父母再婚で、長男は母親の連れ子ですね。

ここまで読んだミステリーファンの方は気づかれたかもしれませんが、この赤ん坊の検死を通じて、突然死ではなく「他殺」であることを伊丹くんが見つけ出していくのですが、死因と犯人はちょっとショッキングな結果です。
ただ、今巻で救いのなるのは、伊丹くんが犯人当てだけで終わるのでなく、犯人に寄り添って自白を促していくあたりで、ここはけっこう泣かせる場面となってます。

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レビュアーから一言

今巻のタイトルとなっている「隻手の声」(「隻手音声」)というのは禅の公案で、普通、両手を打ち合わせると音が鳴りますが、片手だけをふっても音はなりません。この「片手」の音を聞け、というもの。まあ、無理難題みたいな話ですが、耳で聞こえるばかりが音ではない、つまりは、当たり前と思っている「思い込み」や「常識」を疑えということのようです。今巻で、これが何を意味しているかは、読者それぞれが答えを出さないといけないようですね。

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