法医学生と新米刑事は動物連続殺害と放火殺人のクロスを見つけるー椹野道流「禅定の弓 鬼籍通覧5」

大阪府にある医科大学の法医学教室を舞台に、茶髪で口と目の大きな、トトロを細くしたような女性医師・伏野ミチルと、ビジュアル系のロッカーのような風貌で怖がりの医学部の大学院生・伊丹崇、伊丹の小学校時代の同級生でガッチリした体型にセサミストリートの太い眉毛で大きな目のマペット似の風貌ながら動きのいい敏腕の刑事課の刑事・筧兼継をメインキャストに繰り広げられる法医学ミステリー「鬼籍通覧」の第5弾が本書『椹野道流「新装版 禅定の弓 鬼籍通覧5」』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

一章 この不確かな安らぎ
間奏 飯食う人々 その一
二章 聞こえても届かないふり
間奏 飯食う人々 その二
三章 解け残っている歪み
間奏 飯食う人々 その三
四章 もつれつ蜘蛛の糸
間奏 飯食う人々 その四
五章 希望の影を踏み
間奏 締めの飯食う人々
飯食う人々 おかわり!

となっていて、本巻の冒頭部で市内の学校や公園とかで頻発している動物殺害事件が出てきます。この場面では、シリーズ第3巻の「壺中の天」の後半で拾ってきた「ししゃも」を可愛がっている伊月が憤慨する様子が軽く描かれているだけなのですが、この事件が後で重要な意味をもってきます。

今回のメインとなる事件は、市内でおきたアパート火事で犠牲となった老人の解剖から始まります。この火事はアパートの一階に積んであった古新聞に火がつけられたもので、アパートの他の住人は逃げだすことができたのですが、この老人は認知症の傾向があって逃げ遅れたのでは、と推測されます。ところが、ミチルと伊丹が解剖を進めると、通常、火事で焼け死んだときに認められる火傷の生活反応が認められないため、他殺の線で捜査が始まることになります。ついでに付言しておくと、被害者の後頭部の髪の毛の中から「p・c」と刻印されたピンバッジも落ちてきて、これも後半部分で重要な手がかりになってくるので覚えておいてくださいね。

ただ、メインの事件というわりには、真犯人のほうはあっさりとわかってきます。このアパートに住んでいるフリーターの住人が夜食を買いにコンビニにでかけた帰り、火事騒ぎの30分くらい前に見慣れない紺色の:車が駐車していたのを思い出し、この車の持ち主をさぐったところ、近くの学習塾の副塾長をしている、そこの経営者の息子であることがわかります。そして、この息子を出頭させて取り調べたところ、あっさりと自分の犯行であることを自白。これで事件解決か、と思いきや、犯行動機とかについては「行きずりの犯行だ」と支離滅裂な自白をするばかりで要領をえないまま膠着状態を続けているといった状態です。

一方の伊丹の同級生の刑事・筧は、ベテラン刑事たちが、この放火殺人事件や別の事件にかかりっきりなため、冒頭に出てきた「動物連続殺害事件」を一人で担当させられています。はっきりいうと、新米ゆえに「おミソ」扱いされている、というわけですね。

ただ、この「おミソ」扱いの捜査が、意外な結果を拾いだしてきます。新たに幼稚園でおきた飼育ウサギの殺害事件の現場検証をしていると、その現場に、放火殺人で被害者の体から発見された「P・C」の刻印のあるピンバッジが発見され、さらに25㎝くらいの靴跡や、警備員から3~4人ぐらいの小柄な不審人物が侵入していた、という目撃証言も得ることができます。
その「P・C」の刻印のピンバッジは、放火殺人の容疑者として確保された副塾長の学習塾の「特進クラス」の生徒に特別に与えられるものであることがわかり、さらに、この副塾長が塾で遅くなった生徒たちを自分の車で家まで送ってやっていたこともわかり、と塾生や復塾長と二つの事件の関連性が疑われてきて・・という展開です。
少しばかりネタバレしておくと、疑り深い読者は、この塾に通う塾生たちに、凶悪な子供たち、といったイメージをもってしまうかもしれないですが、人殺しまではやってませんので念のため。

新装版 禅定の弓 鬼籍通覧 (講談社文庫)
火災現場からO医科大学法医学教室に運び込まれた老人の遺体。単なる焼死と思われ...

レビュアーから一言

第一巻から第三巻までは、事件の謎解きだけではなく、その事件に関わって不幸な最期をとげた人物の霊的な「復讐劇」も併せて描かれていて、法医学ミステリーだけでなく、ホラー・ミステリ―のところもあったのですが、第四巻以降、ホラーの部分がなくなってきているところに不満を持っている人もあるかもしれんですが、まあ、ミステリ―の本流に近くなってきた、と良い方向に解釈しましょう。「ミステリ―に中国人は登場させてはいけない」という格言に従えば、「ミステリ―に本物の幽霊を出してはいけない」というのも間違いのないところだと思います。

スポンサードリンク

コメント

タイトルとURLをコピーしました